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56.トマトパスタ


 俺は一足先にスプーン作りを終えて、今日のお昼を作ろうと思う。

 メルンさんも治療のお客さんがいち段落したので、手伝ってくれる。


 以前、俺は遊び歩いているか城内でアルバイトだし、ギードさんは日雇い労働だったので、家を空けがちだった。

 ミーニャは俺の後ろを歩いてお手伝いだった。


 それで家にはメルンさんだけだったのだけど、今は人がいる。

 治療をしている横でなにか作業をしていると気にならないのだろうか、とは思うけど部屋の仕切りとかないのでこれはしょうがないのだった。


 最近好評のトマト料理。

 トマトがわりと高級品なのもあって、食べたことがある人は少ない。


 先に小麦粉に水を入れて団子を作る。

 その大きい団子を適当な棒で伸ばして平らにしていく。


 何回も伸ばして折り畳み、ナイフで細く切った。


 ご存じ「麺」のできあがりだ。

 うどんのような何かができた。


 一応、イメージとしてはスパゲッティーミートソース? トマトソースだ。

 麺は円形ではないので、フィットチーネのような形になった。


 トマトをつぶしたスープに、イノシシ肉、ニンニク、塩、ホレン草、サニーレタス、タンポポ草、固形のトマトと入れていく。


 今日はシエルちゃんもいるのでこの前草原を通ったら見つけた秘蔵のエルダタケも入れよう。


 キノコ知識のおさらい。

 草原の切り株に生えるエルダタケはそこそこ美味しいキノコで、毒キノコに似ているのであまり食用にされない。

 同様に草原に生える通称ムラサキキノコ、ムラサキメルリアタケはすごく美味しい。たまにしか見つからない。金貨かもしれない筆頭キノコちゃんだ。

 エクシス森林の倒木で見つかるウスベニタケもかなり美味しい。こちらも金貨候補だ。この前採ったのを提出を忘れたままなのでアイテムボックスに1株ある。

 あとやはり倒木に多いキクラゲ。好きな人は割と好きだろう。


 今採れるキノコのシーズンもそろそろ終わりそうな気配なので、はやめに採取したい。

 ウスベニタケははやくギルドに卸しに行かないと。


 最近、キノコ探索はあまりやっていないので、力を入れたいところだけど、先に出かけないといけないという。

 やることは無限にあるな。


 いやまてよ。一人増えたので四人で草原探索というのもいいかもしれない。

 森探索のほうが新しい植物を見つけやすいが、草原もまだ見出していない種類の草はかなりある。


「あのスラムでトマトなんて!? あっごめんなさい。口出しなんてして。食べさせてもらってるのに」

「いや、いいんだ。トマト知ってる?」

「はい。……あの村の特産品なんみゃだけど、高級品なので村ではほとんど食べられないの」

「そっか、そうだよな」


 高級で生産者は口にできないというのはたまにある話だ。

 特にトマトなんかは傷んだものも潰してトマトソースにすれば売れるんだから、余り物がない。

 地球ではカカオなどが筆頭だろうか。


「(ごくり)トマトだけじゃなくて、お肉に野菜まで」

「あぁ、うちはなるべく健康に具だくさんにしたいんだ」

「すごいみゃう」

「まぁ自分で採ってきたものがほとんどだからお金は掛かってないんだけどね」

「へぇ、それはそれで違う意味で、すごいみゃうね」


 べた褒めされるのも、これはこれで結構恥ずかしいな。

 ミーニャは「半分エドはこういうもの」と思ってるし、素直な賞賛はむずむずする。


「ミーニャ、それからシエルちゃんも、少しいい?」

「なぁに? エド」

「はいっ」


 命令待ちのこの子たちは、素直でわんこみたいでかわいい。

 それはさておき。


「ラニア迎えに行ってきて。たぶん料理食べたいでしょ」

「うんっ」

「あ、それから本来は俺が行くべきなんだけど、シエルちゃんの紹介もよろしく」

「わかった」


 今はソースを作って、これからパスタもどきうどんを茹でなければならない。


 茹ですぎはよくないし、さすがにすべてメルンさんの勘にお任せはちょっと怖いし無責任だ。


「行ってきます」

「行ってきますみゃう」


「二人とも、気をつけて行きなさい」

「二人とも、行ってらっしゃい」


 メルンさんと俺に見送られていく。


 手を振って、二人で手をつないで出ていった。

 やっぱり仲良しさんになって俺はうれしい。


 さすがにこの子たちに限って、二人きりになった瞬間から演技をやめてツンツン攻撃的になる裏の顔があるとか、ないよね。

 ないといいな。こんな小さな子が裏では敵同士とか怖い。


 まだ六歳ぐらいだもんな。ありえないか。

 よかったぁ。心配しすぎだよな。



 ちょうどパスタが茹で上がったころに三人になって戻ってきた。


「おう、三人ともおかえり」

「「ただいま」」

「その、ただいま、みゃう」


 ラニアはだいぶうちの子化している。

 その点、シエルちゃんはまだよそよそしく顔を赤くして返事をした。


「いい匂い。ミーニャ、トマトすきぃ」

「私も私も、この前から好きになりました」

「私もトマトは好きみゃう」


 みんな好きそうでよかった。


「ラファリエール様に感謝して、いただきます」

「「「いただきます」」」


 スプーンとフォークでなんとか食べる。

 麺を掬い上げるのにみんな苦労しているものの、なんとか食べていた。


「んっ」

「「「美味しい」」」


 異口同音という通り、みんな同じ台詞だった。

 一言感想が義務だとでもいうのか、また麺を食べる作業に戻る。


 もちろんメルンさんとギードさんも舌鼓を打っていた。


「お肉もうれしいみゃう……」

「だよねぇ」

「そうですね」


 パスタはあっという間にみんなのお腹に消えた。

 多めに作ったのにお代わりですぐに鍋は空になった。


 幼女三人が膨らんだお腹をさすって、ぽんぽんしていた。

 なんだかすごくかわいい。

 これ見てるだけでも癒される。


 ところで、さすがに二人も多いと少し狭い。

 引っ越しの時期だろうか。


 かといって引っ越す先がない。

 トライエ市周辺を離れるのはまずい。

 母親は行方不明だが戻ってくるらしいし。

 ラニエルダからトライエ市内に移り住むのはありだ。


 ただ収入が安定して、そこそこないと賃貸料がネックになる。

 スラム街の家は一応、違法建築物であって、家賃が掛かっていない。


 領主が黙認していて、領主の土地ということになっているため、誰も賃料を取ろうとしないのだ。

 勝手に土地代をせしめたらそいつが犯罪者になる。

 スラム住人にはありがたい制度だ。

 黙認ではあるが領主の誠実さにみんな感謝はしている。


 ただし初期に避難民を城内に入れない政策をしたのはエルダニアの元住人はあまりよく思っていない。

 いくら治安維持のためとはいえ「領主は人でなし」とスラムでは言われている。


 俺は後で流れ着いた人なので、初期のいざこざは見ていないというか生まれる前だけど、領主の肩もエルダニア市民の肩も持ちにくい。

 その後のラニエルダの治安はよくなるのに数年かかったことを考えれば領主の方針は正しかった。

 しかし避難民からしたら城壁に入れないのは死の危険と隣り合わせなのだ。

 笑って許せるほど能天気はいない。


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