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21.ドリドン雑貨店と金貨


 土曜日、夕方。

 スペアミントのハーブティーと犬麦茶を納品しにドリドン雑貨店に行く。


 慣習的に雑貨店とは呼んでるけど、食料品店というかキオスクまたはコンビニみたいな立ち位置に近いかもしれない。


 もうすぐ日が沈みそうだ。この時間になると、お客さんは少ない。

 もう少し前の夕食の買い出しの時間帯にはもうちょっと人がいる。


「ドリドンさんこんにちは」

「おお、来たか。もうハーブティーも犬麦茶も品切れだぞ」

「おっと、それはすみません」

「まあいいんだがな、それからリンゴジャムも売れてるな」

「それはよかったです」


 リンゴジャムは40ビン。ひとビン銀貨五枚でうちの取り分は銀貨四枚だ。

 ひとビンでゴブリンの魔石と同じくらいというから、結構な値段だ。


「ちょっと待ってろ、今日までの利益をまとめるから」

「はい」


 そういうと帳簿を書き写した紙をくれる。

 紙といってもパピルスみたいな雑記用の安い紙だ。


 正式な書類などは丈夫な羊皮紙が使われていて、洋紙のような本格的な紙はまだない。


 ハーブ 25個  160ダリル 銀貨四枚

 犬麦茶 25個  160ダリル 銀貨四枚

 ジャム 15個 4,000ダリル 金貨六枚


 読めないから商品名だけでも教えてもらう。

 数字と銀貨、金貨、ダリルは読める。


「は?」


「いやだから、金貨六枚、銀貨八枚だよ」

「そんなに?」

「おお」


 これにはミーニャとラニアも目を丸くする。


「金貨でいいかい? 銀貨や混合でも出せるけど」

「あ、じゃあ金貨五枚、あと銀貨で」

「はいよ」


 半銀貨はあるけど、半金貨はなぜかない。


「ではラニア、頑張りましたね。三分の一で金貨二枚、銀貨三枚です」

「え、いいの? 計算はちょっとわからないのだけど」

「いいのいいの」

「あ、ありがとう」


 ドリドンさんから金貨を受け取った後、ラニアに分け前を払う。


「金貨が二枚も」


 ラニアの母親ヘレンさんが出そうとした、ひとビン金貨一枚よりは安かろうが、かなりの金額だ。


 俺も金貨を渡す手が震える。


 ラニアはギュッと金貨を握りしめる。

 その手の力の入れ方に、思うところがないわけではない。


 みんなで協力してリンゴを採ってきた。

 ゴブリンに会うかもしれない。

 実際にその前のときはゴブリンと戦闘になった。


 リスクの上でその対価のうちの三分の一が手に入った。


「う、うわああああああんん」


 ラニアちゃん、また泣いちゃった。

 でもこれはうれし泣きだ。

 そっと背中をミーニャがさすってやっている。


 お店の前で泣かれて、ドリドンさんも困るだろうけど、許してやって。


 ミーニャは何でもなさそうだ。

 ある意味で大物かもしれない。


「ひぐっ、ひぐっ、リンゴが、ひくっひくっ、ゴブリンが出てきて、ひくっ」

「そうだな、うん」


 思い出しているのだろう。

 俺たちは頑張った。

 主に頑張ったのはラニアだもんな、そりゃあ思いは強いだろう。


 帰宅途中の人がラニアが泣いているのを、どうしたんだろう、という顔で見てくる。

 別に悪いことをして怒られたわけではないので、堂々としていればいい。

 のだろうけど、どんなうわさされちゃうか、ちょっと困る。


『ミーニャとラニアの男をめぐる痴話喧嘩』

『あのエドは女の子を泣かしていた』

『呪われたエドに関わったラニアはひどい目に遭って、泣いてしまった』


 こんな感じか。

 スラム街も広くはないので、噂はすぐに広まる。


 ヤバいレベルの誤解はひっそりとドリドンさんが訂正してくれるだろう、たぶん。

 おっちゃん頼んだぜ。



 雑貨店で欲しいものはないかな。

 なんかいいもの。


 んー。

 ここには野菜やキノコは売っていない。

 イルク豆は大量に売っているけど。


 イルク豆、塩、黒パン、小麦粉、干し肉、魚の干物、ドライフルーツ、オリーブオイル。

 スプーン、コップ、深皿、鍋、魔道コンロ、ヘラ、薪、ナイフ。

 ビン、壺、小壺、かめ水瓶みずがめ

 中古服、下着、靴下、靴、ベルト、背負いバッグ、袋、麻袋。

 毛布、ロウソク、石鹸、パピルス、羊皮紙、筆記具。

 薬草、ポーション、包帯、エール、ミード。

 片手剣、盾、槍、杖。

 俺特製のハーブティー、犬麦茶、リンゴジャム。

 あとは誰かが中古を売った謎のアイテムが少々。

 うーん。あんまり欲しいものはない。

 ポーションはちょっと欲しいけど、メルンさんのほうが便利だからなぁ。

 油と小麦粉があるので、料理ができれば何か作れるかな。ドーナツとか。


「そうだ、ドリドンさん」

「なんだい」

「これ試食品。売るつもりはないけど、一応」

「おお、これは。ありがとう」


 俺はブドウジャムを出す。


 ドリドンさんは売り物の黒パンを一つ出すとナイフで切る。

 奥にいる奥さんを呼びに行って、一緒に戻ってきた。


「ほいミレーヌ、これブドウジャム」

「まぁまぁ」


 奥さんもおっとりタイプだ。メルンさんとは気が合いそう。


「んんんっ」

「まぁ美味しいわ」


 リンゴは甘いには甘いが突き抜けるほどではない。

 それに対して、このブドウジャムはかなり甘い。


「これ、入手はできないのか?」

「んー、探せばあるかもしれないけど、確証はないよ」

「そうか、残念だ。できるなら欲しいな」

「まあ、近いうちに探してみます」

「頼む」


 森に行けばジャムができるくらいのこと、ドリドンさんは知っているのかな。

 知ってそうだな。でもあえて自分で危険は冒さないタイプだ。

 さすがDランク。

 ちなみに表示されるだけで、なんのランクなのかは知らない。

 たぶん冒険者ギルドでいう「魔物基準」の危険度ランクだと思う。

 ゴブリンも俺たちもEランクだ。


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