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36.スライム


 金曜日、午前、エクシス森林。


 ゴブリン戦からまだ、その辺を徘徊はいかいしている。

 サトイモをまた見つけて、収穫した。


「おおお、これはブドウの木じゃん」


【ヤマブドウ 植物 食用可】


 ちょっとピークを過ぎて熟しすぎているけれど、食べられないわけでない。

 紫の実が美味しそうだ。


 ちょっと味見をしてみる。


「んっ、甘い」

「んんんっ、すごい、甘くて美味しいわ」

「にゃああ、美味しい」


 これなら十分いける。


「よし、傷んでるの以外、全部採ろう」

「「はーい」」


 一所懸命ブドウを収穫する。

 高いところも、協力して軽いミーニャを持ち上げたりして採った。


 次々にアイテムボックスに放り込んでいく。

 レベルアップしたからか、アイテムボックスの容量も背負いバッグ2個分から、4個分に倍増していた。


 ブドウの収穫は2回目だけど、房ごと採って集めていく。

 またジャム作りがはかどる。


 ブドウを集め終わり、その辺をめぼしいものがないか周回していたところ、ゴブリン3匹とまた遭遇した。


「ゴブリンだ」

「やっつけましょう」

「やるよん」


 今回も、さくっと倒してはい終わり。

 といきたかったんだけど。


「ゴブゴブ」


「ぐ、くそう」

「離れてください、私が。燃え盛る炎よ――ファイア」


 俺がミスったのをラニアが加勢してくれて、一撃で倒す。

 これで3匹を仕留めた。


「しくった。すまん」

「ううん。今、ヒールするね。癒しの光を――ヒール」


 俺をミーニャの暖かい緑の光が包み込む、直撃を受けた左肩の痛みが引いていく。


「おおぅ、すげーきく。ヒールさんきゅ」

「はい、お役に立つんだもん」


 ミーニャの頭を撫でてやる。

 にへりゃと顔を崩す。たっぷりお礼をした。


 ゴブリンから魔石を取り出すと、俺たちはその場を後にする。


 そしてまたしばらく移動して、ふと気になっていた生物へと目を向ける。


「そういえばさ、スライムってよくその辺にいるよね」

「はい」


 俺たちの前には、30センチくらいのスライムが歩いていた。

 普通、昼間は木の葉の下などに隠れている。

 ここは森の中なので、若干暗く、こうして地上を歩いている個体もいるのだ。


 雨の降ったときなどは昼間も活動していて、スラム街を歩いているやつもいる。

 翌日まで残っていると、子供たちの格好の遊び相手になった。

 ボロボロにされたスライムはトイレに捨てられて、種スライムの一員になる。


 ということで、あまり相手にされていないのだが。


「ミーニャもラニアも敵を倒すと、それに応じて強くなるってのは知ってる?」

「ええ、なんとなく」

「知ってるよ」


 二人ともうなずいた。


「そこでですよ。こうして風景みたいにいるスライムも一応、魔物なんだよね」

「そうだね」

「はい、そうですよ」


 さらに同意する。


「たくさんいるスライムを倒して歩いたら、さらに強くなれるのでは」

「なるほど、です」

「ほえぇえ」


 よし、試しにやってみよう。

 目の前のスライムを剣で攻撃、魔石を奪取する。


【スライムの魔結石 魔石 普通】


 普通ではあるけどサイズは他の魔物より一回り小さく、1センチぐらい。

 ゴブリンが3センチ、一角ウサギは2センチ。


 値段は安いだろうけど、これも収入になる。

 魔石はそのまま魔道具の核などになるほか、粉にして魔力粉としても使われるんだと思う。


 その辺を移動しながら、木の葉や木などに隠れているスライムを探して、倒していく。


「スライム、発見、えいやぁ」


「こっちにもスライムです。ほいほい」


 魔法を使うまでもなく、杖で攻撃するだけで十分いける。


 目を凝らして探せば、スライムはいくらでもいる。

 最近雨が降っていたので、数も増えているのかもしれない。


 15匹くらい倒したところだろうか。


「んんっ」


 変な感じが全身を突き抜けていった。

 前より力があるような気がする。


「なんか、変な感じしましたね」

「なんだろうね」


 二人も感じたらしい。

 どうもパーティー編成をしていると、平等に経験値が分けられているようで、俺たちは今までも同じタイミングでレベルアップしていた。


 なんとなくアイテムボックスの容量がバッグ4個分から6個分くらいありそうな感じがする。

 ただの感覚だけど、感覚もバカにできない。


 レベルアップに必要な経験値量は普通のゲームならレベルが上がるたびに増える。

 例えば、2、4、8、16のように最初のほうは倍々になるのが多い。

 今までの敵の数と強さを加味してもそんな感じだ。

 次はスライム換算で30匹ぐらい必要ということだろう。


 ちょっと多いので、あきらめて帰ろう。


 適当に徘徊していたルートを南へ戻る。


 帰り道の途中では、ゴブリンにも遭遇せず、なんとか戻ってきた。


 お昼ご飯を食べて、午後はまたブドウジャムを作った。

 うちのコンロの魔道具は大活躍だ。

 本当にコンロがあってよかった。薪だったらとてもジャムなんてずっと作っていられない。


「ジャム、できました」

「完熟ブドウジャム……じゅるり」


 もう二人はヨダレが出そうだ。


「食べていいぞ」

「「いただきます」」


 神への挨拶すら忘れて、パンにジャムを塗り、口に放り込む。


「「おいしー」」


 二人はご満悦。

 俺とメルンさんとギードさんは苦笑だ。自分たちももちろん、試食をした。

 過去一番甘い。美味しかった。


 完熟ブドウジャムの販売用ビン十個が目の前にある。

 もちろんこれとは別に自宅用、保管用、ドリドンおじさん用、ラニア家用があった。


 夕方、ドリドン雑貨店にお邪魔する。


「おっちゃん。ブドウジャムなんだけど、追加。十ビン。前より甘い完熟のブドウ」

「おおぉ」


 俺は試食用をひとビン渡す。


 奥さんを呼び、また販売用パンを取り出して、ドリドンさんが食べ始める。


「すごく、甘い。美味しい」

「美味しいわ、これなら高く売れるわね」


 ジャムは好評だったので、今回も販売されることになった。


「一つ、7,000ダリル。手取り6,000ダリルでいいか?」

「いいの? おっちゃんの儲けが少ないけど」

「いいんだ。これぐらいなら大丈夫」


 値段にして金貨六枚の収入が約束されたのだった。

 捕らぬラクーンの皮算用、とは言うけどこれは確定だ。


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