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10.森とゴブリン


 引き続き月曜日、午前。

 さて「祝福」状態になったからといって、違いは実感しにくい。

 少し、体が軽い気がする。

 あとは周辺の空気が清浄な気がする。


 ミーニャの金髪はいつ見ても、お美しい。

 ラニアの少し薄い水色がかった青い髪も、綺麗です。


 いやあ、両手に花ですな。ぐへへ。


 前世じゃまったくモテなかった。

 モテるどころか、友達ゼロ人だったわ。だばばばば。


 今生は乞うご期待。


 木漏れ日差し込む、森の日陰を進んでいく。

 別に薄暗いほどではない。

 この辺は都市のすぐ先だけあって、管理林に近い。


「よっし、まずはこれでいいかな」


 俺は5センチぐらいの太さの倒木というか枝を拾って、適当な長さにナイフ例のミスリルで切断していく。


「いつ見ても、そのナイフ、切れ味おかしいですね」


 そうだよな、普通のナイフはここまで切れ味がいいわけがない。

 ミスリルのなせる業だ。

 ラニアは薄々気が付いている様子だけど、それ以上のツッコミはしてこない。

 やぶをつついて蛇が出てきたら、シャレにならん。


 まあ出てくるのは蛇じゃなくて、エルフの親愛なんだけど。


 切った枝を背負いバッグに放り込んで、先を進む。


 んん?

