第30話 ドン引き
新型魔獣に対する会議を行うため、博士も出席するように。そういう連絡が来ているにもかかわらず、ガラテアは呑気に過ごす。
特殊部隊アンラベル。その訓練場にて、メンバーたちの鬼ごっこを観察する。その重要な仕事のために、会議を欠席していた。
軍人たちの話はつまらない。どうせ、程度の低い議論をしているに決まっている。そういう考えのもと、ガラテアはサボることを決意した。
そうこうしている内に、基地内に鐘の音が鳴り響く。正午を告げる音が。
「ふぅ、ようやくランチタイムね。……それで、結果は?」
アンラベルのメンバーたちに目を向ける。すでに訓練場には、オニ役であるアイリを含め、多くのメンバーが集まっていた。ティファニーやレベッカという問題児に、クロバラまで。
だがしかし、全員ではない。
「あら、あの一番小さい子。メイリンが居ないじゃない。まさか、見つけられなかったの?」
「はい。申し訳ありません、少佐」
アイリが、悔しそうに声を漏らす。自分の持つ全ての力を行使したというのに、全てのメンバーを見つけることが出来なかった。
最強の魔法少女、七星剣の1人として、恥ずべき結果であった。
とはいえ、ガラテアはそんなことは気にしない。所詮、これは単なる鬼ごっこ。時間を潰すためのレクリエーションだったのだから。
真面目な訓練だと誤認していたのは、アイリと、クロバラくらいなものであろう。
「それで、メイリンはどこなの?」
「わかりません。彼女の魔力は特徴的なので、絶対に見つけられると踏んでいたのですが。今現在になっても、まだ確認が」
ガラテアとアイリがそんな話をしていると。
何かを思い出したように、クロバラが手を挙げる。
「失礼。メイリンを連れてきますので、先に食堂へ行っていてください」
「あら、あなたは場所を知っているの?」
「ええ、まぁ。というより、わたしが呼びに行かないと、彼女は戻ってこないので」
「……なんだか意味深ね」
クロバラだけが知っている、メイリンの隠れ場所。
それに興味を持ったので、ガラテアは付いていくことを決定。
仕方がないので。
他のメンバーも、それを見に行くことに。
そうして、クロバラがやって来たのは、誰も使用していない宿舎の一室。
そこにあるロッカーを開けると、最後の一人であるメイリンが、静かに眠りについていた。
「なるほど、考えたわね」
ガラテアは、メイリンが逃げ延びた理由を察する。
「確かに睡眠時なら、制御不能の魔力も消失するし。ロッカーという閉鎖空間なら、アイリの風を用いた索敵にも引っかからない。ズブの素人だと思ったけど、まさかこんな策士だったなんて」
確かに、ガラテアの考えは合っていた。
しかし、そもそもの前提が間違っていた。
「いえ、メイリンは自分でここに隠れたわけではありません。そもそも、寝ようと思って眠れるほど、人は上手く出来ていないでしょう」
「……つまり?」
ガラテアの問いに、クロバラはなんとも言えない表情をする。
「もしもこれが実戦なら、メイリンは足を引っ張るだけの存在です。魔力を隠せず、なおかつ他の手段を持っているわけではない。ならば、無理矢理にでも生存させるのが、この場合適切だと考えました」
――一緒に隠れよう、クロバラちゃん。
――すまない、メイリン。
「ちょっと待って。つまりあなた、この子を無理やり気絶させて、ここに閉じ込めたってこと?」
「……気絶という言い方は、少し語弊があります。しっかり、安全な方法で眠らせました」
いかに特殊な状況とはいえ、かくれんぼは、かくれんぼである。
お粗末ながら、隠れようとした者。卑怯な手を使って、逃げ延びようとした者。バケツを被って、格闘戦に持ち込んだ者。
だがしかし、メイリンはどのパターンにも当てはまらない。
なにせ、本人の意志に関係なく、この場所に隠されていたのだから。
「……いや、ドン引きだわ」
問題児であるティファニーでさえ、そう呟いてしまうほど。
クロバラの思考回路に、メンバーたちは恐怖した。