日曜日。
街にある教会の鐘の音で朝起きると、いきなりの朗報が待っていた。
「おはよう、ミーニャ」
「おはよぅエドぉ」
「コッケココ」
エッグバードが卵を産んだのだ。
いきなりか、と思ったけれど、すでに成体だし元々毎日のように産むのであれば、いきなり産まなくなるほうが変かもしれない。
環境が変わると産まなくなるかもしれなかったので、少し心配していたのだ。
卵は草を敷いた巣もどきの上にちゃんと置かれていた。
卵の上には一応、エッグバードが座っていたけれど、ちょっとどかしてみたら卵が下から出てきたのだ。
「ごめんね、でも卵くださいな」
「コッケ、ココッココ」
別に抗議ではないようだけど、鳴き声を上げた。
卵を小さい籠に入れて、様子を見る。
卵がなくなってしまったけど、エッグバードはおとなしく自分の巣に座っている。
特に騒いだりはせず、逆に落ち込んだりしている様子もない。
鳥だから何考えてるかよくわからないけど、大丈夫そうだ。
さっそく朝ご飯に使ってみる。
1個しかないのでスープに入れることにする。
ホレン草と卵とタマネギのスープだ。
ホレン草とタマネギを入れて茹でて沸騰させる。
ボウルの代用の深皿に卵を割り入れて、スプーンでかき混ぜておく。
「これが卵なの?」
「そう。黄色いのが黄身、周りの透明なのが白身だよ」
「ふうぅん。カエルの卵とは全然違うね」
「まあね」
ミーニャの中では卵はカエルのイメージなのだろう。
「カエルの卵だと思うと、あんまり美味しそうじゃないね」
「全然違うんじゃないかな、カエルの卵は食べたことないけど」
「そうなんだ」
さて、カエルの卵の味はともかく、ニワトリの卵にそっくりなので大丈夫だろう。
溶き卵を円を描くようにスープを混ぜながら入れると、黄色い卵が薄絹のように広がっていく。
「わわ、なにこれ、すごい」
「ああ、結構綺麗だよな」
こうして日本で言うところの「かきたま汁」に近いものが出来上がった。
本当はプレーンオムレツが好きなのだけど、あれは卵が3つくらいないと大きく作れない。
みんなで一つを分けるとしたら、かきたま汁がいいかなと思ったのだ。
超定番の卵料理であるプリンもみんなで食べるなら卵1個では無理だ。
エッグバードの卵は鶏卵より気持ち大きい程度だから。
他の料理も作ってもらい、みんなで朝ご飯だ。
ラニアがいないのは可哀想かもしれないけれど、また次の機会に卵料理をごちそうしよう。
「いただきます」
「おぉお、懐かしいね、卵だね」
「これが卵料理なんだね」
さすがメルンさんとギードさんは知っているご様子。
一方のミーニャは初めて見たから、まだ若干疑っている。
「美味しいね」
「なんだかふわふわしてて面白いね。風味もいいね」
卵スープはなかなかの好評だった。
ニワトリに似てるし美味しいらしいと評判だったので、心配はしてなかったけど、実際のところはわからなかったので、これで一安心だ。
卵が入手できるとなると、作れるレシピ、改善される料理が大量にある。
現代日本ではいろいろな料理で卵を使う。
使わなくてもなんとか作れるものもあるけれど、風味とかいろいろ変わってしまう。
パンだって粉に卵を混ぜたり、表面に卵黄を塗ったりするし、フライやとんかつでもパン粉の前に卵液につけると思う。
ハンバーグにも卵を入れる。入れる理由までは知らないが。
いわゆる卵料理ではなくても、そうやってかなり使うらしいのだ。
メインは卵料理として使うとは思うけど、こうして一つ食生活が豊かになるのはうれしい。
欲を言えばこの鳥、4羽くらい欲しい。
そうすれば家族4人で毎日食べられる。
レアモンスターというから難しいが、なんとかしたい。
長期計画には入れておこう。
「ねえ、もう卵は産んだから、解体して唐揚げにしてもいいの?」
「おいミーニャ、誤解してるぞ」
「え、なんで? 唐揚げ好きだよ?」
「そうじゃなくて、卵はほぼ毎日産むんだよ。だからこれからもお肉にはしないんだ」
「そうなんだ。唐揚げ食べたかったなぁ」
「またウサギの唐揚げ食べよう。それで我慢して」
「わかったっ」
あやうくお肉にされてしまうところだったエッグバード。
ミーニャはエッグバードを見て、よだれを垂らしそうな顔をしている。
まだ唐揚げにする気なのだろうか。
ミーニャに唐揚げにされてしまわないように監視しないとな。
もっともミーニャは俺にべったりだから、隙はそれほどないから大丈夫か。
さてどうしたものか。
とりあえずエッグバードの餌や敷物として草を調達してくるか。
ついでに野草も採ってきて、野菜の代用などにもしようか。
今日は日曜日だから、夕食は豪華になる予定だ。
最近では平日も割合いいものを食べているとはいえ、やっぱり日曜日は特別だ。
そういう宗教であるのと、パンの有無も大きい。
日曜はパンの日なのでジャムの需要が高い。これはジャムが売れる気配がする。
城内からも噂を聞き付けた人がまた買いに来るらしく、ちょくちょく売れているそうだ。
「いひひ」
「エド、悪い顔してる」
「ジャムは儲かるなって思って」
「あーうん、そうだにゃ」
白い目で見てくるミーニャを眺めながら、今日の予定を考えた。