結論から言うと、レミィたんはめちゃめちゃ弱かった。
「チェックメイト」
「うわぁああああ、負けたぁ! 敗北者だぁあああああ!」
騎士棋は地球の遊びでいうとチェスに近い遊びで、この手のゲームを地球で子供の頃に遊びなれていた俺には、最低限のノウハウがあったが、レミィたんにはそれすら無かった。
「うう……ぐすん……まさか初めてプレイするトミヒコたんに負けるなんて……トミヒコたん、天才……?」
「いや、レミィちゃんがちょっと弱すぎるというか……なんも先の事考えてないでしょ」
「明日は明日の風が吹く、がレミィたんの座右の銘だからね!」
先読みなど一切せず、直観のままに動き回るレミィたんの性格と、この手の思考ゲームの相性は最悪であるようだった。
「……それで、レミィたん。約束の事だけど……」
「うむ! レミィたん、これでも覚えている約束は守る女です! はにゃっとなんでも言う事を聞いてあげようじゃないか!」
覚えてなかったら約束守らないんかいな、と突っ込みたい気持ちはあれど、そんな事より覚えているうちに約束を守ってもらわないとという気持ちが勝ち、俺はまっすぐにレミィたんにお願いをする。
「れ、れ、れ、レミィたん……俺とエッチ……俺とエッチをしてください!」
「うーん、何でもするとは言ったけど、エッチとなると、さすがになんにも無しで今からするっていうのは賛成できないなぁ」
「え……!? でもなんでもしてくれるって……」
「勘違いしないでね、エッチすることに異存はないの! ただ、せっかくするなら、エッチを最大限楽しむために、レミィたんがもっとトミヒコの事を大好きになって、トミヒコがもっとレミィたんを大好きになってから、した方がいいなって!」
な、なるほど……レミィたんはそういう考え方をする女の子だったのか……
「大好きになるって言うけど、でもいったいどういう事をすれば大好きになるんだろう?」
「あのね、レミィたんの好きな男の子のタイプっていうのがあってね。それが、レミィたんの"病み"を受け止めてくれる人なんだ」
「レミィたんの……"病み"?」
「レミィたん、今日は元気いっぱいな日だけど、日によっては全然テンション上がらない日もあってね。そういう日は、"マジ病みモード"だから、病んでるレミィたんを受け止めてくれる男の子がほしくなるんだぁ」
「な、なるほど……」
今の元気いっぱいなレミィたんからは想像もつかないが、どうやらレミィたんは"病み"を抱えた女の子であるらしい。
もしレミィたんのような超絶美少女がそのような"病み"を抱えているとするなら、俺としても、ぜひそれを癒させてもらって、そのままレミィたんに俺の事を大好きになってほしいといえるだろう。たしかに、俺は童貞なのでそのあたりの事が分かっていないが、エッチという神聖な行為をするにあたっては、お互いの事を深く理解しあって、お互いを大好きになってからするべきなのかもしれない。
「はぁ。そんな話してたら、なんか"病みモード"入ってきちゃったぁ。ねぇねぇトミヒコたん、トミヒコたんはレミィたんの"マジ病み"、受け止めてくれるかなぁ?」
なんだかとろんとした表情になって、どこかどんよりとした雰囲気を漂わせたレミィちゃんは大層色っぽくて、俺はドキドキとしながら、レミィちゃんの流し目を受け止めてこう言った。
「う、受け止める! 受け止めます! お、俺は……俺は、レミィたんのことが、好きだから!」
い、言えた……! レミィたんに好きだと言えた!
レミィたんは内面はフリーダムだし我がままだし自分勝手だけど、そこもレミィたんの可憐すぎるビジュアルを惹き立てるアクセサリーのように感じられるくらい可愛い顔とエロ過ぎるスタイルをしているし、その問題の性格も、なんだかんだで一緒にいて楽しいと感じられてしまうような明るいものではあるのだ。
口にしてみると、なんだかずっと抱えていた感情を吐き出せてすっきりするような心地がした。
そうだ、俺はレミィたんが好きなのだ。
であるなら、俺はレミィたんの"病み"を受け止めて、レミィたんにも俺の事を大好きになってもらって、そして……そして、レミィたんと、念願の初エッチを成し遂げるのだ!
