第32話 正式始動
午後。
アンラベルのメンバーは、再び訓練場に集められていた。
しかし、訓練場の様子はランチ前とは異なっており。一般的な兵器とは異なる、特殊な機械が用意されていた。
まるで、メンバー全員に支給されるかのように。
「これが、あなた達が扱う試作型魔導デバイス、シックスベースよ。それぞれ名札が付いてるから、自分のデバイスを体に装着して」
ガラテアの命令に従って、メンバーたちは機械へと近づいていく。見慣れないハイテクに、少々動揺する少女たちであったが。
これこそが、本来の仕事なのだから。それを受け入れて、自分のデバイスへと手を伸ばしていく。
だがしかし。
ただ1人、クロバラだけが困惑する。
用意されたデバイスは、全部で6つ。シックスベースと呼ばれているのだから、それもそうなのかも知れないが。
残念なことに、クロバラのデバイスだけが用意されていなかった。
「あの、少佐。わたしの、デバイスは」
その反応を待っていたとばかりに、ガラテアはデバイスに関する説明を始める。
「シックスベースとは、兵士にとって重要な6つの資質のこと。そして、あなた達に渡したデバイスは、その資質の1つを高める効果を持っている。それぞれ、最も相応しいデバイスをわたしが考えて、試験運用できるように調整してあるわ」
その説明は、6つのデバイスに対するもの。
ゆえに、クロバラの疑問に答えるものではない。
「残念だけど。クロバラ、あなたに適合するデバイスは存在しないの。兵士にとって重要なシックスベース、あなたはそれと相性が悪いって、計算で分かったから」
「そ、そんな」
兵士としての資質、それと相性が悪い。クロバラにとって、それは思いも寄らない宣告であった。
むしろ今まで、そこだけは自信のある項目だったのだから。
「ははっ。兵士としての資質がないとか、お前なんで魔法少女になれたんだぁ?」
ティファニーから野次が飛んでくるも、もはやクロバラの耳には届いていなかった。
それほどまでに、ショックが大きかったのだろう。
そうやって、呆然とするクロバラであったが。
そんな彼女に、ガラテアはあるものを差し出す。
「というわけで、あなたのデバイスはこれよ」
「……なっ」
クロバラは絶句する。
それは、銃だった。
いわゆる、ハンドガンタイプの魔導デバイス。実弾ではなく、魔力を消費する代物であろうか。既存の兵器と、あまり変わらない姿をしていた。
他のメンバーのデバイスは、腕や足に装着するものが多いため。それに比べると、兵器として単純な構造に思える。
しかし、ハンドガンタイプのデバイスに、クロバラの瞳は輝いているようだった。
「それは、一般兵士向けの魔導デバイスよ。魔力のない人間でも、扱える代物になってる」
魔法少女の能力を向上させるシックスベースとは違い、一般兵士を強くするためのデバイス。
他のメンバーとは、コンセプトの違うデバイスであった。
「シックスベースより優先度は低いけど。これも重要な兵器だから、お願いできるかしら」
「はい、もちろんです」
銃を手に入れ、クロバラは喜んだ。
◆
兵士に重要な6つの資質、シックスベース。それを向上させるためのデバイスを、アンラベルの少女たちが纏う。
そのどれもが、体の一部に装着するものであり。腕や足、頭部や背中など、様々な場所に装着していた。
その中で、クロバラだけが小型の銃と、変に異色を放っていた。
しかし、そんなメンバーの様子を見て、ガラテアは満足げな顔をする。
「実験的な部隊とはいえ、アンラベルも軍の一部よ。だから一応、この部隊の隊長を決めましょうか」
ガラテアは、この部隊の責任者ではあるものの、正規の軍人というわけではない。
それゆえ、メンバーをまとめる隊長が必要と考えた。
「わたしは、クロバラでいいと思うのだけれど。特に反論はない?」
ガラテアの放った、その言葉。名指しされた本人を含め、何人かは驚きの表情をするものの。
一番大きな反応をしたのは、やはりティファニーであった。
「はぁ!? こんなチビガキが隊長だぁ? どういう考えしてんだよ!」
「どういう考え? そう言われても。総合的な判断、としか言えないわね」
納得のいく説明はない。
ただ、クロバラが相応しいと、そう確信しているかのようだった。
「文句があるなら、多数決でもする? クロバラが隊長になることに賛成か、それとも反対か。どちらか一方に挙手をするように」
ガラテアは、他のメンバーに賛否を求める。
「それじゃ、反対の人、手を挙げて」
そう言われて、手を挙げたのは。
なんと、ティファニーただ1人。
「だっ。冗談だろ、テメェら」
ティファニーが悪態をつくも、他のメンバーは手を挙げる様子がない。
クロバラがリーダーに相応しいかどうか。
そういう話ではなく、おそらくメンバーの何人かは、誰でもいいという判断なのだろう。
自分でなければ、誰でもいい。
ゆえに、クロバラという決定に反対するだけの理由がなかった。
「本人が拒まない以上、これでいいんじゃない? どうかしら、クロバラは」
「……任命された以上、責務は全うします」
「らしいわ。じゃあ、みんなそれでお願いね」
ガラテアの思惑通り、部隊長はクロバラに。
そうして、アンラベルは正式に動き出した。