 これはフキじゃないですかね。

 というか、今まで無視して歩いていたけど、いっぱい生えている。


『鑑定』


【メルリアフキ 植物 食用可】


「みんな、この大きな丸い葉っぱは、フキだ」

「「フキ」」

「うん。アクがあるから苦いんだけど、煮れば美味しくいただける」

「「(ごくり)」」


 喉が鳴るのが、見える。


 美味しいっていっても、ちょっと大人向けかもしれない。

 お子様には早いかな~。あ~ん~。


 葉はうちでは食べない。ので茎だけ採って集めて歩く。


 それなりに集まった。多すぎても、食べきれない。

 万が一、不味かったらアレだし、これぐらいにしようか。


 次の植物。

 フキに1ミリくらい似ている。

 フキの葉は五角形のような感じだけど、こっちはツルツルのハート形。


『鑑定』


【サトイモ 植物 食用可】


 俺は茎も好きだけど、今日は芋だ、芋。


 ナイフで地面を掘る。刃こぼれしないミスリルとわかってからは遠慮もない。

 ちょっと掘るには贅沢なナイフだけど、いいんだ。


「芋だよ、芋。芋、知ってる?」

「「知らない!」」

「くっ、マジか……」


 芋も知らないとか、可哀想に。

 俺は掘り出した芋を見せる。


「これが芋」

「大きいね。食べごたえがありそう」

「そうだね」


 ミーニャなんかもうヨダレが垂れそうで、食べた気になっている。


 そうしてサトイモを回収した。

 近くにもう一株あったので、そっちも採取する。


 また手ごろな折れた枝を見つける。

 折れて時間が経ち、乾燥も進んでいる。


「この枝もよさそうだ」

「ねえ、エド。枝なんて採ってきてどうするの? しかも短くして」

「これはね、スプーンにするんだ」

「あ~。スプーンね? エドが作るの?」

「うんにゃ、ギードさんに内職させようと思って」

「あ~いいかもね」


 ここで種明かし。ギードさんは手先が器用だ。

 何かの職人が向いている。

 だが道具はナイフ一本ぐらいしか手持ちがない。

 それでできる工芸品で実用度が高いもの……スプーンというわけだ。


 以前、森で訓練を受けた後、母ちゃんからスプーンの彫り方も教わった。

 だから初心者同然だけど指導もできる。


 木のスプーン一本、買い取りなら銅貨三枚ぐらいだろうか。

 不慣れでも俺やギードさんなら一日に五本は作れると思う。

 合わせると、一日で一人当たり銀貨一枚銅貨五枚の収入にはなる。


 大量には売れないけど、需要は確実にある。

 お皿も作れるけど、木が太くないといけないから、保留。


 ということで、枝が欲しかったのだ。

 枝を集めて、薪にして売るよりかは、高く売れる。



 ムラサキキノコ、フキ、サトイモ、それから木の枝。

 今日の収穫はまあまあだな。


 他には何かないかな。




「キギャッ」


 あああ、びっくりした。

 いや、向こうさんも驚いた様子で、棍棒こんぼうを振り上げている。


 140センチぐらいの身長。人間の大人より小さいけど、俺たちよりデカい。

 緑の皮膚、かわいくない顔、つるっパゲ。



 ――ゴブリン。



 周りには、増援の様子はない。

 素早く鑑定を掛ける。


【(名前無し)

 3歳 オス A型 ゴブリン

 Eランク

 HP235/256

 MP58/76

 健康状態:C(不健康)


 鑑定結果もゴブリンだ。

 フォーマットが人間と同じなのが気になる。


 ソロか。ラニアの言によれば、一撃で倒せる。


「ゴブリンか。どうする?」

「やっつけましょう。ちょろいわ。それに魔石が出れば、銀貨数枚よ」

「銀貨数枚」


「俺が牽制けんせいする。魔法の準備を」

「牽制しなくていいわ、とどめを刺して」

「了解」


「燃え盛る炎よ――ファイア」


 いつの間にか、拾った枝を杖にして装備している。

 ラニアの杖の先から、炎の塊がゴブリンめがけて飛んでいき、火だるまにする。


「ギャアアア」


 ゴブリンが悲鳴を上げる。

 火はすぐに消えて、ゴブリンは瀕死状態、しかし「一撃よ」とか言っていたのに、わずかに息があるようだ。


「うりゃああああ」


 俺は叫びながら、決死の思いでナイフをゴブリンの心臓めがけて、突き刺した。


 ナイフが刺さり、ゴブリンが倒れる。


「はぁはぁはぁ」


 俺は必死だった。

 目の前にはゴブリンが倒れていた。


「エド君っ」

「エドおぉ」


 ミーニャとラニアが俺に抱き着いてくる。

 なんか女の子のいい匂いがする。ラニアかな。

 ミーニャもほんのりいい匂いだけど慣れているから、わかりにくい。


 俺得だな、やっと冷静になってきた。


「やったわね」

「ああ……」


 俺は左手をぐーぱーして感覚を確かめる。

 なんか「レベルアップ」した感覚があった。


『収納』


 念じると右手のミスリルのナイフが目の前から消える。

 なんだこれ、手品みたい。


 感覚でわかる。収納容量はバッグ2個分ぐらい。



 ――アイテムボックス。



 新しい転生特典だろう、魔法またはスキルが使えるようになった。


 それにしても、ゴブリンは怖い。

 弱っちいが、俺には怖かった。


 ゴブリンの引きった顔が忘れられない。


「さあ、ナイフを貸してちょうだい。魔石は持って帰りましょ」

「いや、俺がやる」

「あらそう」


 俺はゴブリンの胸にナイフを突き立てて、魔石を回収する。

 ちょっとその作業は、お見せできないような感じだけど、慣れればなんてことはない。

 俺は森で母親からの指導で何回かやらされたから、できる。


 こんな森の浅いところにでも、出てくることがあるんだな。ゴブリン。

 運が悪いというか、収入の面を見れば、運がいいというか。

 少しばかり複雑な思いだ。


 魔石は紫水晶にそっくりだ。

 鈍く光を通すその見た目は、ちょっと禍々しいものを含んでいるようにも見える。


 しかしこれは銀貨数枚のお金になる。

 ゴブリンの皮とかも、靴になるくらいだから、持って帰ることもできるが、面倒だし放置でいいや。


 埋めるか完全に燃やすのが正しい処理だけど、放置することも多い。

 ウルフか何かがやってきて、たいてい食べてしまう。


 ウルフさんの団体は怖いから、はやくこの場から立ち去るのが賢明でしょう。


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