第33話 魔導デバイス
アンラベルに割り当てられた訓練場。
そこで、メンバーたちは各々の魔導デバイスを身に纏い、その機能の確認作業を行うことに。
兵士に重要な要素、シックスベースを強化するための特殊装備。
メンバー6人は、それぞれが適性の高い装備を与えられており、全員が全く異なる性能を有している。
メンバー最年少。メイリンが装着するデバイスは、背中に装着された翼のようなデバイス。
デバイス自体にその機能があるのか、メイリンはすでに浮遊能力を発動させていた。
「……あれ、どうやって戻るんだろう」
浮遊したまま、メイリンは絶句する。
先日まで一般人であった彼女に、飛行魔法は早かった。
続いて、問題児その1。
ティファニーが装着するのは、右手に装備するガントレットのようなデバイス。見た目からして、攻撃的な性能を感じさせられる。
「はっ、気に入ったぜ」
マニュアルなど読む必要はないと。新しく手に入ったおもちゃに、ティファニーはご満悦であった。
続いて、問題児その2。
レベッカが装着するのは、左腕に装備するタイプのデバイス。ティファニーのデバイスと比べて、少々スリムなデザインをしていた。
「……なにか、微妙デスね」
マニュアルとデバイス、双方を見つめながらレベッカは悪態をつく。どうやら、あまり彼女の好みではなかった様子。
次に、七星剣が1人、アイリ。
彼女が装着するのは、ブーツのような形状をした両足用のデバイス。
「……なるほど」
かなりのハイヒールであり、慣れない格好に動揺していた。
5人目。
金髪の少女、ルーシィが装着するのは、左上半身を覆うアーマーのようなデバイス。
「なんだか、安心する」
他のデバイスと比べて、見た目の安心感が強いのか。ルーシィは、とにかくホッとしていた。
最後の1人。
ゼノビアが装着するのは、頭部に装備する小型のデバイス。
「……情報処理デバイス? わたしに合ってる」
他のメンバーのデバイスと比べ、兵器という印象が薄いものの。彼女は満足げであった。
6人に用意されたデバイスは、どれも他と違う特注品。それゆえ、どういう機能があるのか、何が出来るのか、マニュアルを確認する必要があるものの。
その例外。クロバラのみ、銃という分かりやすいデバイスを渡されたため。
他のメンバーより早く、試験運用を始めていた。
訓練場の一角。射撃場となる場所で、クロバラはガラテアからの説明を受ける。
「それは、将来的に一般の兵士でも扱えるようにするデバイスよ。外付けの魔力バッテリーで、誰でも魔力弾を扱えるようになる」
「なるほど。つまり、実用化される際には、もう少し重くなるわけと」
「ええ。あなたに渡した試作品は、使用者の魔力をそのまま弾丸に変換させるタイプだから、バッテリーは装着してないわ」
魔力を弾丸に変える。その分かりやすい機能に、クロバラは満足したのか。
おもむろに銃を構えると、躊躇なく引き金を引いた。
すると、鋭い閃光が発射され。
的を見事に射抜いていた。
「あら、上手ね」
「……いえ、そうでも」
的に当たっていたものの。クロバラは、その結果に満足していない様子。
なんとも怪訝な表情で、銃口を睨んでいる。
「この銃を設計したのは、少佐でしょうか」
「そうだけど。何か問題でも?」
「……いえ、今は特に」
クロバラの中で、問題は自己解決したのか。
再び、的に向かって銃を向けると。
3発ほど、連続して発砲し。
その全てが、的の中心部に命中していた。
素人の成せる芸当ではない。
しかし、ガラテアはあまり驚いていない様子であった。
まるで、その腕前を知っていたかのように。
「自分への説明は、もう結構なので。他の隊員のフォローに回ってあげてください」
「あらそう? じゃあ、あとはお願いね」
クロバラへの説明は、これで十分と。
続いてガラテアは、準備完了という様子のティファニーの面倒を見ることに。
だがしかし、
「あたしに指導は必要ねぇ。それより、宙に浮かんだガキンチョを助けろよ」
ティファニーはそう言って、1人で射撃場へ。
クロバラのすぐそばまでやって来る。
「どけよ、チビ隊長。そんな玩具と違って、あたしのは本物の武器だぜ?」
「……分かった」
射撃訓練がしたいなら、少し離れればいいものの。ティファニーはクロバラの場所を奪うと、的に向けてガントレットを構える。
すると、ガントレットの機能だろうか。彼女の魔力が、右腕へと集中し。
そこから、激しい魔力が解き放たれた。
その一撃、もはや大砲のように。
的を粉々に吹き飛ばし、壁に風穴を開けていた。
「ははっ、どうだ? テメェのちんけな鉄砲じゃ、こんな威力出せねぇだろ」
そういって、自慢げにガントレットを見せびらかすティファニーであったが。
「それはそうだろう。そもそも、兵器としてのコンセプトが違うからな」
対するクロバラは、真顔でそう答え。
まるで、意に介していない様子であった。
「ちっ、生意気なガキだぜ」
張り合いがないと。ティファニーは、ガントレットの試し撃ちに戻ることに。
クロバラも、あまり他人のデバイスに関心がないのか。
自分の銃を眺めながら、渡されたマニュアルに何かを書き込んでいた。
◇
書き込みを終えたマニュアルを、上司であるガラテアに手渡して。
暇そうなクロバラは、他のメンバーの様子を見ることに。
すると、
「見てみて! クロバラちゃん。すっごいでしょ!」
「おぉ、そうだな」
メイリンは、翼型のデバイスの能力によって、自在に空を飛ぶことが可能になっていた。
装着した直後は、浮くだけでも困っていたというのに。
すでに飛行を制御していることに、クロバラは関心していた。
(飛行魔法は、単純だが非常に難易度の高い魔法だ。それを機械で制御可能とは、確かに素晴らしい技術だな)
メイリンだけでなく、他のメンバーも各々のデバイスを起動させていく。
開発者であるガラテアのアドバイスもあってか、全員が問題なく試運転をこなしていき。
魔導デバイスの実験部隊。アンラベルの活動は、幸先の良いスタートを切った。