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第75話 モントリオール(4)

第75話 モントリオール(4)





 モントリオールの中心部。広場のような場所の上空に、ホープは降下する。

 付近に、魔獣の姿は存在しない。


 機体下部のステルスを解除すると、ハッチが開き。

 ティファニー、レベッカ、ゼノビア、ルーシィ。


 4人のメンバーが、地上へと降り立った。




 周囲を警戒しながら、互いにアイコンタクトを。

 どうやら、魔獣たちは北と南に集まっているようで、中心部はもぬけの殻である。




「メイリン、下は安全だ。生存者に伝えてくれ」


『うん、分かった』




 いつまでも、この状態が続くとは限らない。

 彼女たちの仕事は、出来るだけ多くの生存者を見つけ出し、ホープへと収容すること。



 遥か遠方からは、激しい戦闘の音が聞こえてくる。

 魔獣を引き寄せるために、わざと音を立てているのかも知れないが。


 凄まじい戦闘だというのは、この距離でも理解できる。




「ティファニーさんも、暴れたかったデスか?」


「ちっ。うるせぇ」




 レベッカにそう問われるも、ティファニーは相手にしない。

 流石に、彼女にも理解できていた。今の自分では、魔獣の大群を相手に、単独で戦うことは不可能だと。




 しばらくすると。

 瓦礫をかき分けるように。


 恐る恐るという様子で、生き残りと思われる人々が広場へと集ってくる。




「失礼。あなた方が、アンラベルで間違いないか?」


「おう。そんで、こいつがホープだ」




 おそらくは、魔法少女であろうか。

 生存者の1人が声をかけてくる。




「民間人から収容する。そっちも、動ける魔法少女は手を貸してくれ」


「了解した」




 コミュニケーションは良好。


 どれだけの生存者がいるのかは不明だが。

 作戦は、無事に進んでいく。












 北と南で、クロバラとアイリが敵を引き付け。

 その隙に、街の中心部では生存者の救出が行われる。


 メイリンの呼びかけによって、隠れていた人々が、続々と姿を現し。

 それを見つめていたティファニーは、若干、渋い顔をする。




「こりゃ、思ったより数が多いな」




 喜ばしいことではあるが。思っていたよりも、多くの生存者が街には残っていた。

 おそらく、援軍が来ることを願って、ずっと息を潜めていたのだろう。


 作戦はプランBに変更。

 数回に分けて、生存者を街から運び出さなければ。




「メイリン、許容重量は超えてねぇよな?」


『うん。まだ余裕はあるよ』


「多分だが、生き残りはまだ増えそうだ。もう少し積んだら、例の中間地点まで運んでくれ」


『了解』




 アンラベルのメンバーと、この街で生き残った魔法少女たち。

 全員が力を合わせて、生存者たちをホープへと運んでいく。




「あなた達、本国の部隊?」


「いや。あたしらはイギリスじゃなくて、アジアの部隊だ。てか、今はそんなことどうでもいいだろ?」


「それもそうね」




 生きるか死ぬかという場面に、国や勢力などは関係ない。

 手際よく、生存者を誘導していく。


 何の問題もなく、作戦は進んでいたが。





『――みんな、気を付けて! 敵が来た!』





 そう都合よく行かないのが、現実というもの。

 メイリンの報告を受け、メンバーたちは戦闘態勢へ移行する。




「数は? どっから来てる?」


『北側! クモが一体!』




 すると、

 凄まじい音と共に、クモ型の魔獣が街の中心部へとやって来る。


 人の流れを嗅ぎつけたのか。

 完全に、こちら側を認識していた。




「くそっ、よりによってこいつか」




 ヒト型魔獣とは違い、クモは強敵である。

 この限られたメンバーで、なおかつ生存者を守らなくてはならない。


 難しい仕事だが、ティファニーは頭を切り替える。




「戦えねぇ奴は伏せてろ! こいつはあたしらが対処する!」




 アンラベルのメンバーは、一斉に魔導デバイスを始動。

 デバイス間によるリンクを開始し、クモを相手に戦いを挑む。




 ティファニーの雷撃と、レベッカの近接戦闘。

 いつもの戦術を展開するも。


 不運なことに、今は昼間。

 つまり、クモが全力を出せる時間帯であった。


 クモはステルスを使いながら、メンバーたちを翻弄する。




「感覚を研ぎ澄ませろよ! 一撃でも食らったらヤベェ」


「う、うん」


「……」




 ルーシィとゼノビアは、互いに背後を守り合い。

