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17.ブドウとリンゴのジャム


 引き続き木曜日。

 さて最近の同じようなお昼ご飯を食べて、午後の作業だ。

 ラニアも一緒に食事をしたので、今もいる。


「午後は、採ってきた果実をジャムにしようと思う」

「ジャム?」

「そう、ジャム」


「まずはリンゴジャムからやってみようか。リンゴはいっぱいあるし」

「わかった」


 魔道コンロにナイフで切ったリンゴを入れていく。

 少量の水、あと塩を少しだけ入れて、煮ていく。


 砂糖や蜂蜜があるといいんだけど、スラムで一食50円の豆生活をしていた人間にとって、それを買うというのは、勇気がいる。

 今回はリンゴの甘さのみで、ジャムにしようと思う。

 できなくはないらしい。


 ビンは空のストックがいくつかある。


「しばらく掛かるから黒パンを人数分買ってきてくれる? あと関係ないけど銅貨五枚は干し肉も。はい銀貨一枚」

「ありがとう~、すぐ買ってくるね」


 ドリドン雑貨店はすぐそこなので、ミーニャとラニアに行かせる。

 その間に俺はジャムが焦げないように、ひたすら火の番をしつつ、鍋をかき回す。



 黒パンは無事に買えたようで、二人が戻ってきた。


「なんだかいい匂い」

「そうですね」


 リンゴの匂いがしている。

 ジャムになるまでは、まだ時間が掛かる。


 色がちょっと飴色というか半透明に近い色になってくる。

 ヘラで潰しながら、混ぜたりする。


「できたかな」

「できたの?」


 火からおろす。


 よくわかんないけど、まあいいんじゃないかな。

 鑑定。


【青リンゴジャム 食品 普通】


 ありがとうございます。ありがとうございます。

 普通、いただきました。

 粗悪品ではなかった。十分いけそうだ。


 ざっと鍋をあおって粗熱を取っておこう。


 ついでにミーニャが持っている黒パンも鑑定。


【黒パン 食品 普通】


 黒パンも普通なのか。粗悪品なのかと思っていた。

 疑ってごめん、ドリドンのおじさん。


 黒パンをミスリルのナイフでさくっと薄く切っていく。


「でだ、こうやってパンにジャムを塗るんだ」

「「(ごくり)」」


「いただきます」


 俺はジャムパンを一口食べる。

 うん、いける。十分いける。


「あ、はいはい、私もやりたい」

「私も、食べたい、です」


「どうぞっ」


 食い物の恨みは怖いからね、ささっとジャムを女の子に捧げる。


「おーいしーぃ」

「美味しい、です」


 どうやら好評のようで、なにより、なにより。


 また一つ、食べ物のレシピが増えた。


 パンはまだ食べきっていない。


「ところで、まだブドウのジャムを作っていないんだ。あとリンゴも試作品だから」

「そ、そうだね」


 ブドウを取り出して、こちらもジャムにする。


 煮ている時間が結構掛かる。こればかりはどうしようもない。


「まだかな、まだかなぁ~」

「まだよね~まだよね~」


 二人で催促してくるけど、まだなんだ、すまんな。


 ビンはドワーフが量産したり人間の職人も作るけど、安くはない。

 でもこういうものはしっかりビンに保存しないとカビたら困る。


 カビるからと悲観するのもあれだね。

 逆に考えれば、味噌、醤油、鰹節、チーズとか、カビがあるから成立している食品もあるので、明るくいこう。


 食べ物は、前世を再現するだけではないけど、いいものはいい。欲しいものは欲しい。


 ちょっと休憩、庭を見る。


 空の高いところを、南から北へ、三角形で飛行するデルタ飛行編隊でワイバーンが六匹飛んでいくのが見える。


 竜は寒くても体温を保てるけど、ワイバーンは寒すぎると体温も下がってしまうから、冬が苦手で南で越冬するんだって。

 それで今は春だから戻ってくるシーズンなのだ。

 だから北のワイバーンは渡りをする。

 もちろん南に定住しているタイプもいる。

 要するに現代知識でいうと、ワイバーンは爬虫類はちゅうるいで変温動物なんだね。

 今更やっと理解できた。

 母親はこういう難解なことも知っていて、教えてくれた。


 なおワイバーンは基本的に危険だが、高いところを飛んでいるし素通りするから危険はない。

 稀に休憩のために降りてくるけど、刺激しなければ大惨事になることは少ない、らしい。

 なにそれ、こえぇぇ。


「ブドウジャムできたよー」

「「わーい」」


 女の子は甘いものが大好き。

 まあ、彼女たちは、そもそもあまり美味しいものを食べていないから、甘味もほとんど知らないんだけど。


 そこはもう、女の子の、本能だね。


 四枚に切り分けた黒パンを、一枚はリンゴジャムに消費した。

 そして今、量を倍ぐらいにしたブドウジャムで、二枚目を黙々と食べている。


 黒パンはかなりの硬さだけど、顎を必死に動かして、もぐもぐしている。その顔はちょっとリスみたいでかわいい。


「こっちもおいしぃ。これ、すき。もっと食べたいっ」

「こちらも、なかなかのお味ですね。美味しいです」


 そうか、ほれ、食え食え。

 痩せすぎを克服するんだ。そのほうが抱き心地がいい。

 べ、別に不純な動機では、断じてないぞ。断じて。


 合間に塩辛い干し肉一枚を小さく切って、もぐもぐすると、抜群に美味しい。


 人数には、メルンさんとギードさんも含んでいるので、みんなで美味しくいただいた。

 今日はもうこれが夕ご飯になる。


「いつも、パンは食べてたけど、なんか味気ないと思っていたのよ」

「そうだろうね」

「何かつけて食べると、こんなに美味しいんですね」

「うんうん」

「ジャムのビン、一つくれますか?」

「いいよ」

「やったっ」


 追加のリンゴジャムを作ったので、ジャムは残っていた。

 ひとビンに入らなかった。


 だから二ビン目をラニアにプレゼントする。

 一緒に採ってきたから、当然の権利といえるだろう。


「ありがとう、エド君、スキッ」

「あ、ああ、ありがとう」

「あっ、いっ、な、なんでも。なんでもないんだからねっ」


 お、ツンツンしてるのか、ええよ。

 好意を誤魔化そうとするのも、かわええな。


 家まで送ろうと思っていたけど、ラニアは上機嫌で一人で帰っていった。


「行っちゃったね」

「う、うん」


 ミーニャも当然送るものと思っていたようで、困惑気味だった。

 ここのスラム街は比較的治安がいいといえども、小さな女の子の一人歩きは推奨されるものではない。


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