第31話 仲間の形
「お、美味しい!!」
基地内にある食堂。そこに、アンラベルのメンバーは集まっており。かくれんぼ唯一の勝者であるメイリンが、屈託のない笑顔で食事を口に運んでいた。
まるで、何もなかったかのように。
事実、メイリンからしてみれば、気づいたらかくれんぼが終わっていたのだから、仕方のないことであろう。しかも、勝者である彼女には、ガラテアが特製デザートを奢ってくれるという話である。
そのこともあり、メイリンはひどくご機嫌であった。
なにはともあれ、彼女が元気ならそれでいい。一方的に眠らせ、ロッカーに隠した張本人であるクロバラは、満足げにそれを眺める。
周囲にどう思われようと、メイリンを勝たせたという結果は確かなのだから。
「はぁ。今日まで、生きててよかったぁ」
食事の内容は、他のメンバーと何も変わらない。しかし、メイリンの反応は誰よりも大きかった。
それほどまでに、今までの食事が酷かったのだろうか。
(戦争が終わったとはいえ。やはり、すべての国民が平等というわけにはいかないか)
メイリンが、どのような環境で育ってきたのか。クロバラの興味は、そこに向けられていた。
(とはいえ、着実に良くはなっているはず。軍の食事だって、10年前とは大違いだ)
メイリン程ではないものの。クロバラ自身、食事の内容に多少なりとも感動していた。
新鮮な野菜や、肉も入っている。それが全員に振る舞われているのから、大したものであると。
「確かに、これは贅沢だな」
「うんうん」
クロバラとメイリン。食事に感動する、2人の少女。
アンラベルの他のメンバーは、なんとも言えない表情で眺めていた。
「メイリン。君の両親は、どんな仕事をしてるんだ?」
「うーん。お父さんは、前までチョコレート工場で働いてて。でもそれをクビになって、今は別の工場、なのかな?」
「……そうか」
そういった話をする2人。
なんでもない風景だが。
ただ1人、アイリだけが険しい表情で見つめていた。
理由はもちろん、クロバラである。
「……」
かくれんぼの途中まで、アイリはクロバラのことを見くびっていた。
確かに、上層部からの命令で、彼女を監視してはいたものの。妙に落ち着いていることを除けば、話の通じる良き魔法少女という印象であった。
だがしかし、あの一瞬が全てを変えた。トイレの前で、レベッカと激しい戦いをしていたさなか。気づけば、クロバラは2人の間に立っており、双方の攻撃をいともたやすく止めていた。
室内という限られた領域、大規模な魔法を使えないという状況ではあったものの。少なくとも、アイリの神経は研ぎ澄まされていた。だというのに、クロバラの介入に気付けなかった。
あの一瞬。もしも彼女に敵意があった場合、殺されてもおかしくなかった。
レベッカのような、明らかな精神異常者とは違う。何の変哲もない経歴で、あのような戦闘能力は説明がつかない。
どれほどの天才であろうと、訓練もなしに魔法少女の戦いに介入することは不可能である。それも、七星剣の1人であるアイリの戦いに。
クロバラは、何かを隠している。アイリの中で、それは確定事項となっていた。
将軍から聞かされた話では、人の形をした魔獣、という可能性も上がっていたが。今となっては、それもあり得ない話ではなくなった。
(……だが)
アイリの中には、どうしても腑に落ちない事があった。もしも仮に、クロバラの正体が、人類に仇なす魔獣だったとして。あの戦いを止めた技は、明らかに人の技術であった。
軍人、魔法少女が扱う格闘技術。まるで、その真髄を極めたかのような。そんなあり得ない可能性すら、アイリは感じてしまった。
クロバラは、何かを隠している。しかし、もしも彼女の正体が魔獣だとして、あのような人間の技術を使うだろうか。
そんな事を、悩んでいると。
「いただき!」
「あっ、こら!」
隣からつまみ食いしてくるレベッカによって、思考は有耶無耶に。
悩みは、かき消された。
「……」
ランチを食べながら。ガラテアは、アンラベルのメンバーたちを眺める。
良好にコミュニケーションを取るメンバーに、揉めつつも変化を続けるメンバー。
一部は、まだ溶け込めていないものの。一応、部隊としては形を保っていた。
(これなら、大丈夫かしら)
集められた少女たち。一人一人、色の違う少女たち。
彼女たちが集められたのには、大きな理由があるのだから。