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44.イノシシの納品


 いつものように冒険者ギルドへ到着。

 ドアを開けるとカウベルが鳴る。


 夕方にはまだ早い時間なので、クエストカウンターは暇そうだ。


「こんにちは、エルフのお姉さん」

「あっ、こんにちは。ようこそ、エルフ様」


 ささっと姿勢を正して頭をミーニャに対して下げる。


「あの、大イノシシを倒したんだけど、森で」

「あなたたちが? でもエルフ様もいるし、装備は結構強そうですものね。わかりましたわ」

「えっと?」

「裏の解体場へどうぞ」

「あ、はい」


 俺たちはお姉さんの後に続く。

 そうしてギルド裏のモンスター解体場に到着した。

 正確にはモンスターだけでなく動物もやってくれる。


 そしてイノシシはというと動物に近いが分類上はモンスターらしい。


「なに、この坊主たちが大イノシシを倒してきただとぉ」

「え、はい、そうらしいです」

「装備はいいもの持ってるが、でブツはどこだ? マジックバッグか?」

「はい。どこへ出したらいいですか」

「こっちだ」


 正確にはマジックバッグではなくアイテムボックスだけど、これは偽装にちょうどいいので勘違いはそのままにしておく。


 低くて大きい作業台に案内された。


「それじゃあ出します」

「おぉ」


 大イノシシを取り出す。


「うぉおお、なんだこれ」

「デカいですね。親方」

「これをこの子たちがか。にわかには信じられねぇな」


 作業員たちも目を丸くしていた。


「じゃあお願いしていいですか?」

「ああ、いいよ」


 そうしてみるみるイノシシにナイフが入れられ解体されていく。

 内臓、これは捨てられる。

 俺からしたらもったいないと思うんだけど、この世界の慣習ではそうらしい。以前ウサギを解体したときもそうだった。


 肉、骨、皮、と分解が進む。


 そして胸の中央にナイフを入れた。


「これが魔石だ」

「でかいっすねぇ」

「おぉ、こんなの最近あんまり見たことないっすね」


 かなり大きな魔石だった。


「普段は西の森のオオカミとかが多いですから、これよりはだいぶ小型です」

「なるほど」


 エルフのお姉さんが教えてくれる。


「ヌシほどではないですが、群れのボスクラスですね」

「やっぱりそうか」


 いやはや、本当、群れになってなくてよかった。

 ボスクラスであってボスではないということだろう、たぶん。


 新鮮なお肉が次々切り分けられていく。


「そうだった。お肉、いくぶんか家で食べたいので、取り分けてくれますか?」

「もちろん。わかりやしたぜ、坊ちゃん」

「坊ちゃんはやめてください」

「そうかそうか」

「えっと、スラムのエドです」

「スラム在住なのか? その装備で? まぁいろいろあるか。わかった、エドなエド」

「はい」


 ミーニャはお肉に興味津々だ。

 唐揚げはあまりしないかもしれない。

 豚肉みたいな感じだから、生姜焼きとかがいいだろうか。

 薄切り肉の焼いたものとかもいいと思う。

 あとはしゃぶしゃぶとかも。


 ラニアは解体作業自体に興味があるようで、よく観察していた。

 なかなかの集中力だ。


 なんだか見ているうちに終了した。


「はい、解体終わったぜ」

「ありがとうございます」


「では清算いたしますね。お肉のうち二割をエド様へ、魔石を含め残りはギルドで引き取りでよろしいですか?」

「はい」

「では解体費用を引きまして、金貨十五枚になります。こちらもよろしいですか?」

「いいです」

「では、お肉をそこで貰ってから、受付カウンターで金貨を渡しますね」

「はい」


 ということでお肉を貰い、ギルドフロアに戻って金貨を受け取った。


 なかなかの収入になった。

 ジャムとかの変化球以外で、こうして冒険者稼業で大金を儲けたのは初めてのはずだ。


「じゃあいつもの、分け前金、ラニアに金貨五枚でーす」

「あっあっ、ありがとうございます、エド君」

「そりゃあね。はい。あれだけのファイア見たことないよ」

「えへへ、ありがとう」


 ラニアに金貨をそっと渡す。


「うふふ、あはは」


 ラニアがギルドから出ると笑いだす。


「どうしたラニア、壊れちゃった?」

「違いまーす。私、すごく、すごく怖かったんです。でもみんなで協力して攻撃して、強い敵にも勝てたんです。それからギルドの人が信じられないって顔しているのを見て、私も信じられないくらい強いんだなって」

「そ、そうか」

「エド君も強くて、私、うれしいです」


 ラニアが抱き着いてくる。


「にゃぁ」


 それを見てミーニャもよくわかっていない顔のまま抱き着いてくる。


 二人がくっついてくると温かい。

 春はもう寒くはないけれど、こういう暖かさは骨に染みる。

 そして、俺の心にも。


 俺を中心にして左にラニア、右にミーニャと手をつないで帰っている。

 二人ともかなりご機嫌だ。


 ん~るるる~らるる~れっららら~♪


 二人で俺の知らない曲をハミングなんてしちゃっているのだ。

 俺の知らないことがあって少しショックだ。

 女の子だけの秘密なのだろうか。

 謎だ。


 今日の晩ご飯はイノシシ肉の生姜焼きにしよう。

 ショウガは野草だったものがある。


 ラニエルダのスラム街。

 最初は豆しか食べられない貧乏生活だった。

 なんとか野草を食べることで少しずつ改善して、森へ行き、ブドウジャムとイチゴジャムなんかを売って稼ぎ、剣と杖を買って、防具を買って、ゴブリンやウサギを倒して。

 ついに大イノシシを倒せるまでになった。


 それでも主食は今でも豆だったりする。

 野草と野生の野菜、干し肉を使った料理が中心だ。


 徐々にいろいろなものが食べられるようになってきた。

 この前は卵をゲットした。

 いま卵は二つストック中だ。今度はオムレツに挑戦したい。


 俺たちの冒険、食生活の向上はまだ始まったばかりだ。

 まだまだ、貧乏暮らしとの戦いは続いていく。



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