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20.食うべきか食わざるべきか


 土曜日。

 前回ハーブティーを納品したのが日曜日の夕方。(7話参照)

 水曜日の朝に犬麦茶を納品して、三日経った。

 最初のハーブティーは三日で売り切れたけど、二回目は犬麦茶も投入したので販売がばらけて、なんとか残っていた。


 今日は両方の追加生産をしようと思う。


「ということで、本日はスペアミントとイヌムギの収穫です」

「はーい」


 ミーニャがいい返事をする。


 ラニアを迎えに行き、その足で草原に向かう。


 さてキノコは生えてるかなぁ。


 キノコは昨日なくても今日は生えている、ことがあるので、要確認。

 特に雨の翌日とか。


「本日のメインターゲットはスペアミントとイヌムギだから、あといつもの草は俺が採るから大丈夫だよ」

「「はーい」」


 ということで作業に入る。


 ミントを採って、採って、採って、イヌムギを採って、採って、採って。

 慣れてくると、倍くらいの速度まではいける。


 三人になったので、効率もいい。


 お、ムラサキキノコだ、鑑定。


【ムラサキメルリアタケ キノコ 食用可美味


「お、これはムラサキメルリアタケじゃん。ムラサキキノコだ」


 みんなに内緒で持って帰ろう。


 採るものは多かったけど、午前中でなんとか作業を終えた。


「ハイ終わり、ありがとうございました」

「はい、お疲れさま」

「お疲れさまでした」


 労働者みたいに挨拶をして、街に戻ってくる。


 お昼だ。


 今日のお昼のメニュー。

 イルク豆とカラスノインゲンとサトイモの水煮。

 ムラサキキノコとタンポポと干し肉の炒め物。

 ホレン草の塩茹で。

 犬麦茶。


「あ、エド、どこからキノコ出したの?」

「え、アイテムボックスから。生えてたから採ってきた。サプライズ」

「やったっ」

「あれは、美味しかったですね」


 どんどん調理していく。


「ラファリエール様に感謝して、いただきます」

「「「いただきます」」」


 相変わらずラニアは礼儀正しい。


「うまあぁ」

「美味しいにゃ」

「美味しい、です」


 ミーニャは今日もご機嫌。

 ラニアは本日もうれしそう。


 ギードさんとメルンさんも満足そう。


 いやあ、本当に豆だけだったんだよな、二週間前までは。


「ところでさ、これ、ムラサキメルリアタケっていうんだけど」

「うん?」

「ジャムで金貨一枚だったろ、このめちゃうまキノコ、市場で売ったらいくらになると思う?」

「「えっ」」


 二人ともその意味を悟り、目をまん丸くして驚いている。


「金貨?」

「金貨、ですか?」


「かもしれない。まだ確かめていないけど、この味だぜ」

「「たしかに」」


 茶色いほうもまあまあ美味しいが、あっちは毒キノコと誤解されているから売れないだろう。

 このムラサキキノコは目立つうえ、同定が当社比で簡単だ。


 市場――トライエの朝市とか専門店でいくらで売れるか、考えるだけで頭が痛い。


「「食べちゃった」」

「まあそうだな。次見つけたら、どうする? 食べれば、美味しいよ? それとも売って金貨がいいかな?」

「そんなの決められない……」

「難しい問題ですね」


 ミーニャもラニアも考え込んでしまった。


 さて「食うべきか食わざるべきか」それが問題だ。


 元ネタはシェイクスピア「To be or not to be」、日本語で「生きるべきか死ぬべきか」だけど、異世界にも似た格言がある。

 格言「(ゴブリンと)戦うべきか戦わざるべきか」がそれだ。

 素人がゴブリンと遭遇したとき、頑張れば勝てるが油断は大敵だ。

 勝てる保証もないが、負けるとも限らない。

 逃げたらいいか、戦うべきか、難しい問題だ。


 これからも食べるか、売るかの判断に迷うときは、何回もあると思う。


 ジャムだって、うちがパンを主食にしていたら、隠れて全部食べたかもしれない。

 しかしお金を選んだ。


「うにゅう、食べたい」

「でも、お金も欲しい」


「そうだね、意見も割れるかもしれない。おお喧嘩げんかになるかも」

「それはやだな」

「そうだね」


 うむ、食べ物の恨みは怖いからね。

 対立したら、どうやって決めるか、難しい。


 幸いにして、今日はすでに食べてしまった後なので、どうにもならない。


「次のムラサキキノコは、冒険者ギルドに持ち込んでみるということでどうでしょう?」


 ラニアが提案してくる。


「それがいいかもね」

「そう、だね」


 ミーニャが「本当は食べたい」という顔で同意する。なんだか、こういう顔もかわいい。

 いや美少女はどんな顔しても、かわいいわ。


 ところで俺は採取、採る、と思っているけれど表記はいろいろある。

 人によっては採集、取るを使う人もいるだろう。

 盗るは論外だけどね。

 歴史とかだと狩猟採集生活だから採集かなとも思う。

 でも昆虫採集のイメージもある。採集は蒐集しゅうしゅうに近い。

 それなら採るのは採取かな、となるけど、どうだろうね。


 転生した今となっては、どうでもいいといえば、どうでもいいけど。


 午後はスペアミントとイヌムギの乾燥作業をしつつ、スプーンを作る。


「癒しの光を――ヒール」


 ミーニャはラニアにヒールの指導をしているけど、なかなかうまくいかない。

 人間には魔法の適性属性というものがあり、適性属性がない魔法は習得がいちじるしく難しい。


 やっぱりラニアにはヒールは無理かな。


 ちなみに最近メルンさんを観察していてわかったけど、普段使っているのはヒールじゃない。

 祝詞のりとは「神の癒しを――サクラメント・ヒール」という違う魔法のようだ。

 俺の少ない知識を総動員する限り、いわゆる神聖魔法だと思う。

 ラファリエール様によるラファリエ教徒への治療行為だろう。おそらく、ヒールよりも高等でいろいろなものを癒せるうえに、信仰心を糧にしているので、簡単な怪我程度ならMP消費が少ない、とかあるんだと思う。


 俺はさすがにこれを覚えるのは無理っぽいなぁ、と諦めムードだ。

 エルフに連なるものは魔法がお得意だから。

 エルフは種族自体が天使の系列もしくは精霊の系統で、神に好かれている。


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