いつものように冒険者ギルドへ到着。
ドアを開けるとカウベルが鳴る。
夕方にはまだ早い時間なので、クエストカウンターは暇そうだ。
「こんにちは、エルフのお姉さん」
「あっ、こんにちは。ようこそ、エルフ様」
ささっと姿勢を正して頭をミーニャに対して下げる。
「あの、大イノシシを倒したんだけど、森で」
「あなたたちが? でもエルフ様もいるし、装備は結構強そうですものね。わかりましたわ」
「えっと?」
「裏の解体場へどうぞ」
「あ、はい」
俺たちはお姉さんの後に続く。
そうしてギルド裏のモンスター解体場に到着した。
正確にはモンスターだけでなく動物もやってくれる。
そしてイノシシはというと動物に近いが分類上はモンスターらしい。
「なに、この坊主たちが大イノシシを倒してきただとぉ」
「え、はい、そうらしいです」
「装備はいいもの持ってるが、でブツはどこだ? マジックバッグか?」
「はい。どこへ出したらいいですか」
「こっちだ」
正確にはマジックバッグではなくアイテムボックスだけど、これは偽装にちょうどいいので勘違いはそのままにしておく。
低くて大きい作業台に案内された。
「それじゃあ出します」
「おぉ」
大イノシシを取り出す。
「うぉおお、なんだこれ」
「デカいですね。親方」
「これをこの子たちがか。にわかには信じられねぇな」
作業員たちも目を丸くしていた。
「じゃあお願いしていいですか?」
「ああ、いいよ」
そうしてみるみるイノシシにナイフが入れられ解体されていく。
内臓、これは捨てられる。
俺からしたらもったいないと思うんだけど、この世界の慣習ではそうらしい。以前ウサギを解体したときもそうだった。
肉、骨、皮、と分解が進む。
そして胸の中央にナイフを入れた。
「これが魔石だ」
「でかいっすねぇ」
「おぉ、こんなの最近あんまり見たことないっすね」
かなり大きな魔石だった。
「普段は西の森のオオカミとかが多いですから、これよりはだいぶ小型です」
「なるほど」
エルフのお姉さんが教えてくれる。
「ヌシほどではないですが、群れのボスクラスですね」
「やっぱりそうか」
いやはや、本当、群れになってなくてよかった。
ボスクラスであってボスではないということだろう、たぶん。
新鮮なお肉が次々切り分けられていく。
「そうだった。お肉、いくぶんか家で食べたいので、取り分けてくれますか?」
「もちろん。わかりやしたぜ、坊ちゃん」
「坊ちゃんはやめてください」
「そうかそうか」
「えっと、スラムのエドです」
「スラム在住なのか? その装備で? まぁいろいろあるか。わかった、エドなエド」
「はい」
ミーニャはお肉に興味津々だ。
唐揚げはあまりしないかもしれない。
豚肉みたいな感じだから、生姜焼きとかがいいだろうか。
薄切り肉の焼いたものとかもいいと思う。
あとはしゃぶしゃぶとかも。
ラニアは解体作業自体に興味があるようで、よく観察していた。
なかなかの集中力だ。
なんだか見ているうちに終了した。
「はい、解体終わったぜ」
「ありがとうございます」
「では清算いたしますね。お肉のうち二割をエド様へ、魔石を含め残りはギルドで引き取りでよろしいですか?」
「はい」
「では解体費用を引きまして、金貨十五枚になります。こちらもよろしいですか?」
「いいです」
「では、お肉をそこで貰ってから、受付カウンターで金貨を渡しますね」
「はい」
ということでお肉を貰い、ギルドフロアに戻って金貨を受け取った。
なかなかの収入になった。
ジャムとかの変化球以外で、こうして冒険者稼業で大金を儲けたのは初めてのはずだ。
「じゃあいつもの、分け前金、ラニアに金貨五枚でーす」
「あっあっ、ありがとうございます、エド君」
「そりゃあね。はい。あれだけのファイア見たことないよ」
「えへへ、ありがとう」
ラニアに金貨をそっと渡す。
「うふふ、あはは」
ラニアがギルドから出ると笑いだす。
「どうしたラニア、壊れちゃった?」
「違いまーす。私、すごく、すごく怖かったんです。でもみんなで協力して攻撃して、強い敵にも勝てたんです。それからギルドの人が信じられないって顔しているのを見て、私も信じられないくらい強いんだなって」
「そ、そうか」
「エド君も強くて、私、うれしいです」
ラニアが抱き着いてくる。
「にゃぁ」
それを見てミーニャもよくわかっていない顔のまま抱き着いてくる。
二人がくっついてくると温かい。
春はもう寒くはないけれど、こういう暖かさは骨に染みる。
そして、俺の心にも。
俺を中心にして左にラニア、右にミーニャと手をつないで帰っている。
二人ともかなりご機嫌だ。
ん~るるる~らるる~れっららら~♪
二人で俺の知らない曲をハミングなんてしちゃっているのだ。
俺の知らないことがあって少しショックだ。
女の子だけの秘密なのだろうか。
謎だ。
今日の晩ご飯はイノシシ肉の生姜焼きにしよう。
ショウガは野草だったものがある。
ラニエルダのスラム街。
最初は豆しか食べられない貧乏生活だった。
なんとか野草を食べることで少しずつ改善して、森へ行き、ブドウジャムとイチゴジャムなんかを売って稼ぎ、剣と杖を買って、防具を買って、ゴブリンやウサギを倒して。
ついに大イノシシを倒せるまでになった。
それでも主食は今でも豆だったりする。
野草と野生の野菜、干し肉を使った料理が中心だ。
徐々にいろいろなものが食べられるようになってきた。
この前は卵をゲットした。
いま卵は二つストック中だ。今度はオムレツに挑戦したい。
俺たちの冒険、食生活の向上はまだ始まったばかりだ。
まだまだ、貧乏暮らしとの戦いは続いていく。