なんとも酷い告白だった。贈り物はおろか花束の一つもなく、彼女にどれだけ惚れているかとかいろいろな段階をすっ飛ばして告げたのだから。オリビアは驚いていたが、嬉しそうに頬を赤らめて「ありがとう。私もフランが大好きよ」と承諾を得た──と当時の自分はそう思っていた。
もっともオリビアは、こんな子供に告白されて本気ではなかったのだろう。彼女は優しいから、子ども特有の気の迷い程度に受け取っていたはずだ。幼い私は番になることを受け入れてくれたと思って無邪気に喜んだ。
それから怪我が完治するまで私とオリビア、そして数人の他種族となんやかんやあったけれど、楽しく暮らしていた。私とは別にこの別邸に住み着いていたのは悪魔族のダグラスと、天使族のスカーレットだった。歳は私とニ、三歳しか違わず、二人はオリビアのことを母親か姉のように慕っていた。どちらも訳あって彷徨っていたところをオリビアに救われた。
二人にとってもオリビアは命の恩人で、本当の家族のような存在だったのだろう。だからこそダグラスやスカーレットに対して恋敵という認識はなかった。
秋になると森が赤と黄と色を変えた。マナが濃いからか作物は豊富で様々な果実が収穫できた。
「オリビア。畑のしゅうかく、手伝う」
「リヴィ。オレも手伝う」
「アタシも!」
ダグラスは三歳前後で最近は階段も普通に上がり降りができる。悪魔族の特徴と言えば鹿のような枝角に蝙蝠の羽根、黒髪に金色の瞳だ。
逆にスカーレットは真っ赤な長い髪に、真っ白な羽根、頭に王冠に似た環がある。彼女は三人の中では一番の年長者で八歳。
対して私は青空のような髪に、捻じれた角、蝙蝠の羽根にトカゲの尻尾とダグラスと似通っている部分はある。三人ともオリビアが大好きなところは一緒だった。二人はオリビアのことを愛称である「リヴィ」と呼んでいたが、私は「オリビア」で通した。単に彼女の名前を独占している気がしてそう呼んでいた。
「じゃあ、今日はサツマイモを収穫するから、スカーレットとフランは蔦を引いて、ダグラスはサツマイモを籠の中に入れてくれるかな」
「任せて!」
「わかった」
「オレ、がんばる」
一事が万事こんな感じでオリビアの手伝いをする。思えばこの時の私はオリビアが一人で森の別邸に住んでいるのか彼女の家族関係について何も知らなかった。
「オリビア。元気にしていたか?」
「まあ、ローレンス。ちょうどいい時期に来てくれたわ」
当時人間の国で治癒の研究と商売をしていたローレンスだった。竜魔人であるというのは一部の人間しか知らないらしく、オリビアとは薬草や治癒魔法の研究の協力者だったらしい。
そのときローレンスに会った私は、オリビアが取られるのではないかと内心ハラハラした。
リビングで向かい合わせに座るローレンスを警戒して、オリビアの膝の上に抱っこしてもらっても安心できなかった。
「ほしいものリストを見たけれど、また君の分の服や靴が入ってないだろう」
「私の分は大丈夫よ。でも子供たちはまだ小さいし、汚したりもするでしょう」
「それでも人族は他種族に比べて脆弱なのだから、頑張り過ぎも我慢もよくない。だからオリビアの傍を離れないこの子は、いつも心配しているのだろう」
「そう。……フランは私のことを思ってくれるのね」
「うん。オリビア、無理し過ぎ」
「ほら、その子の言う通りだ。……まったく、少し目を離している間に奪われてしまうとはな」
「ローレンス?」
「いや、なんでもない。……祝福するよ、オリビア」
「ありがとう?」
ローレンスは、オリビアが作った回復薬や治癒魔法の研究結果レポートを通常の倍近くの金を出して、食料や備蓄品、洋服や日用品などを送っていた。
おそらくローレンスはオリビアのことを好いていたのだろう。竜魔人にも個人差があり、伴侶を選ぶ際、大人になると直感よりも周囲の環境や立場によって判断が鈍ることがある。一度伴侶と決めたら生涯思いは変わらない。ローレンスには悪いが、オリビアは渡さない。「ぐるる」と喉を鳴らしながらオリビアに擦り寄る。
今思えば本当に大人気ないというか、必死だったのだと思う。オリビアから見ればただの甘えん坊だと思われていただろう。だが察しのいいローレンスは気づいたのだろう。私に柔らかく微笑み、「貴方が彼女を守るのならきっと幸せでしょう」と呟いたのだから。
「そういえばヘレンはグラシェ国で侍女に推薦、ジャクソンは料理の腕を見込まれて料理人──と上手くやっているようだ。これは預かっていた手紙」
「ありがとう。……そう、ヘレンは気遣いができるいい子だし、ジャクソンは器用だからきっと料理も繊細で相手を気遣える素敵な料理人になるわ」