日曜日。
スラム街だからといって、全員が単価50円の豆生活なわけではない。
もう少し裕福な人は多い。
このスラム街そのものが誕生して八年。まだ代々スラム街生まれで、スラムが骨の髄まで染みついている、という人はいないのだ。
だから元はそこそこ以上の生活をしていた人も多い。
スラムに移住当初は極貧でも、この八年で当初より余裕が出てきた人もいる。
ということでミントティーはかなりの好評だった。
山のようなミントティーの乾燥茶葉は、販売から三日目の今日、全部売れてしまった。
もちろん、俺たちは一日目、二日目と夕方に売り上げの様子を見に行き、追加生産を決めた。
だから毎日の分だけのホレン草、カラスノインゲン、タンポポ草を採りつつ、ミントの採取をすることにした。
エルダタケも二株だけど見つかった。
スラム街はそこまで規模が大きくないので、人気になったとしても、たかが知れている。
やはり山盛り一杯を採取して、夕方前に納品した。
それから売上をもらった。
山盛り一杯で25ビンになった。合計で5,000ダリル。お店の手数料20%を引いて――4,000ダリル。
乾燥ハーブティー、銀貨四枚。
俺たちの採取による初収入だった。
日雇いだと収入のいい日でも銀貨一枚も行かないくらいだから、単価でいえば、かなりいい。
洗濯は銅貨三枚だったし、少ない日はそれくらい。
さらに仕事が丸々ない、収入ゼロの日もある。
上々ではなかろうか。
素晴らしい。
「やったね、ミーニャ」
「うん、やった、やった。お金もらえたね。エドえらい」
「ふはははは」
お金を手に入れると、人が変わるという。
俺たちは臨時収入を得て、有頂天だった。
「ドリドンさん、干し肉ください。銀貨一枚分」
「はいよ」
干し肉を買った。干し肉三枚で銅貨一枚くらい。黒パン一個分だ。
だから干し肉を三十枚買えた。
よし今夜は干し肉で豪華な食事だ。
「「ただいま」」
「おかえりなさい」
「銀貨四枚になったよ、銀貨一枚は干し肉にしてきた」
「まあ、それじゃあ今日は干し肉ね」
「うん」
「ほう、すごいじゃないか」
ギードさんも褒めてくれた。
ということで今晩のメニュー。
今日は日曜日だ。
だからまず黒パン、一人一個。
イルク豆とカラスノインゲンのニンニク炒め。
干し肉とエルダタケとホレン草の、うま塩スープ。
タンポポサラダ、ほんの少し干し肉を散らす。
それからハーブティー。
料理もできて全員が車座になって木の床に座る。
日曜日は特別だ。教会に行かない代わりに、夕ご飯前に祈りを捧げる。
食事が豪華なのは、本来は神に捧げるためにあるからだ。
メルンさんが両手を合わせて、幹事を務める。
「ラファリエール様へ、日々の感謝を捧げます」
「「「毎日、見守ってくださり、ありがとうございます。メルエシール・ラ・ブラエル」」」
意味はよくわからない。
たぶん、古語で「聖なる神へ感謝します」だと思う。
自信はないけど、以前に母親がそう言っていたと、おぼろげながら記憶がある。
「よし食べるぞ」
「うまうま」
「美味しいぃ」
「美味しいわ」
「うまい、うまいぞ」
ギードおじさんはホクホク顔。
メルンおばさんはニコニコ笑顔。
そしてミーニャは満面の笑みで、バクバク食べている。
特に肉とキノコの
ニンニク炒めもうまい。
タンポポサラダに小さくちぎった干し肉を入れると、アクセントになっていい。
ちょっとしたことが美味しさにつながってくる。
久しぶりに豪華な食事になった。
いつもの日曜日は一人干し肉三枚をそのままかじっていたけど、調理するのも美味しい。
もちろんそのまま食べるのも捨てがたい。
三十枚、全部使いきったわけではなく、しっかり残してある。
元々食べる分の干し肉が一人三枚ずつで十二枚あったから、それに追加した。
残りは二十枚。それから銀貨三枚。
そしてミントはまたお店に出したから、その売上が入る予定となっている。
「今日も美味しかった。おやすみなさい、エド、んっ」
今日もミーニャが抱き着いてきて、ちゅっとほっぺにキスすると、寝る体勢に入った。
ミーニャの抱き枕を抱えつつ、俺も横になる。
しかし、考えなければならない課題もある。
まず、このままミントを採り続けると、採りつくしてしまう危険性がある。
今のところは大丈夫だけど、この草原はスラム街の人が木を切った範囲だけだから、それほど広いわけではない。
それから模倣品の販売。ライバル店だ。スラム街の城門付近の地区ではドリドン雑貨店しかないけど、先の地区にはミランダ雑貨店もある。
ハーブティーとして売っているので、元の草くらいは判別が付きそうだ。
そうなると、同じように草原で採って売る人が出てくるかもしれない。
自家用にする人はいいとしよう。
実際問題、時間と手間を考えれば、自家用に自分で採るより買ったほうがコスパは高い。
他には、すでに飲んだ人の中には、あまり好みではなかったという人も少なからずいる。
どうも、スーッとするのが苦手のようだ。
実はこれには腹案がある。
それにしても、干し肉とキノコたっぷりのスープは絶品だった。
おそらく旨味成分の相乗効果というものだと思う。
恨むべくは、どちらも今のところ貴重品だということだ。
特にキノコは、都市内でもまったく流通していない、と思う。見たことがない。
おそらくドクエルダタケモドキと混同した結果、毒キノコであると思われているのだろう。
そりゃあ茶色いキノコを食べたら、腹が痛くなったっていう体験をすれば、そう判断するほかないと思う。
ところでギードさんは、50ダリル*4人*3回の600ダリル/日も稼いでこないのだろうか。
日曜日の食事や塩、その他の代金も含めると1,000ダリル/日くらいか。
仕事自体は結構しているふうに見受けられるんだけど、効率の悪い仕事についているのか、借金があるのか。
それとも何か特殊な事情があって、ここに隠れ住んでいるのか。
明日の朝にでも、聞いてみるかな。
俺も寝よう。