「わ! わわわ! トミヒコはレミィたんの事好きなんだぁ。なんか嬉し。レミィたん、ちょっとだけ好き勝手しちゃうタイプだから、みんなすぐに愛想つかしちゃうんだぁ。嬉し。ありがとね。レミィたんもトミヒコの事、大好きになりたいな。レミィたんの"病み"、ちゃんと受け止めてね?」
「は、はい!」
「それじゃあ、レミィたんのお部屋にいこっか。"病み"の話をするときは、ベッドの上で、甘えられる方がいいからね」
「う、うおお! は、はいいいいい!」
熱すぎて思わずそんな反応をしてしまった。
レミィたんのお部屋!
レミィたんの寝室!
そんなエッチすぎる場所に行けるなんて、俺はなんて幸せものなんだ!
「よぉし、行くよー」
俺は立ち上がったレミィたんの後ろをついていって、ボロボロの屋敷の中を歩いて、レミィたんの寝室へとたどり着いた。
レミィたんのテンションはさっきから心なし低い気がする。
これがレミィたんの"マジ病みモード"の片鱗なのだろうか?
「お、お邪魔します……」
レミィたんが開けた扉の後ろについて部屋の中に入ると、ボロボロの屋敷に比べれば大分綺麗に掃除された部屋が、目の前に広がった。
ピンク色の壁紙に、水色のベッドの布団、ライムグリーンのカーペット。パステルカラーの色合いのインテリアに、いくつかのぬいぐるみが置かれている。どうやら冒険の道具類や武器などは別の部屋に保管しておくスタンスのようだ。
「それじゃ、ベッドに座って、らくーにしてね」
カーペットに腰を下ろそうとしていた俺は、ベッドを指定されて慌ててベッドの上に座ろうとする。ちょっと足がもつれてしまい、倒れこむようにベッドの上に移動してしまった。
「あはは、そんなダイブするみたいに行かなくてもいいのに。レミィたんのベッドはどう? いい匂いするかな?」
その言葉通り、レミィたんの布団は、なんだか濃厚な女の子の香りとでもいうべきもので満たされていて、不本意にもそれを肺一杯に吸い込んでしまった俺は、ドキドキとして正常な精神状態をすでに失ってしまっていた。
「めっちゃいい匂い、します」
「あはははは、正直でいいね。何事も素直が一番。それじゃあ、レミィもそんなトミヒコに甘えさせてもらおうかな」
「へ?」
「ごろろろーん」
そんな声とともに、レミィたんも俺が倒れこんだベッドの上にのしかかってきて、俺の身体に巻き付くようにレミィたんの柔らかくて細くて豊満な体つきが密着してしまう。
俺の心臓の鼓動は早すぎてどうかしそうなほどに高まり、レミィたんの呼吸や心音まで、自分のもののように感じられてしまう距離感。
「んー? トミヒコたん、ドキドキしてる。レミィたんがくっついて、嬉しいんだねー。わかりやすーい」
俺はレミィたんに自分の浅ましい欲望を見透かされた事に恥ずかしくなってしまい、すっかり顔が紅く染まるのを感じる。
「ふふふ、なんだか楽しいなー。トミヒコたん、結構恰好いいから、レミィたんもちょっとドキドキしてきたかも」
恰好いい、なんて言われて、さらに俺の心臓がドキリと驚く。
そうか、俺はこの世界では女の子に格好いいなんて言われることがあるのか。
何か嬉しいな。
この世界なら、俺は女の子と楽しく付き合ったり、エッチしたり、そういう事ができるのかもしれない。
「それじゃ、ドキドキも高まったところで、レミィたんの"病み"トーク、聞いてもらおうかな」
レミィたんはそういうと、俺の倒れ込んだ背中に耳を当てるようなドキドキする恰好のまま、レミィたんが抱える"病み"について、話し始めるのだった。