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第63話 ファースト・バトル

第63話 ファースト・バトル





 激しい雷音と共に現れた、2人の魔法少女。

 その姿に、ミコトはただ驚くしかない。




「魔法少女、なのですか?」


「あぁ? 見たら分かんだろ、タコ」


「おぉ、ティファニーさん。怪我人相手でも容赦ないデス」




 ティファニーとレベッカ。

 2人はミコトの無事を確認すると、振り返って魔獣たちと対峙する。




「おい、隊長。こいつらで全部か?」


『ああ、そうだ』




 耳につけた通信機で、彼女たちはやり取りを行う。




『いや、少し待て。どうやら後方にいる個体が、妙な動きをしている』


「妙な動き?」


『ああ。お前たちを避けて。なんだ? 何かを追いかけるように、川の方角へと向かっているな』


「川?」


「川、デスか」




 2人の呟いた、川という単語。

 それで、ミコトは何かを察する。




「もしや、魔獣が川の方面へ?」


「あぁ? あぁ、そうらしいが」


「そっちには、他の生存者たちが居るはずです。わたくしがここで時間を稼いでいる間に、逃げるように指示したのですが」


「あー。だってよ、隊長」


『了解した』




 通信機越しに、隊長であるクロバラは状況を把握。




『頼めるか? アイリ』



 最も信頼できる戦力に、人々の救援に向かわせた。











 凍りついた川。それを無事に渡りきった生存者たちだが、その表情に喜びはない。

 無論、理由はみな同じ。




「……ミコトさんのカムイが、消えちまった」


「それに、クロキ少佐も」




 仲間の喪失。それも、精神的支柱であった、強き軍人たちである。


 すると、

 そんな彼らのもとへ、一陣の風が。




「――こんばんは、皆さん」




 身構える隙すらない。

 気がつけばそこに、魔法少女は立っていた。




「なっ。もしかして、魔法少女?」


「はい」




 風と共に現れた魔法少女。

 アイリは、生存者たちを見つめる。




「川の向こうで奮闘する、1人の魔法少女が、生存者のグループについて口にしていました。それは、あなた方で間違いないですか?」


「あ、あぁ」


「ふむ。そちらの魔法少女は、随分と弱っていますね」




 アイリは、背負われた1人の魔法少女を目にする。




「この子は、シリカと言いまして。できれば、治療が必要なんですが」


「どうか、ご安心を。我々がここに来た以上。もう、誰も死なせません」




 そう言って。

 アイリは、鋭い魔力をその身に纏う。


 生存者たちは動揺するも。

 ただ、アイリは真剣な眼差しで。




「皆さん、動かないで。風に引き裂かれますので」




 左右から、音もなく。2体の魔獣が襲いかかる。

 だがしかし。この場合、相手が悪かったと言うべきだろう。



 音を超え、世界を動かすような。

 猛烈な風が発生し。



 周囲の地形ごと、魔獣たちを吹き飛ばす。




「……隊長。生存者たちは全員無事です。なので、戦力は他へ回してください」


『了解した。任務ご苦労』




 与えられた仕事を、ただ真剣にこなす。

 アイリにとっては、呼吸をするようなものであった。











「おんらぁ!!」




 鋭い雷撃を放ち、ティファニーは魔獣を吹き飛ばし。

 その隙間を縫うようにして、レベッカが前に出る。


 それはまるで、光と影のように。

 息の合った連携で、2人は魔獣を翻弄する。




「ははははっ! 本格的にやり合うのは初めてだが、新種ってのも、そう大したことねぇなぁ!」




 真っ暗な世界で、唯一無二の輝きを放つ、閃光の魔法少女。

 しかし、強い光が存在するこそ、そこに影が活きる。




「ちなみに、わたしも、もう攻略法を見つけてマス」




 音もなく、少女は魔獣の背後へと回っており。

 魔力によって生成された刃で、魔獣の心臓を貫いていた。


 言葉すら必要ない、完璧な連携。

 なのだが、




「おいテメェ! 自分の手柄みてぇに言うんじゃねぇ! ぶっ殺すぞ!」


「おやおや。ふふっ、殺せるものなら、どーぞデース」


「はっ、言ったなクソアマ!」




 2人が戦っているのは、一体何だったのか。

 魔獣などお構いなしに、ティファニーとレベッカは大暴れを始めた。


 そんな無茶苦茶な行為に、ミコトはただ唖然とする。




(この方達は、いったい)




 すると、そんな戦い方をしているせいか。

 2人を無視して、1体の魔獣がミコトの元へと。




「くっ」




 もはやミコトに、戦うための余力はない。

 魔獣の脅威に、死を覚悟するも。


 空から飛来した、無数の矢。

 魔力によって形成されたそれが、魔獣を貫き、地面へと縫い留めた。




「やった! 当たった!」


「わたしも命中」


「おぉー、おめでとう!」




 そんな、どこか呑気な声で。

 空からやってきたのは、3人の魔法少女。


 メイリン、ゼノビア、ルーシィの3人である。


 とはいえ、空を飛べるのは飛行型デバイスを持つメイリンだけなのか。彼女に抱えられる形で、残る2人は地上へとやって来た。




「……」




 見た目、そして言動からして、明らかに新人としか思えない魔法少女たち。

 そんな増援に、ミコトはいろいろな意味で絶句する。


 すると、




「じー」



 銀髪の魔法少女。ゼノビアが、ミコトを凝視する。




「な、なんでしょう」




 所属不明。突如として現れた、見るからに経験の浅い魔法少女たち。

 現実味のない光景に、ミコトは警戒心をあらわにするも。




「満身創痍。でも、出血は全て包帯の下から。つまり推測として、ろくな治療環境もないのに、めちゃくちゃ無理をしてる人」


「……はい?」


「実力は、たぶん高め。魔力は使い切ってるけど、安静にしてれば、命の心配はなさそう」




 冷静に、そう判断し。

 ゼノビアは、上に状況を報告する。


 すると、上から通信が返ってきたのか。




「えっと。川を渡った生存者たちは、全員無事だ。魔法少女が護衛についているから、安心するといい。だって」


「それは」




 ミコトが、今一番気にしていたこと。

 それを察してか、上にいる上司は、生存者たちの安否をゼノビアの口から伝えた。


 もっとも、ゼノビアは無表情なので、少々不思議だが。




 降り立った3人の新人は、ミコトを守るように陣形を取る。




「オッケー。任せて、クロバラちゃん。この人は、わたし達が責任をもって守るから」




 一ヶ月の共同生活、基礎訓練の成果を見せるべく。

 魔法少女たちは、初めての戦いへと赴いた。






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