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第64話 繋がる少女たち

第64話 繋がる少女たち





 遥かなる上空。

 ステルスを起動した専用機、ホープの中で。


 クロバラは1人、操縦席にて状況を把握する。




(敵の数は10体。小型種のみで、クモの姿は確認できず、か)




 左目の奥。そこに宿る魔獣としての感覚で、敵の数を予測する。

 厄介な大型種が居ないのは、幸運と思うべきか。




(さて。この程度の相手にも勝てないようでは、先へは進めないぞ)




 訓練成果。仲間たちの可能性を見定めるため。

 クロバラは1人、上空より指示を出す。




「アンラベル、敵を殲滅しろ」




 単純なるオーダーを。











「あたしが光。んで、テメェは影だ!」


「りょーかいデース」




 いつの間にか、仲直りをしたのか。

 ティファニーとレベッカは、再び手を取り合って戦っていた。


 一ヶ月の基礎訓練で、より力が洗練されたのか。

 凄まじいコンビネーションで、魔獣たちを圧倒する。




「吹き飛べ、クソがぁ!!」




 右腕のデバイスを開放し。

 凄まじい雷撃が、魔獣を消し炭へと変貌させる。


 デバイスを用いた魔法も、当初より遥かに威力が上がっていた。





 そんな様子を、クロバラは上空より観察。




「ふむ。レベッカとティファニーは、流石の能力だな」




 目を閉じて、真剣に。

 細かな動きまで感知する。




「ポテンシャルの高さは知っていたが。基礎訓練で、ここまで精度が上がるとは。まったく優秀な奴らだ」



 そう、独り言のように呟いていると。




『おい、こら。全部聞こえてんぞ』


『心の声、ダダ漏れデスよ?』


「……」




 完全に忘れてしまっていた。

 通信機によって、全員が繋がっていることを。




「んんっ。無駄口を叩くな、戦え、お前ら」




 少々顔を赤らめながら、クロバラは指示を出した。











(あちらのお二方は、かなり上位の魔法少女ですわね)




 激しい戦いを繰り広げる、閃光と影の魔法少女たち。

 その様子を、ミコトは冷静に観察していた。


 滅多にお目にかかれない、洗練されたコンビネーション。

 その戦闘能力に、ミコトは舌を巻く。


 ならば、こちらの3人はどうなのか。




「よしみんな! コンビネーションデルタで行こう!」


「了解!」


「了解」




 メイリン、ルーシィ、ゼノビア。

 3人は揃って、自らの魔導デバイスを起動する。


 まず初めに。

 ゼノビアが、その目で敵を分析。




「解析完了。2人に同期する」




 すると、彼女の頭部にある魔導デバイスから、情報が2人へと伝達される。

 メンバーが耳につけた小型の通信機が、ゼノビアのデバイスに対応する子機として機能していた。


 デバイスの力によって、3人の思考は、限定的ながら1つとなる。




「よーし」



 続いて、ルーシィのデバイス。左胸の装置が、強い輝きを放つ。




「エンチャント!」




 自らの魔法を、小さな塊へと変化させ。

 それをメイリンの両手へと付与。


 メイリンの両手に、魔力によって形成された巨大な弓と、大量の矢が出現する。


 その力を受け取って、メイリンは空へと。

 上空から俯瞰で、敵である魔獣たちの姿を捉えた。




「……」



 その目を通じて、ゼノビアが思考をする。




「ターゲット、ロックオン完了」


「オッケー!」




 思考の共有によって、メイリンは地上に狙いを定め。




「当ったれー!!」




 膨大な量の、魔法の矢。

 それを全弾、一斉に射出した。



 無論、魔獣たちはそれを回避しようとするも。

 回避した先にも、矢が到達しており。



 即死点である心臓を含め、全身を貫かれるようにして死滅した。




「まぁ、なんと」



 その凄まじい攻撃に、ミコトは思わず声を漏らす。




 見るからに新兵だと思っていたのに。

 彼女たちの攻撃は、すでに並の魔法少女をも凌駕していた。


 そうやって、感心するも。




「おいこら! クソチビ! 今のやつ、あたしにも当たりそうだったぞ!?」


「わーん! ごめんなさーい!」




 理不尽にキレるティファニーと、それに謝るメイリン。

 なんとも、締まらない戦場であった。











「ふぅ」




 ホープの操縦席。

 下の戦いを観察していたクロバラは、安堵の声を漏らす。




(デバイスを絡めたコンビネーション。訓練の成果は上々で、ひとまずは安心か)




 最も懸念していた、3人の新人たちの戦い。

 それをずっと心配していたのだが。


 仲間たちの繋がりもあってか、予想を遥かに上回る立ち回りであった。




「アイリ。……いや、聞くまでもないか」




 もう一つの戦場に声をかけるも。

 無用の心配かと、クロバラは微笑んだ。






「――ええ、隊長」



 地上。多くの生存者たちを守っていたアイリから、そんな声が漏れる。




「魔獣は討伐。生存者たちも、無傷です」




 そこに広がっていたのは、もはや過剰とも言える攻撃の痕跡。

 生存者たちのグループを囲むようにして、広い範囲の地形が吹き飛んでいた。


 無論、魔獣は原型が残らないほど、ズタズタに引き裂かれている。



 七星剣が1人、疾風のアイリ。

 彼女にとって、この程度は戦闘とも言えないものであった。



 2つの戦場は、こうして幕を閉じ。

 アンラベルの初陣は、これ以上ない、理想的な結果として終わった。






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