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42.唐揚げ定食


 さて少し待ったら唐揚げ定食がメイドさんにより運ばれてきた。


 ちなみに当たり前かもしれないが、この世界では唐揚げくらいは普通にある。

 俺がこの世界に初めて持ち込んでやる、みたいなことは少ない。


「にゃぁ」

「うわぁ」


 ミーニャもラニアも目を輝かせて運ばれてくるのを目で追っている。

 唐揚げからは湯気が立ち、いい匂いがすでにしている。


 他にいる何人かの冒険者もその匂いに釣られて釘付けになっていた。


「唐揚げ定食、おまちどおさまです」

「はいっ」


 ミーニャが元気な声を出して、耳の先までピクンとする。

 エルフ耳がピクピク動いていた。


 メイドさんは二つ持ってきたので、軽く笑顔を浮かべてミーニャとラニアの前に置いていく。


「んっんん」

「いい匂い」


 ラニアも匂いを嗅いで、たまらなそうな顔をしていた。


 再びメイドさんが来て、俺の分の唐揚げ定食を置く。


「それでは銅貨十五枚になります」

「あ、ああ」


 俺はお金を支払う。


 参考までに以前の一日の収入は銅貨三枚、いい日で銀貨一枚だった。

 銅貨十五枚は1,500円くらいだろうか。

 一食500円だと思えば、そこそこ安い。


 ここでは冒険者が多いので少しだけ信用されていて、支払いは交換制となっている。

 多くの店では客の信用がないので、先払いだったりする。

 紹介制などの高級店は後払いだと聞いたことがある。

 高い店とは縁はほとんどないがたまに雑用などをくれることがあるので、関わり合いはある。


「ラファリエール様に感謝して、いただきます」

「「いただきまーす」」


 ラニアの神への挨拶のあと、俺とミーニャも続く。

 みんなで食べ始める。


「うまっ」

「美味しい」

「ああ、ジューシーで旨味があって、美味しいな」


 中レベルのパンと唐揚げが6個、お皿にのっている。

 唐揚げの皿の隅にはふかしたジャガイモが切って添えてあった。

 唐揚げ1個は一口で食べきれないくらいの大きさで結構ボリュームがあった。


「うま、うまっ」


 バクバク食う二人を見ながら、俺もアツアツの唐揚げにかぶりつく。

 中から旨味が染み出してくるみたいで、すごく美味しい。


 調味料は塩だけど肉を出汁か何かに漬け込んであったようだ。

 なるほど、参考になる。


 外食とか記憶がある限りでは初めてだ。

 スラム街に越してきてから、こういう店で食べたことはない。

 母親のトマリアの作る料理はそこそこ美味しかったので、不満もなかった。

 その母がいなくなって、俺たちは豆ひとすじだったのだが……。


 たまにパンもちぎって口に入れる。

 味が濃い唐揚げと、薄味のパンを交互に食べると非常にうまい。

 パンはほんのり甘い気がするので、塩味と甘味でちょうどいい感じになっている。


 外食も素晴らしいな。

 ただしスラム育ちにはどの店に行ったらいいか、全然わからないということはある。


「うみゅ」

「お腹いっぱい、です」

「ああ、結構食ったな」


 ミーニャのお腹が膨らんでいる。かわいい。

 イカ腹みたいで一部の人には好評そうだ。

 ぽんぽこぽんで、お腹をさわさわとさすっていた。


 いっぱい食べて大きくなあれ。


 まぁ小さいのもかわいいから好きなんだけどね。


 冒険者ギルドを出る。


 食休みだ。

 噴水があるので、少しここで休憩していこう。


「噴水の前のベンチで休憩しよう」

「いいよ」

「うん」


 ベンチがあるのもさすが都会だ。

 外のスラム、ラニエルダではそうはいかない。

 だいたい家の外にベンチなんて置いておいたら持ってかれてしまうだろう。

 それで売られてしまう。


 ハトだろうか。

 異世界の鳥なので自信はないがハトっぽい鳥が数羽、噴水のところで水を飲んでいた。

 鳥も食べるだけでなく、水飲んだり、水浴びしたりするんだよな。


「ハトも美味しいかな」

「あ、ああ、それなりに美味しいんじゃないかな」

「へぇ、ごくり」


 ごくりっていった。あれだけ唐揚げ食べて、まだハトの唐揚げ食べたいですかね。

 食べ比べはしてみたいものの、ハトはどうですかね。


 子供が数人、噴水の近くで走り回って遊んでいる。

 人族の女の子が1人、猫獣人の姉妹だろう2人。

 年齢からすると俺たちと同じくらいか。


 どの子もなかなかかわいい。


 服装は色のついたワンピースなので街の子だろうとは思う。

 中流階級くらいに見える。


 俺たちの冒険者風の格好に一瞬、興味を持ったようだが、すぐに興味をなくして向こうのほうで追いかけっこをしている。

 すぐ触ってタッチ、鬼が交代してまたタッチ。


 足が速い子とかいると一方的になるが3人はなかなか拮抗きっこうしていて、いい感じだ。


「こうしてると平和だな」

「そーだね」

「はい」


 俺たちは街にいるなら平和だけど、森へ行くとなると途端に戦場になる。

 ゴブリンや他の魔物と戦わなければならない。


 それが今、給料を上げる手段として機能しているので、戦わないわけにはいかないのだ。


 魔石の収入はぼちぼちだが、ないよりはましだろう。

 毎日ゴブリンの魔石を取るだけでも生活はなんとかなりそうだ。


 ただし森にはゴブリン以外も出没することがある。

 見張り山周辺には一角ウサギもいるし。


 そして、さらに強い魔物も稀ではあるがいるのだ。

 だから防具を買った。

 ポーションもある。


 なるべくできる対策はしておきたい。


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