第74話 モントリオール(3)
ステルス状態を維持したまま、ホープは全速力でモントリオールへと目指す。
街の位置は、生存者たちから聞かされている。
すぐに対応できるように、メンバーたちはすでにハッチのそばに待機。
今回の操縦はメイリンが担当。クロバラの戦力が必要と考えたため、このような役割分担となる。
「なぁ、ゼノビア。モントリオールって、どんな場所だ?」
ティファニーが尋ねる。
「わたしにも情報がない。イギリス側の情報は、ほとんどアジアに流れてこないから」
知識人のゼノビアにも、モントリオールという街の情報は存在しなかった。
「噂ですが。英国はアジアとの戦争を見越して、情報を隠していたとか」
軍人として、アイリにもその程度の認識しかなかった。
北アメリカ大陸に進出し、まさか街まで築き上げているとは。
ガラテア少佐のメモにも存在しない以上、大した秘匿能力である。
「とはいえ、魔獣の侵攻からすでに一ヶ月以上が経過している。北京でも体験した通り、奴らの攻撃は熾烈だ。どれだけ街が残っているのかは不明だが、優先すべきは人の命だ」
すでに、あの夜から一ヶ月が経った。
このアンラベルという部隊も、すでに場数を踏んでいる。
あの夜のように、ただ逃げるだけではない。
リベンジという気持ちも込めて、メンバーたちはやる気であった。
◆
「ここが、モントリオール」
窓から、地上を見つめて。メンバーたちは言葉を失う。
そこは、ほとんど廃墟と言っていい場所であった。
確かに、大きな街があったのだろう。その名残は感じられる。
だがしかし、それ以上に目立つのが、熾烈な破壊の痕跡。
無情なまでに壊し尽くされた、人類の文明。
北京での惨状を、嫌でも思い出してしまう。
どういう経緯かは不明だが。英国はこの10年で、これだけ大きな街を北米に築き上げた。
人類の復興という意味で、素晴らしい出来栄えであろう。
しかし、それもすでに過去の姿。
魔獣たちの侵攻によって、モントリオールの街は崩壊していた。
「てか、数がヤベェな」
地上の様子に、ティファニーも思わず声を漏らす。
廃墟となった街並みには、当然とばかりに魔獣たちが闊歩していた。
ヒト型だけでなく、クモの姿も見受けられる。
まさに大群。
正面から戦うのは、あまり頭の良い行為ではないだろう。
「こんなとこに、生き残りがいるの?」
ルーシィがつぶやくのも無理はない。
上空から見た様子では、ここはただの廃墟。すでに、滅ぼされた土地である。
けれども、クロバラは作戦を変えるつもりはない。
「助けた奴らの話だと、生き残りは地下のシェルターにこもっているらしい。魔獣が、まだここに残っている以上、その人間たちを探しているのかも知れない」
僅かでも可能性があるのなら、やってみる価値はある。
すでに、戦う準備はできている。
「メイリン、あらゆる周波数で呼びかけてくれ。流石にこの距離なら、妨害電波も関係ないだろ」
『うん、分かった』
操縦席にて、メイリンが通信機を起動する。
もしも生き残りがいるのなら、必ず呼びかけに応えるはず。
クロバラたちは、最後に作戦を確認し合う。
「いいな? 生存者の場所が判明したら、わたしとアイリが別方向で暴れて、敵の注意を引く。その隙に、お前たちは救助にあたってくれ」
陽動役は、クロバラとアイリが担当する。
優れた戦闘力を保有し、いざとなれば単独で逃げることも可能。
「いいか? なるべく単独行動は避け、無理はしないように。何よりも大切なのは仲間の命だ」
「ったく、それくらい理解してるっての」
ティファニーはそう言うも。それでも、クロバラは念を押す。
このメンバーは、1人も欠けてはならない。
「生存者の数が、ホープに乗せられる程度だった場合は、そのままハイダ島に帰還。だが、乗せられないほど多い場合は、数回に分けて移送する。全員、頭に入ってるな?」
クロバラの言葉に、メンバーたちは静かに頷く。
すると、
『隊長。連絡が取れた!』
耳につけた通信機から、メイリンの声が。
「位置は?」
『結構バラバラだけど。街の中心に、比較的集まってるみたい』
「そうか」
生存者たちは、街の中心に集まっている。
ならば、作戦は簡単である。
「よし。わたしは街の北側で、アイリは南側を担当。それぞれ思う存分暴れて、敵の注意を引く。そして、地上の安全が確認でき次第、ホープを街に下ろすんだ」
『わかった』
メイリンも、作戦を了承。
クロバラとアイリが、ゆっくりと立ち上がる。
まずは、2人の仕事である。
「準備はいいな?」
「望むところです」
作戦は簡単。
ホープが街の中心部に降下できるよう、北と南で派手に大暴れする。
アンラベルの中でも、指折りの実力者。
ハッチが開き。
2人の魔法少女が、ホープより飛び去った。
◇
モントリオールの北側。
崩壊した建物の上に、クロバラは降り立つ。
その音を察知してか、すでに何体かの魔獣たちは、クロバラを敵視していた。
「安心しろ。気が済むまで遊んでやる」
いつもなら、スマートに敵を排除するものの。今回は、あくまでも陽動作戦。
クロバラは魔力を全開にし。
巨大な花の結晶が、無数に宙に浮かぶ。
激しい音と共に、クロバラと魔獣たちの戦いが始まった。
おそらく、街の反対側では、アイリも同様に戦い始めたのだろう。
『隊長、副隊長。魔獣たちが、北と南に集まりつつあります!』
「街の中心部は?」
『敵の姿、視認できず。どうやら、まとめてそっちに向かっているみたい』
「よし。なら予定どおり、生存者の救出を開始しろ」
『了解』
陽動は完了。
後は、この力の限り、暴れまわるだけ。
『隊長』
「ああ」
アイリの声。
考えることは同じである。
「死ぬ気で暴れるぞ」
自分たちの役割を果たすべく。
北と南で、2人の魔法少女の戦いが始まった。