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22.天ぷら


 日曜日。


 ゴーン、ゴーン、ゴーンと三の刻、午前六時の鐘が鳴る。


「むにゃむにゃ、エドぉ、おはようぉ」

「ああ、おはよう、ミーニャ」

「にゃはーん」


 ミーニャが寝ぼけて今朝も抱き着いて、甘えてくる。


 朝の支度をして、朝ご飯を食べる。


「さてお金も入ってきたし、もう少し食生活を豊かにするべく、今日も草原に行こう」

「はーい」


 まずはラニアを掴まえよう。

 城壁沿いにちょっと進んだ先の家だ。


「ラーニーアーちゃーんー」

「は、はーい」


 照れ照れで返事をしてくる。かわいい。


 ラニアの家はうちより裕福だけど、当初は貧乏だったのか、家はうちよりもボロい。

 引っ越したりしないんだろうか。

 この辺は城門にも近く、スラムの中でも一番治安がいいので、手放したくないというのもわかる。

 うちもそうだ。実際には貧乏で引っ越しようがないんだけど。


「今日は草原で、サラダや香味野菜、特色のある植物とかを探します」

「「はーい」」


 本日も勇者パーティーはRPGのようにマップチップを進み、スラム街の道を歩いていく。

 先頭の人の後を、後続がついていく。


 本当はスラムの道も狭いには狭いが三人くらいは横に並べる。

 ただし馬車は安全に通れるほど広くはない。


 あと家より道のほうが低くなっているため、雨が降ると道は川みたいになる。

 下水はないので、道が排水溝代わりなのだ。

 家が水浸しにならないようにする、生活の知恵だ。

 いつからそういう造りになったかは知らない。物心ついたときには、すでにそうだった。


 家並みも途切れ、切り株のある草原に出た。


 まず目についたのはこれ。鑑定。


【サニーレタス 植物 食用可】


 玉にならないレタスだ。

 タンポポ草も悪くはないが、いかんせん葉が小さめなので量を採るのが大変だ。

 これはいい。

 葉っぱも大きめ、そして苦くもなく癖がない。


 サラダに最適だ。


「これはサラダにすると、青臭くもなくて美味しい」

「にゃあ」

「なるほど、ですね」


 この辺には結構生えてるな。

 葉っぱを何枚も取って、そして庭に植える用に根っこごといくつか採取する。



 さて、他にはないかな。


 お、これなんかいいじゃん。

 雑草より大きい葉っぱ。単子葉類。


【ショウガ 植物 食用可】


「これはピリッと辛い」

「へぇ」

「これは若い株だから、洗って生でいける」

「へぇ」


 若い「葉ショウガ」は生のまま味噌を付けて食べると美味いんだけど、残念ながら味噌はない。

 甘酢漬けとかにもするらしい。


 どう使うか考えものだけど、どうしようか。



 さて他には何かないかな。


「ねえねえこれは?」


 単子葉類。葉っぱがまっすぐに伸びている。


 お、いいじゃないですか。


【タマネギ 植物 食用可】


「これは焼くと甘い。生だとちょっと辛い。どっちも美味しい」

「ふーん」

「野菜の定番ベストテンには入る、ナイスだ」

「やった。褒められちゃった」


 ミーニャが期待した目で見上げてくる。

 あーはいはい。


「なでなでー」

「はわわわ」


 頭を撫でるとすごくよろこぶ。

 お父さんはあんまり頭を撫でてくれないもんね。

 いやあの人、ミーニャがかわいすぎて、頭に触るのも避けてるみたいで。

 触っちゃダメだと思っている節がある。


 もういいかな、いつもの葉っぱ類も収穫したし。


「よしでかした。おうちへ帰ろう」

「「はーい」」

「ラニアも食べていくでしょ?」

「はいっ」


 ということで帰還する前に、ドリドン雑貨店に寄っていく。


「ドリドンさん、オリーブオイルと小麦粉ください」

「はいよ。なんだい料理に目覚めたのかい? 前はイルク豆ばかりだったのに」

「あはは、ちょっとそうなんですよ」

「それがいい。豆だけなんて、とてもすすめられないよ」

「そうですよね、もっと言ってやってください」

「まあでも貧乏だとイルク豆一択だよね、わかるよ」

「そう、なんですよね」


 ということで油と小麦粉をゲット。

 いままでこれすらなかったという貧乏っぷりだったのだ。


 今度こそ家に帰る。


「ただいま」

「ただいまぁ、ママぁ」

「おじゃまします」


 さてお昼の料理だ。


 イルク豆、カラスノインゲンを茹でる。

 それからサラダ用のレタスを適度なサイズにちぎっておく。


 あとは定番、天ぷら「かき揚げ」をしようと思う。

 タマネギ、ショウガを薄切りにする。

 細切りまでにはしない。


 タマネギのかき揚げ。

 タマネギ、イルク豆、インゲンのかき揚げ。

 ショウガのかき揚げ。

 タンポポ草の天ぷら。

 それから、じゃじゃーん。エルダタケの天ぷら。


 また密かに一株だけ見つけたので、天ぷらにする。

 マイタケの天ぷらとか美味しいので、たぶんこれもいける。


 水に小麦粉を溶き、それに具材を混ぜる。

 ヘラで一個分を取ると、オリーブオイルを深さ2センチぐらい入れた熱した鍋に入れる。


 じゅわあああ。


 油で揚げる音がする。


「なにこれ! なにこれっ!」

「これが天ぷらだよ」

「「天ぷら」」


 テンプラが完成した。油を切り、べたべたしないように気をつける。


 天つゆもいいけど、塩も悪くない。

 ここには塩しかないけど。


 主食のイルク豆とは別に天ぷらを置き、手で食べる。

 あーね、スプーンで天ぷらは食べにくいからね。


 ぱく。


「おいしー」

「美味しい、ですね」

「おお、すごいじゃないか、エド君」

「美味しいですね」


 みんなに大好評だ。

 タマネギの甘いのもいい。

 ショウガのピリッとしたものもいい。

 タンポポ草の葉も悪くはない。


「キノコもおいしぃ」


 やっぱエルダタケだな。

 ムラサキキノコほどではないが美味い。


「ああぁあああ」

「どうしたの?」


「せっかくだから、タンポポは花を摘んでくればよかった」

「花を食べるの? 面白そうだし綺麗ね」

「でしょ、でしょ」


 いつものように葉っぱだけしか摘んでこなかったから、かたないね。


 金貨が飛び交う殺伐とした日もいいけど、こういう美味しい日があってもいいと思うんだ。


 というかブドウジャムはまだビン一個分だけ作っただけで、残りのブドウは家に保管してある。

 十ビンくらいは在庫をさばけばできる。


「じゃあ、午後はブドウジャム作りにしようか」


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