第64話 繋がる少女たち
遥かなる上空。
ステルスを起動した専用機、ホープの中で。
クロバラは1人、操縦席にて状況を把握する。
(敵の数は10体。小型種のみで、クモの姿は確認できず、か)
左目の奥。そこに宿る魔獣としての感覚で、敵の数を予測する。
厄介な大型種が居ないのは、幸運と思うべきか。
(さて。この程度の相手にも勝てないようでは、先へは進めないぞ)
訓練成果。仲間たちの可能性を見定めるため。
クロバラは1人、上空より指示を出す。
「アンラベル、敵を殲滅しろ」
単純なるオーダーを。
◇
「あたしが光。んで、テメェは影だ!」
「りょーかいデース」
いつの間にか、仲直りをしたのか。
ティファニーとレベッカは、再び手を取り合って戦っていた。
一ヶ月の基礎訓練で、より力が洗練されたのか。
凄まじいコンビネーションで、魔獣たちを圧倒する。
「吹き飛べ、クソがぁ!!」
右腕のデバイスを開放し。
凄まじい雷撃が、魔獣を消し炭へと変貌させる。
デバイスを用いた魔法も、当初より遥かに威力が上がっていた。
そんな様子を、クロバラは上空より観察。
「ふむ。レベッカとティファニーは、流石の能力だな」
目を閉じて、真剣に。
細かな動きまで感知する。
「ポテンシャルの高さは知っていたが。基礎訓練で、ここまで精度が上がるとは。まったく優秀な奴らだ」
そう、独り言のように呟いていると。
『おい、こら。全部聞こえてんぞ』
『心の声、ダダ漏れデスよ?』
「……」
完全に忘れてしまっていた。
通信機によって、全員が繋がっていることを。
「んんっ。無駄口を叩くな、戦え、お前ら」
少々顔を赤らめながら、クロバラは指示を出した。
◇
(あちらのお二方は、かなり上位の魔法少女ですわね)
激しい戦いを繰り広げる、閃光と影の魔法少女たち。
その様子を、ミコトは冷静に観察していた。
滅多にお目にかかれない、洗練されたコンビネーション。
その戦闘能力に、ミコトは舌を巻く。
ならば、こちらの3人はどうなのか。
「よしみんな! コンビネーションデルタで行こう!」
「了解!」
「了解」
メイリン、ルーシィ、ゼノビア。
3人は揃って、自らの魔導デバイスを起動する。
まず初めに。
ゼノビアが、その目で敵を分析。
「解析完了。2人に同期する」
すると、彼女の頭部にある魔導デバイスから、情報が2人へと伝達される。
メンバーが耳につけた小型の通信機が、ゼノビアのデバイスに対応する子機として機能していた。
デバイスの力によって、3人の思考は、限定的ながら1つとなる。
「よーし」
続いて、ルーシィのデバイス。左胸の装置が、強い輝きを放つ。
「エンチャント!」
自らの魔法を、小さな塊へと変化させ。
それをメイリンの両手へと付与。
メイリンの両手に、魔力によって形成された巨大な弓と、大量の矢が出現する。
その力を受け取って、メイリンは空へと。
上空から俯瞰で、敵である魔獣たちの姿を捉えた。
「……」
その目を通じて、ゼノビアが思考をする。
「ターゲット、ロックオン完了」
「オッケー!」
思考の共有によって、メイリンは地上に狙いを定め。
「当ったれー!!」
膨大な量の、魔法の矢。
それを全弾、一斉に射出した。
無論、魔獣たちはそれを回避しようとするも。
回避した先にも、矢が到達しており。
即死点である心臓を含め、全身を貫かれるようにして死滅した。
「まぁ、なんと」
その凄まじい攻撃に、ミコトは思わず声を漏らす。
見るからに新兵だと思っていたのに。
彼女たちの攻撃は、すでに並の魔法少女をも凌駕していた。
そうやって、感心するも。
「おいこら! クソチビ! 今のやつ、あたしにも当たりそうだったぞ!?」
「わーん! ごめんなさーい!」
理不尽にキレるティファニーと、それに謝るメイリン。
なんとも、締まらない戦場であった。
◆
「ふぅ」
ホープの操縦席。
下の戦いを観察していたクロバラは、安堵の声を漏らす。
(デバイスを絡めたコンビネーション。訓練の成果は上々で、ひとまずは安心か)
最も懸念していた、3人の新人たちの戦い。
それをずっと心配していたのだが。
仲間たちの繋がりもあってか、予想を遥かに上回る立ち回りであった。
「アイリ。……いや、聞くまでもないか」
もう一つの戦場に声をかけるも。
無用の心配かと、クロバラは微笑んだ。
「――ええ、隊長」
地上。多くの生存者たちを守っていたアイリから、そんな声が漏れる。
「魔獣は討伐。生存者たちも、無傷です」
そこに広がっていたのは、もはや過剰とも言える攻撃の痕跡。
生存者たちのグループを囲むようにして、広い範囲の地形が吹き飛んでいた。
無論、魔獣は原型が残らないほど、ズタズタに引き裂かれている。
七星剣が1人、疾風のアイリ。
彼女にとって、この程度は戦闘とも言えないものであった。
2つの戦場は、こうして幕を閉じ。
アンラベルの初陣は、これ以上ない、理想的な結果として終わった。