目次
ブックマーク
応援する
1
コメント
シェア
通報

第65話 獣の習性

第65話 獣の習性





 アンラベルとして、初めての活動。そして、初めての勝利。

 地上のメンバーたちは、それに喜びの声を上げて。


 上空では。

 ホープの操縦席で、クロバラがほほ笑みを浮かべていた。



 すると、




『すみません。失礼ですが、敵を何体倒したのか、把握は可能でしょうか』




 救出された魔法少女。

 ミコトが、メンバーへそう問いかける。




「全員、魔獣の数を数えてくれ」




 クロバラからの指示を受けて、メンバーたちは魔獣の死体を数えることに。

 敵が生きているならまだしも。死体となると、流石のクロバラでも感知することは不可能であった。


 そして、地上から報告が上がってくる。




『こちらアイリ。生存者のグループを襲ったのは2体、すでに殲滅済みです』


『あー。こちら、ティファニー隊? クソチビの倒したのも含めて、6体ってところだな』


『お〜! つまり、合計で8体という計算デスね』




 どこか陽気に、戦果を報告する面々であったが。

 それを、良しと考えない者が1人。




『つまり、残る2体には、逃げられたということですね』




 通信機越しに聞こえてきた、ミコトのつぶやき。

 その様子に、クロバラは思うことがあったようで。




「すまない、誰でもいい。そこにいる魔法少女に、通信を代わってくれ」




 その言葉に、耳を傾けることに。











「ほらよ」



 耳につけていた小さな通信機を、ティファニーがミコトに手渡す。




「これは?」


「通信機だよ、耳に入れろ。上のチビが、テメェと話したいってよ」




 見慣れない機器に、若干戸惑いながら。

 ミコトは通信機を装着した。




「すみません。通信、代わりました」


『こちら、アジア連合軍所属の特殊部隊、アンラベルの隊長、クロバラだ。逃げた個体に、そこまで気を使う理由を教えてくれ』


「あぁ、はい。こちらは日本国軍、蝦夷防衛師団所属のミコト大尉です。とはいえ挨拶は程々に、逃げた魔獣についてお話いたします」




 互いに所属を名乗ったものの。

 もはや、組織が存在しているかすら不明なため、どうにも妙な感覚である。




「まず、単刀直入にお聞きしますが、逃げた2体を捕捉し、討伐することは可能でしょうか?」


『……それは、難しい問いだな。少し待ってくれ』



 急な問いに、クロバラも驚く。



『ちなみにだが、連中をこのまま逃がすと、なにか面倒なことにでもなるのか?』


「そう、ですわね」



 穏やかに、それでも冷静な口調で、ミコトは魔獣について説明する。



「わたくしも、そこまで確かな情報は持っていないのですが。あのヒト型の個体に、ある習性があることはご存知ですか?」


『習性? いや、知らないな』


「では説明を。あの個体は、基本的に10体で1グループとして行動しており、我々のような人間を見つけると、この通り攻撃を行ってきます。とても、信じられないとは思いますが。わたくし達のグループは、この土地に来た頃は100人以上居ました」


『100人? だが今は』


「ええ。すでにご存知の通り、我々はもう30人にも満たない、非常に小規模な集団になってしまいました。戦闘可能な魔法少女も、一月前は10人居たのですが。今は2人しか残っていません」




 生存者の、大幅な減少。

 それだけでなく、魔法少女の数も大きく減っている。




『10人も魔法少女が居たなら。あの程度の集団なら、撃退できたのでは?』


「ええ、その通りです。実際、当初は我々が優勢であり、魔獣相手に遅れを取ることもありませんでした。ですが、流れが変わったのは一週間ほど経った頃」




 手を、握りしめ。

 この一ヶ月の苦労を、ミコトは思い返す。




「敵は例外なく、10体で1つのグループとしてやって来ました。しかし、戦いを重ねるたびに、敵は手強く。というより、こちらに適応していくような感覚でした」


『……適応』


「ええ。もっと、早くに気づくべきでした。彼らは決まって、グループの個体が半数を下回ると、どこかへ逃走をしていました。我々も、追撃をするほどの余力がないため、幸運だと思い見逃していたのですが」




