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第72話 モントリオール(1)

第72話 モントリオール(1)





 手のひらにおさまるほど、小さな石ころ。それに魔力を流し込み、原子構造を書き換えていく。

 石ころ遊びといえど、これは非常に高度な魔力操作が求められるもの。


 アンラベルの魔法少女たちは、真剣な様子でそれを行うも。

 ティファニーの持っていた石が、粉々に砕け散る。




「くそったれ!」


「……」




 その隣では、アイリも石に魔力を流していたのだが。ティファニーにつられるように、崩壊してしまう。

 流石に、ティファニーのように悪態は吐かないものの。静かに、怒りを抱いているように見えた。


 魔力が強くても、戦闘力が高くても、それだけでどうにかなるものではない。

 これは繊細さと、経験が大切な作業であり。


 メンバーに混じって、シリカもこのキラキラ錬成を行っており。

 完成した物を、高らかに見せつける。




「これが、年季の差!」




 ミコトからやり方を教わっていたのか。シリカの持つ石は、確かに透明な宝石のようになっていた。

 だがしかし、




「あっ」




 気を抜いた途端、石は砂のように崩れ落ちてしまった。

 残念ながら、失敗である。




 魔法少女たちが、懸命に石を宝石へと錬成。

 するとそこへ、クロバラとミコトがやって来る。




「詰めが甘いですわね」




 お手本を見せるかのように。ミコトは足元に落ちている石を拾うと、そこへ魔力を流し込む。

 複雑な魔力が、まるで芸術のように絡み合い。


 一瞬の輝きの後、それは美しい宝石へと変性した。




「ふふっ。これは、中々の出来ですわ」




 生成したばかりの宝石を、ミコトは見つめる。




「鑑定士を騙すことができれば、車1台分くらいにはなるでしょう」


「マジか」




 その言葉に、ティファニーは驚く。

 金になると知り、俄然やる気が出てきた様子。


 それを見て、クロバラはなんとも言えない表情に。




「本来なら、市場価格への影響があるので、あまりこんな事は出来ませんが。まぁ、ご時世ですので、気にする必要はないでしょう」




 キラキラ錬成。石に魔力を流し、宝石へと変える遊び。

 しかし、遊びとはいえ、それは非常に高度な技術であった。


 倫理的に大丈夫なのか、心配になるところだが。

 クロバラには、他にやるべきことがあった。




「みんな。わたしはこれから、ホープに乗って大陸の様子を観察してくる。あくまでも、大まかにどうなっているのかを確認するだけだ。お前たちはそのまま、遊びでも続けていてくれ」


「……了解です」




 そう言った瞬間、アイリに持った石が粉々に吹き飛ぶ。

 流石のアイリといえど、戦闘以外の魔法はからっきしであった。




「魔力を扱う上でも、それは良い訓練になるだろう。わたしの感覚が正しければ、よほどこの島に魔獣が近づくこともない。だが、有事の際は分かってるな?」


「もちろんです、隊長」




 この島は大陸から離れているため、よほど魔獣が現れることはない。けれども、常に最悪を意識しておくことで、非常時にも動くことが出来る。


 メンバーはここに残したまま、1人ホープに向かおうとするクロバラであったが。

 それを、ミコトが呼び止める。




「もし、迷惑でなければですけど。シリカさんを、連れて行ってはくれませんか?」


「……別に、構わないが」




 ミコトの後ろから、ひょっこりとシリカが顔を出す。




「今後のためにも、この子には経験を積んでほしいのです」


「ふむ。シリカ、飛行機に乗った経験はあるか?」


「えーっと。起きてる間は、ない、です」


「そうか。なら、わたしのフライトを楽しんでくれ」




 シリカを連れて、クロバラはホープに。

 ステルス機能を起動させながら、空へと飛び立った。















 その姿を消しながら。アンラベルの専用機、ホープは北米の空を飛翔する。

 操縦席には、クロバラが座り。そのそばで、シリカは地上の様子を興味深く眺めていた。




「なにか、面白いものでもあったか?」


「えっと、はい。動物が、いっぱい」


「そうだな」




 ディスプレイへと目を向け、クロバラも地上の様子を眺めてみる。

 そこには、美しい自然の風景が広がっており、それと同時に、多種多様な自然動物たちが闊歩していた。




「日本じゃ、あまり動物は見なかったか?」


「えっと、そう。しんりんはかいが進んでて、動物、いっぱい絶滅してるって」


「まぁ、それもそうか」




 かつての大戦時、日本は人類最後の砦と呼べるほど、徹底的な軍事国家となっていた。

 島国ゆえに、その資源は限られており。戦争末期には、食料のほとんどを大陸からの輸入に頼っていたほど。

 戦争から10年。人類が食い荒らした自然は、そう簡単に癒えはしない。


 それと比べると、この北米大陸は真逆である。

 魔獣によって奪われて、数百年。魔獣は人間以外を襲わないため、動物も植物も自然そのままに残っている。

 地球という大きな目で見てみれば、どちらが正しいのだろうか。




「この飛行機、敵の光線、大丈夫?」


「気にすることはない。内側からは分からないだろうが、今はステルスモードを起動させている。この機体は、地上からは見えないようになってるんだ」


「おぉ、すてるす」




 その言葉の意味が、ちゃんと通じているのかは不明だが。

 どうやら、シリカは安心したらしい。




「しかし。この様子だと、あまり入植は進んでいないらしいな」




 地上の様子を眺めながら、クロバラはつぶやく。


 戦争が終わって10年。大英帝国、西洋人の一派がイギリスへと帰還し、それに追従するように人類は失った土地へと戻っていった。

 けれども、所詮は10年。この広大な大陸を支配下に置くには、少なすぎる時間である。

 おまけに、アジアの外の情報は、ほとんどこちら側に存在しない。数百年前と同じように、イギリスは北米へ進出しているのか。それとも、敵国が存在しないヨーロッパに範囲を広げているのか。


 それを知るためにも、こうやって物理的に調査を行う必要があった。




(仮に、街があったとして。一ヶ月以上、持ちこたえているとは思えんが)




 魔獣による一斉侵攻から、すでに一ヶ月以上が経過している。確定情報として、北京の他に、日本も同様に襲撃を受けている。ガラテアの計算が正しいのなら、その他の都市にも攻撃が行われているはず。

 仮に、この北米の大地に都市が存在していたとして。北京のように大量の魔獣に襲撃されたのなら、すでに滅んでいてもおかしくはないだろう。


 他に可能性があるとすれば、ミコトたちのグループのように、魔獣から逃げ回っているか。あるいは、どこかに隠れているか。

 優れた魔法少女が居たとしても、あの新種の魔獣たちから逃れるのは至難の業である。


 ホープのように、特殊なステルス機でも有していれば、別であろうが。



 そんな事を考えながら、クロバラがホープを操縦していると。




「ん?」




 その感覚に、何かが引っかかる。

 自然と、かじを切っていた。




「これは」


「なにかあった、です?」


「ああ」




 間違いない。

 これは人間と、魔獣の気配である。




「シリカ、これから戦闘に突入する」




 ホープを加速させ。

 クロバラとシリカは、気配のする方向へと向かう。






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