第63話 ファースト・バトル
激しい雷音と共に現れた、2人の魔法少女。
その姿に、ミコトはただ驚くしかない。
「魔法少女、なのですか?」
「あぁ? 見たら分かんだろ、タコ」
「おぉ、ティファニーさん。怪我人相手でも容赦ないデス」
ティファニーとレベッカ。
2人はミコトの無事を確認すると、振り返って魔獣たちと対峙する。
「おい、隊長。こいつらで全部か?」
『ああ、そうだ』
耳につけた通信機で、彼女たちはやり取りを行う。
『いや、少し待て。どうやら後方にいる個体が、妙な動きをしている』
「妙な動き?」
『ああ。お前たちを避けて。なんだ? 何かを追いかけるように、川の方角へと向かっているな』
「川?」
「川、デスか」
2人の呟いた、川という単語。
それで、ミコトは何かを察する。
「もしや、魔獣が川の方面へ?」
「あぁ? あぁ、そうらしいが」
「そっちには、他の生存者たちが居るはずです。わたくしがここで時間を稼いでいる間に、逃げるように指示したのですが」
「あー。だってよ、隊長」
『了解した』
通信機越しに、隊長であるクロバラは状況を把握。
『頼めるか? アイリ』
最も信頼できる戦力に、人々の救援に向かわせた。
◇
凍りついた川。それを無事に渡りきった生存者たちだが、その表情に喜びはない。
無論、理由はみな同じ。
「……ミコトさんのカムイが、消えちまった」
「それに、クロキ少佐も」
仲間の喪失。それも、精神的支柱であった、強き軍人たちである。
すると、
そんな彼らのもとへ、一陣の風が。
「――こんばんは、皆さん」
身構える隙すらない。
気がつけばそこに、魔法少女は立っていた。
「なっ。もしかして、魔法少女?」
「はい」
風と共に現れた魔法少女。
アイリは、生存者たちを見つめる。
「川の向こうで奮闘する、1人の魔法少女が、生存者のグループについて口にしていました。それは、あなた方で間違いないですか?」
「あ、あぁ」
「ふむ。そちらの魔法少女は、随分と弱っていますね」
アイリは、背負われた1人の魔法少女を目にする。
「この子は、シリカと言いまして。できれば、治療が必要なんですが」
「どうか、ご安心を。我々がここに来た以上。もう、誰も死なせません」
そう言って。
アイリは、鋭い魔力をその身に纏う。
生存者たちは動揺するも。
ただ、アイリは真剣な眼差しで。
「皆さん、動かないで。風に引き裂かれますので」
左右から、音もなく。2体の魔獣が襲いかかる。
だがしかし。この場合、相手が悪かったと言うべきだろう。
音を超え、世界を動かすような。
猛烈な風が発生し。
周囲の地形ごと、魔獣たちを吹き飛ばす。
「……隊長。生存者たちは全員無事です。なので、戦力は他へ回してください」
『了解した。任務ご苦労』
与えられた仕事を、ただ真剣にこなす。
アイリにとっては、呼吸をするようなものであった。
◇
「おんらぁ!!」
鋭い雷撃を放ち、ティファニーは魔獣を吹き飛ばし。
その隙間を縫うようにして、レベッカが前に出る。
それはまるで、光と影のように。
息の合った連携で、2人は魔獣を翻弄する。
「ははははっ! 本格的にやり合うのは初めてだが、新種ってのも、そう大したことねぇなぁ!」
真っ暗な世界で、唯一無二の輝きを放つ、閃光の魔法少女。
しかし、強い光が存在するこそ、そこに影が活きる。
「ちなみに、わたしも、もう攻略法を見つけてマス」
音もなく、少女は魔獣の背後へと回っており。
魔力によって生成された刃で、魔獣の心臓を貫いていた。
言葉すら必要ない、完璧な連携。
なのだが、
「おいテメェ! 自分の手柄みてぇに言うんじゃねぇ! ぶっ殺すぞ!」
「おやおや。ふふっ、殺せるものなら、どーぞデース」
「はっ、言ったなクソアマ!」
2人が戦っているのは、一体何だったのか。
魔獣などお構いなしに、ティファニーとレベッカは大暴れを始めた。
そんな無茶苦茶な行為に、ミコトはただ唖然とする。
(この方達は、いったい)
すると、そんな戦い方をしているせいか。
2人を無視して、1体の魔獣がミコトの元へと。
「くっ」
もはやミコトに、戦うための余力はない。
魔獣の脅威に、死を覚悟するも。
空から飛来した、無数の矢。
魔力によって形成されたそれが、魔獣を貫き、地面へと縫い留めた。
「やった! 当たった!」
「わたしも命中」
「おぉー、おめでとう!」
そんな、どこか呑気な声で。
空からやってきたのは、3人の魔法少女。
メイリン、ゼノビア、ルーシィの3人である。
とはいえ、空を飛べるのは飛行型デバイスを持つメイリンだけなのか。彼女に抱えられる形で、残る2人は地上へとやって来た。
「……」
見た目、そして言動からして、明らかに新人としか思えない魔法少女たち。
そんな増援に、ミコトはいろいろな意味で絶句する。
すると、
「じー」
銀髪の魔法少女。ゼノビアが、ミコトを凝視する。
「な、なんでしょう」
所属不明。突如として現れた、見るからに経験の浅い魔法少女たち。
現実味のない光景に、ミコトは警戒心をあらわにするも。
「満身創痍。でも、出血は全て包帯の下から。つまり推測として、ろくな治療環境もないのに、めちゃくちゃ無理をしてる人」
「……はい?」
「実力は、たぶん高め。魔力は使い切ってるけど、安静にしてれば、命の心配はなさそう」
冷静に、そう判断し。
ゼノビアは、上に状況を報告する。
すると、上から通信が返ってきたのか。
「えっと。川を渡った生存者たちは、全員無事だ。魔法少女が護衛についているから、安心するといい。だって」
「それは」
ミコトが、今一番気にしていたこと。
それを察してか、上にいる上司は、生存者たちの安否をゼノビアの口から伝えた。
もっとも、ゼノビアは無表情なので、少々不思議だが。
降り立った3人の新人は、ミコトを守るように陣形を取る。
「オッケー。任せて、クロバラちゃん。この人は、わたし達が責任をもって守るから」
一ヶ月の共同生活、基礎訓練の成果を見せるべく。
魔法少女たちは、初めての戦いへと赴いた。