 ティファニー、レベッカも、真剣な眼差しで敵の気配に気を配る。



 すると、

 野生の勘か、あるいは電気的なものか。


 ティファニーだけが、敵の狙いに気付いた。




「メイリン、避けろ! 狙いはホープだ!」


『ッ』




 その声に、操縦席のメイリンはとっさに反応。

 操縦桿を思いっきり傾け。


 その直後、ホープのいた場所を、敵のビームが通り過ぎる。




「こいつ」




 姿を現したクモに対し、ティファニーはありったけの電撃を叩き込む。

 ヒト型魔獣が相手なら、黒焦げに出来るほどの威力だが。


 相手は巨大なクモ型。

 雷撃は決定打にはならず、再びステルスを使って姿を消してしまう。




「メイリン。ステルスをフルにして、上空に退避してろ。こっちが良いって言うまで、絶対近づくなよ」


『うん、分かった。そっちも気をつけて』




 戦いの激化を予期し、ホープは上空へと退避。


 すると、

 クモに呼ばれたのだろうか。


 何体もの魔獣たちが、街の中心部へと集まってくる。



 単純に、敵を見つけたから群がっているのか。

 それとも、陽動に気づいたのか。



 だがしかし、危機的状況ということに変わりはない。




「あー、こちらティファニー。隊長、副隊長、聞こえてるか?」




 このままでは、生存者たちの救助どころではない。

 作戦は、より苛烈なものへと変わっていく。















「聞こえている」




 街の北側にて。

 大量の魔獣たちと相手をしながら、クロバラは通信に応える。


 敵がホープに近づいている以上、この陽動は放棄して、仲間たちの応援に向かうべきである。

 だがしかし、そうした場合、この大量の魔獣たちも一緒に連れて行くことになってしまう。



 ティファニーの言葉が確かなら、まだかなりの生存者が街には残っている。

 そんな場所に、この量の魔獣を連れて行くわけにはいかない。




(敵の数が、多すぎる)




 なにせ、街を滅ぼしたほどの大群である。

 倒しても倒しても、ゴキブリのように湧いてくる。


 北と南の陽動は止めて。

 クロバラとアイリ、全ての戦力をもって、街の中心を守るべきか。


 そう、考えていると。





――駆逐する。





 どこからか、膨大な量の魔力が。


 凄まじい炎が、街全体を覆うほどの規模で発生する。





 突如として出現した、圧倒的な炎の壁。

 それは魔獣だけでなく、クロバラすらも巻き込む勢いで、街の方向へと動き出し。




「冗談だろ」




 もはや、戦いどころではない。

 炎から逃れるように、クロバラは街の中心部へと移動を開始した。











 魔獣を、建物を吹き飛ばしながら。

 全速力で、クロバラは街の中心部へ。


 仲間たちのもとへとやってきた。


 すると同様に、アイリも中心部へとやって来る。




「そっちもか?」


「ええ。突如、炎が」




 突如として発生した、謎の炎。

 それは街を包み込むほどの勢いであり。


 現在進行系で、街の中心部へと迫っていた。




「この術者、まさか生存者のことを考えてないのか?」


「そのよう、ですね」




 中心部に集まっていた、他の魔獣たちを排除しながら。

 クロバラとアイリは、この炎の原因について話し合う。


 すでに2人とも、これが魔法少女の力であることに気づいていた。




「まさか、七星剣か?」


「いいえ、この魔力は知りません」




 炎を構築するのは、圧倒的なまでの魔力。

 クロバラが今まで感じてきた中でも、最上級の魔力であった。




「……まったく、面倒だな」



 クロバラは、覚悟を決める。




「メイリン、街から離れていろ」


『大丈夫。炎を察知して、もう距離をとってる』


「よし」




 ホープは心配しなくていい。

 ならば、後は目の前の人間を守るだけでいい。


 一体誰が、こんな無茶な魔法を使っているのかは知らないが。

 クロバラも、ここで引くわけには行かない。




「みんな、広場の中心に集まってくれ! わたしが防御魔法を展開する」




 その声に従って。

 アンラベルのメンバーだけでなく、残りの生存者たちも。


 全員が集まったことを確認して、クロバラは魔力を開放。





 祈りを捧げるように。


 その魔法は何よりも美しく、何よりも強靱な盾として。


 街の中心に、大きな花が咲いた。





 全てを焼き尽くす炎と。


 全てを守護する花。


 2つの魔法が、衝突する。






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