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第45話 絆と魔法

第45話 絆と魔法





「……メイリン」


「お父さん! 大丈夫なの?」




 意識を取り戻した父親に、メイリンは飛びついた。これほどまで、安心できることはないだろう。




「ああ、なんとか。死ぬほど痛いが、足の感覚も戻ってきた」


「あっ。ごめんね、お父さん」




 相手が怪我人であることを思い出して、メイリンは父から離れる。




「絶対に止めたほうがいいと。言ったのは俺だったのにな。まさか、メイリンに助けられるとは」


「ううん。わたしも、ごめんね。みんなに嘘ついて、魔法少女になっちゃって」


「いいんだ。もっと、俺が頼りになれればよかった」




 嘘つき。



 メイリンは、嘘つきな少女である。

 それと同時に、とても他人思いな少女でもある。


 かつて入隊試験の際に、親に魔法少女になるように言われたと、クロバラに嘘の話をした。

 本当は自分の意志で、親の反対まで押し切って来たというのに。


 不安で、怖くて。それでも、自分と全く違うクロバラの姿を見て、本当の理由を言うことが出来なかった。

 望んで魔法少女になったわけではないと、嘘と言い訳をしてしまった。



 しかし、今はもう違う。




「心配しないで、お父さん。わたし、頑張るから」


「……そうか。」




 メイリンの言葉に、父はどこか寂しそうな。

 けれども、決してそれを悟らせないように、メイリンに対して微笑みかける。




「ちゃんと、帰ってくるんだぞ」


「うん。行ってきます」




 嘘偽りのない。

 魔法少女としてのメイリンは、ようやく羽ばたいた。











 父親との再会を果たし、メイリンは自分のやるべきことを。避難のために必要な、もう一方の瓦礫をどかすために立ち上がる。

 先ほどどかした瓦礫とは、比べ物にならないほどの大きさ。持ち上げるというよりも、破壊するという方が正しい選択であろう。


 父親を含め、ここに居る多くの人たちを救うため。メイリンは再び、全身に魔力を纏わせる。

 自分にどこまで出来るのか。こんな大きな瓦礫を、本当に壊すことが出来るのか。けれども、そんな不安は必要ない。

 全身に満ちた魔力を、右の拳に、その一点に集束させ。




「くっ」




 小さな拳で、メイリンは巨大な瓦礫を。

 瞬間、衝撃波が発生し。



 まるでミサイルのような威力で、瓦礫を粉々に吹き飛ばした。



 その衝撃的な光景に、他の大人たちも唖然とする。

 先ほどまで、何も出来ないという様子の少女だったというのに。ただ、心構えが変わっただけで、ここまで彼女は成長した。




「わぁ」




 当の本人は、自分のパンチ力に驚くしかない。確かに、全力を込めたが。まさかここまでぶっ飛んだ威力が出るとは、まったく持って予想外であった。

 これからは、気をつけないと。

 メイリンがそんな事を考えていると。




「おい! 魔獣だぞ!」




 背後から、叫び声が。

 魔獣がやって来た。


 しかも、メイリンが壊した方向からではない。反対側から。つまり、レイチェルが守っていたはずの出入り口を通って、魔獣がやって来たことになる。

 敵は、小型種の一体だけ。だがそれでも、メイリンにとっては恐怖でしかない。




「ど、どうすれば」




 瓦礫をかき分けて、こちら側へとやって来る。

 確かにパンチは出来るが、敵と戦えるかどうかはまた別の問題である。それに、レイチェルがやられたという現実に、メイリンは強いショックを受ける。

 さっきまで話をしていた人が、死んでしまった。それは少女にとって、あまりにもショッキングな事実であり。それゆえ、反応が遅れてしまう。




「メイリン、逃げろ!」




 父親の声が響く。

 大勢いる大人たちを無視して、魔獣はメイリンを狙ってきた。


 急に現れた敵に、メイリンは反応することが出来ず。




「――くたばれ、コラァ!!」




 すんでの所で、別の拳が魔獣を吹き飛ばした。

 現れたのは、出入り口を守っていた魔法少女、レイチェル。彼女は決して死んだわけではなく、現にこうして、皆のもとへ駆けつけた。




「心臓が、弱点なのよね」




 吹き飛ばした相手に、容赦は無用。起き上がる前に、レイチェルはトドメとばかりに、心臓に手刀を突き刺した。

 これにて、戦闘は終了である。




「ふぅ、危なかった。まさか通路に逃げるなんて、マジで焦ったわ」




 ホッとしたような様子で、レイチェルは地べたに座り込む。

 そこへ、メイリンが駆け寄ってくる。




「あの、レイチェルさん。ありがとうございます」


「はぁ? なに言ってんの? あれを逃がしたのはわたしの落ち度だから、あなたが謝るのはお門違いよ」




 何でもないという様子で。

 少し座って落ち着いたのか、レイチェルは立ち上がると、周囲の様子を確認する。


 五体満足で生きている避難民たちと、粉々に吹き飛ばされた瓦礫の破片。それを見て、メイリンが何をやったのかを理解する。




「やるじゃない、あんた」


「あぅ、どうも」




 ぐしゃぐしゃと頭を撫でて、レイチェルはメイリンを褒めた。

 頼もしい後輩が現れたことに、彼女も満足そうであった。




「最初はまぁ、クソ素人が来て最悪って思ったけど、結果的には最高だったわね」


「そ、そんなにですか?」




 ただ、瓦礫をどかしただけなのに。そこまで褒められるとは、メイリンも予想外。

 しかし、それには理由があった。




「あなたがここに来なかったら、多分わたしは死んでたわ。そして間違いなく、ここの連中もね」


「……えっと、うん?」




 なぜ、彼女の命が助かったのか。

 話が飛躍しすぎて、メイリンの理解が追いつかない。




「あなたの名前、メイリンよね」


「は、はい」


「いい仲間に恵まれたわね。ちゃんと感謝するのよ」


「……それって」




 メイリンは、目を見開く。なぜ彼女が、助かったと口にしたのか。

 そのピースが、頭の中で組み合わさる。




「上に行きなさい。お友達が待ってるわよ」




 決して、1人ではない。

 メイリンは、アンラベルの一員なのだから。











「ふぅ」




 崩壊した町並み、この世の終わり。大量の血の海の中で、眼帯をつけた少女はため息を吐く。

 彼女が座っているのは、大型の魔獣、ゼノスパイダーの亡骸。そしてその周囲には、小型の魔獣、ゼノスタンドの大群が横たわっている。




「なんだか隊長、タバコとか吸いそうな雰囲気」


「……気のせいだ」




 仲間のレベッカも、平気そうな様子で死骸の間を歩いている。


 この程度の魔獣が相手なら、まるで相手ではないとばかりに。

 2人は、ここに間に合った。






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