 そこれこそが、ミコトの懸念する魔獣の習性。




「撃退し、数匹を逃した後。敵は必ず10体に戻り、こちらを学習したかのような動きをするようになりました」




 その襲撃は、数日ごとに、何度も繰り返し行われた。

 魔獣は、どれだけ倒しても補充され。なおかつ、より厄介になって戻って来る。




「動きを学習されたことで、1人、また1人と、こちら側の戦力が削られるようになりました」




 一度、その数が変われば。バランスが崩れるのも早い。

 戦える魔法少女が減れば、その分、防衛能力は削られ。守るべき非戦闘員も、戦いによって失われるように。


 そして、いつしか。生存者のグループは30人を下回るようになり、戦える魔法少女の数も2人に。

 最終的に、ここまで追い込まれてしまった。




「おそらく魔獣には、情報を共有する高い能力があるのでしょう。昼間にしか行動をしないクモ型の個体。あれがその鍵であると、わたくしは考えます」


『詳しく教えてくれ』


「ええ」




 すると、何かが動くような、突風が吹き抜ける。

 見えない何かが、上空を移動するかのような。


 ミコトはそれに驚くものの。

 アンラベルのメンバーは、それがなにか知っているので、特に気にしていない。




『少し揺れたか? 気にせず、説明を頼む』


「は、はい。ヒト型の小型種と、クモ型の大型種が存在することはご存知ですか?」


『ああ。だがこちらは、一ヶ月前の襲撃以来、ずっとシベリアにこもっていてな。連中の詳しい習性などは、理解していない部分が多い』


「なるほど」




 ミコトの口から語られるのは、クロバラたちも知らない新種の情報。




「ヒト型魔獣の即死点が体内に、心臓部分にあることはご存知ですね? そして逆に、クモ型の個体は体の表面に、腹部に大量の花が咲いていることを」


『あぁ、それは知っている』


「昔からの常識ですが。魔獣の活動に必要なエネルギーは太陽光であり、それを取り込むための器官が、即死点である花です。しかし、体内に即死点を持つ小型種は、自らそのエネルギーを得ることが不可能となっています。ですので、あのクモ型の大型種が必要なのです」


『どういうことだ』


「クモの腹に咲いている、擬態のような大量の花。あれら全て、エネルギー生成器官の役割を担っているのです。小型種は、あれを口から摂取することで、活動に必要なエネルギーを得ています。しかもそれだけではなく、クモ型の個体には、小型種を産み落とす機能も備わっていると」


『……なるほど、話が見えてきたな』




 ヒト型の小型種と、クモ型の大型種。

 その役割の違いについて、クロバラも理解し始める。




「彼らの司令塔であり、小型種の活動基盤であるクモは、夜間は基本的に休眠状態になっています。一ヶ月前の襲撃は、例外だったと考えて。エネルギーを節約するために、夜はあまり動けないのでしょう」


『だから、夜にクモは居ない、か』


「ええ。その代わりに、小型種のグループが人間の捜索を行っています。そして、人間を見つけると襲いかかり。敗北の可能性、つまりは個体数が半数を下回ると、親であるクモの元に逃げるようプログラムされているのでしょう」


『そして、新しく産み落とされた個体は、その戦いの記憶を受け継いでおり。より厄介な存在となって、君たちを襲っていたわけか』


「はい。ご存知の通り、わたくし達は壊滅寸前まで追い込まれました」


『ということは、だ。あの2体をそのまま逃がすと、非常に面倒なことになるな』


「ええ。逃げた個体は、あなた方の情報まで有しています。それを知ったクモがどう動くのか。あるいは、もっと大きな魔獣の本体へと、その情報が伝わるのか。どちらにしろ、良いことではないのは確かです」




 情報を知られる。共有される。

 それは戦争において、最悪とも言えること。




「すみません、もっと早く、わたくしが警告するべきでした。小型種を追跡するのは、ほぼ不可能だというのに」




 魔法少女同士なら、魔力を辿ることで互いの位置を把握できる。しかし、相手が魔獣となれば話は別である。

 しかも小型種は、体内に即死点を隠しているせいか、非常に感知が難しくなっている。


 普通の魔法少女にとっては、そうなのだが。




『――問題ない』



 クロバラにとっては、それまた別の話。




『逃げた個体は、すでに捕捉済みだ。大本のクモも含めて、わたしが始末する』




 遠の昔に、ホープはこの上空より飛び立っており。

 クロバラは、戦闘態勢へと入っていた。






この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?