午後冒険者ギルドでキノコの売却を完了した。
「んじゃあお金も入ったし、シエルちゃんは服を買おうか」
「え、私みゃう?」
「うん」
以前、ミーニャが買ったリユース服ゾーンに行く。
「あのね……わたしでも」
「さすがにその服はちょっと目立つから」
「そっか。どれにしようかな、みゃぅみゃぅ……」
探してきたのはピンクのほとんど同じ服だった。
「あのね、このピンクの服。お母さんが取り寄せてくれた、みゃう。お金なくて私を売るのにせめて服くらいはって言って、みゃぅ」
「なるほど、優しいお母さんだったんだ」
「うん。それから最後の日の夕食はトマト煮のスープを食べさせてくれたの。いつもはトマトは絶対ダメっていうみゃうのに」
「よかったね」
「うん。でも次の日に首輪をつけようとしてきた怖い人がきて、私は逃げてきちゃったみゃう」
「そっか」
奴隷商っておっかないイメージだからなんとなく気持ちはわかる。
なるほど、そういう理由だったのか。
それでトライエ市から三日以上離れた村なのかな。
そこから逃げてきて途中で脱走奴隷だと思われて捕まりそうになってまた逃げてきて。
トライエ市まで来て俺の家の前で力尽きていたということか。
新しいワンピースは前のワンピースの面影がある。
さすがに金貨はしないので、所持金の銀貨を渡して決済をした。
シエルちゃんは終始ご機嫌で、ワンピースをたまに眺めたりしていた。
そんなこんなで準備は進んで夜だ。
俺はミーニャとシエルちゃんに挟まれて眠ることになった。
少女のサンドイッチは温かいけれど、これはこれで青年思考の俺にはドキドキする。
一部屋にみんなで寝るからかなり狭くてくっつかないと寝れないのだ。
これは不可抗力なの。
両手に花、両手に花、と思って寝る。
さて朝になった。
さてうちの子になったので今度からシエルもミーニャ同様、基本呼び捨てとする。
お隣さんのルドルフさん、クエスさん夫婦に挨拶をする。
シエルを見て少し気にしている様子だった。お互い猫獣人なので気になることがあるのかもしれない。
しばらく留守にすることと、エッグバードの卵のお世話をお願いしてきた。
卵は食べてしまってもいいし、ギルドに売ってもいい。
もちろん売れるならドリドン雑貨店でも自分の露店でもいいけど。
たぶん一個銀貨一枚くらいにはなる。
俺の常識ではこの値段だとかなり高い。
実際にはもっと高いかもしれないけど知らない。
これだけでも一人なら生きていける値段だ。
普段は俺の紹介した籠作りを毎日しているはずだ。
販売ルートはあるので作れるなら何個でも大丈夫みたい。
すっかり安定収入になって顔色も前よりだいぶいい。
「はい、では留守はお任せください」
「んじゃ頼みました」
今日のギードさんとメルンさんはラニエルダに来たときに着ていた一張羅だ。
貴族のお忍びの衣装くらいの豪華さのそこそこ立派な服装だった。
俺とギードさんだけで先に城内に行き、商業ギルドで馬車を借りてくる。
当たり前だけど馬車だけではなく二頭の馬も一緒についてくる。
馬車のほかに、アースドラゴン土竜が引っ張る竜車、ランバードという走鳥が引っ張る鳥車がある。
馬車は二頭、土竜は一頭、走鳥は四羽で引く。
俺たちは普通の馬車を借りた。
土竜が一番力持ちで、走鳥が一番速い。
馬は平均的で一番安い。
一応、幌馬車だ。
ただし幌はかなりの年季のボロボロのものだ。
ギードさんは御者の経験があるそうなので大丈夫だった。
そしてエルダニアに運ぶ荷物を入れる。
これはトライエ市からエルダニアに最初から輸送する予定だったもので、俺たちが馬車をレンタルしたのを知った商業ギルドの人の依頼で輸送するものだ。
これで実質、馬車のレンタル料が割引になってほとんど無料だった。
しかし料金と保証金は先払いで、依頼料は後払いなので、先立つものが必要というね。
「では、出発」
御者席でギードさんが馬車を動かす。
俺は補助席に座ってそれを眺める。
馬はギードさんの指示に従ってゆっくりと動き出す。
二頭引きの馬車は最初はすごく遅くて少しずつ速くなっていく。
馬力が低いというか、そういうものらしい。
車ってもっと青信号でビューンと進んでいくけど、あれとは全然違った。
大通りを通って東門に向かった。
そして門の前で徐々にスピードを落とす。
馬車は車以上にすぐに止まれない。
原始的なブレーキは一応ついているけれど、そう簡単にはいかないらしい。
操縦には先を読む力が必要みたいだった。
ただ他に通行している馬車の数が多くないので、そのへんは楽だ。
ドリドン雑貨店のちょっと先に一度馬車を止める。
そこには家族とラニアが待機していた。
それ以外にも馬車が四台、停車している。
「エドぉ」
「ミーニャ、ラニア、シエル」
俺が補助席から手を振る。
「みんなは後ろね」
「はーい」
後部座席にみんなが乗り込んでいく。
荷物は俺のアイテムボックスにほとんど入っている。
万が一のため、イルク豆、着火装置、鍋、水筒などいくつかはそのまま積み込んでいる。
俺が死んだり行方不明になったときに、飢え死にしない最低限の装備を積んでいる。
ギードさんが前の馬車の列に挨拶に行った。
「どうも、エルフに連なるもののギードです。冒険者ランクは確かBだったかな」
「「おぉぉ」」
「こりゃ心強い」
「ブランクがありまして。今日から三日間、途中のエルダニアまでですがよろしくお願いします」
「はいよ。じゃあ隊商、出発」
待っていたのは一緒に行動してくれる隊商だった。
複数の商人が護衛を出し合い行動を共にすることで、犠牲を減らすのだ。
馬車は再び進みだして街道を進む。
うちの馬車は最後尾だ。
えっとエクシス森林とエルトリア街道だったと思う。
エルトリア街道はエルダニアとトライエをつなぐ街道だ。
間には小さい町が一か所あるだけで、あとはその前後に野宿が一回ずつある。
見張り山からはるか遠くにエルダニアが見えていると言っても、その距離はかなりある。
馬車はトコトコ進んだ。
エクシス森林を左手にメルリア川を右手にしてエルトリア街道をひたすら進む。
街道は途中から細くなって馬車一台分の幅しかない。
これではすれ違いできないと思うんだけど、500メートル間隔くらいで待避所みたいな広くなっている場所がある。
中には広い待避所もあって、沢が近くに流れていて小さな橋があり、煮炊きをした形跡があった。
隊商の馬車は街道を進んでいく。