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第44話 小さな一歩

第44話 小さな一歩





 崩落した地下通路。そこにやって来たメイリンは、軍人たちと一緒に瓦礫をどかす作業と行っていた。この先に、生き埋めになっている人達がいる。レイチェルに頼まれた仕事でもあるため、メイリンは必死に作業を行っていた。

 だがしかし、メイリンは今日から軍人となった素人の魔法少女である。魔力強度の測定に合わせて、魔力には目覚めた。しかし、扱い方などの訓練は一度も受けておらず、自分自身が未だに魔力を実感できていない。




「おも、たい」




 ゆえに、その肉体は同年代の普通の少女と変わらない。10歳そこらの少女の力では、とても瓦礫の撤去作業など行えるはずもなく。

 作業は、絶望的なまでに進んでいなかった。




「ううん。だめ、諦めちゃ」




 メイリンは思い出す。どうして、自分がここまで来ることが出来たのか。それは、背中に背負った翼型のデバイスのおかげである。

 メイリンのデバイスの名は、ルスト・ウィング。そして、強靭な金属で出来ている。メイリンは、この翼を撤去作業に利用することに。


 金属製の翼を器用に動かして。まるでシャベルのように、瓦礫の山を動かしていく。魔法少女としての力ではないものの、これが今の自分に出来る精一杯。

 周囲の軍人たちからの声援も受けながら、メイリンは必死にデバイスを動かし。


 なんとか、向こう側へと穴を掘り進めることに成功した。




「おーい! 全員無事か?」




 軍人たちが、避難民たちと合流する。

 その様子を見ながら、メイリンは地面へとへたり込んだ。肉体的な疲れはそれほどでもないが、初めての任務完了に心がホッとした様子。


 とはいえ、仕事はまだ終わっていない。




「悪い、嬢ちゃん。反対側の瓦礫もどかしてくれないか? あっちをどうにかしないと、街の方へ避難できない」


「はい、分かりました」




 ゆっくりと立ち上がり。メイリンは、仕事の続きへと。

 だがしかし、そこには大きな壁が立ちはだかる。




「……そんな」




 街の方へ繋がる、反対側の瓦礫。それは、巨大な1つの塊であった。先ほど突破したのが瓦礫の山だとしたら、こっちは巨大な岩のようなもの。重さは桁外れであり、なおかつデバイスで掘れそうな雰囲気でもない。

 メイリンには、あまりにも大きすぎる障害物であった。




「無理そうか?」


「すみません」


「いや、しょうがない。こんなでかい瓦礫、他の魔法少女だって難しいさ」




 軍人の男性が励ましてくれるも、それでも落ち込むもの。この瓦礫をどうにかしなければ、彼らは避難できないのだから。




「悪いが、こっちの方を手伝ってくれないか? 瓦礫の下敷きになって、動けない奴が居るんだ」


「分かりました」




 仕方がないと、メイリンは別の仕事をすることに。

 そこで、思いがけない再会が待っているとは知らず。











「そんな。おとう、さん?」




 瓦礫の下敷きになった人間。それを助けるべくやって来たメイリンであったが。その人物を見て、呆然となる。なぜならその人物こそが、メイリンがここまでやって来た理由。工場で働いていた、彼女の父親なのだから。




「わ、わりぃ。俺がドジだから、こいつは俺を庇って下敷きになったんだ」




 同僚であろうか。別の男性が懺悔をするも、メイリンの耳には届かない。

 父親の元へと、一目散に駆け寄った。




「お父さん! しっかりして!」




 メイリンが声を掛ける。

 すると、その声に反応してか、父親は意識を取り戻した。




「メイリン? そう、か。軍人に、なったんだもんな」


「お父さん、大丈夫だよね?」


「……最後に、お前の顔を見れて良かった」


「やだやだ。最後なんて言わないで」




 メイリンが必死に声を掛けるも、父親はそのまま意識を失ってしまう。

 軍人の1人が、彼の様子を見る。




「頭を打ってるな。おまけに、下半身がどれだけ潰されているのか」




 巨大な瓦礫は、人の手にはあまりにも重たすぎる。数人の大人たちが力を合わせて動かそうとするものの、まるで動く気配がなかった。

 その現実に、メイリンは動けない。思考が追いつかない。魔法少女なのに、人を助けないといけないのに。頭では分かっていても、体が動かない。

 他の大人たちも、そんな彼女を責めたりはしない。




「いくら魔法少女でも、まだ子供すぎる」




 魔法少女は、人類を超えた存在。それは周知の事実だが、何事にも限度がある。たった1人の幼い少女に、この現実はあまりにも過酷すぎた。


 誰も責めたりはしない。まだ子供、魔法少女になったばかり。そんな言い訳のような言葉が、メイリンの脳裏にこだまする。




(――ううん、違う)




 メイリンは、前を向く。そんな言い訳など、意味がないと。小さくても強い魔法少女が居ると、彼女は知っていた。

 脳裏に浮かぶのは、同じ部隊の仲間であるクロバラの姿。彼女は自分よりも小さいのに、まるで大人のように落ち着いていて、戦うための力を持っている。




「わたしだって、あの子みたいに!」




 鼓動が、強く。

 心臓が脈打ち、おびただしい魔力が発生。メイリンの体を包み込む。


 初めて、地力で発生させた魔力。

 やるべきことは分かっている。




「よしっ」




 全身に力を込めて、瓦礫に手をかけ。思いっきり、メイリンはそれを持ち上げる。

 すると、大人たちでもびくともしなかった巨大な瓦礫が、ゆっくりと動き出し。数十センチほど持ち上がる。




「おい! 今のうちに引っ張るぞ!」


「おう!」




 メイリンが生み出した、僅かな隙間。それを無駄にしないべく、大人たちは動き出し。なんとか、メイリンの父親を救出することに成功した。




「ふぅ」



 巨大な瓦礫を、ゆっくりと地面へと下ろす。




「こんな大きいのを、わたしが?」




 自分の成し遂げた仕事。

 魔法少女として、メイリンは第一歩を踏み出した。






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