第25話 アンラベル
訓練場の隅に、少女たちが集められる。彼女たちは、たった7人で構成される部隊、アンラベルのメンバーである。
上司であるガラテアがやって来て、電気ショックを受けるまで。この訓練場には6人のメンバーしか存在しなかった。
しかし気がつけば、ここには7人目のメンバーが。見知らぬ、銀髪ツインテールの少女が何食わぬ顔で混ざっていた。
それには流石に、クロバラも驚きを隠せない。
とはいえ、そんな事情は関係ないと。
ガラテアは、揃ったメンバー相手に話を始める。
「とりあえず、そうね。こういう時って、どういう話をすればいいのかしら。わたしってほら、少佐って言いつつもお飾りの階級だから、部隊のあれこれとか知らないのよね」
上司であるガラテアは、何一つとして常識を理解していなかった。
「えーっと、じゃあ。そうね、自己紹介でもしましょうか。たった7人の部隊だもの、やっぱり結束力が大事よね」
おおよそ、軍隊とは思えないテンションで、アンラベルの活動は始まることに。
「今日は軽く自己紹介して、適当に時間を潰して。本格的な訓練は、午後から始める予定だから。それじゃあ、はい。そこのあなた。とりあえず、あなたから自己紹介ね」
「……了解しました」
まず初めに、アイリが自己紹介を行うことに。
「わたしは、アイリと言います。軍に所属して、今年で3年目。この中では一番の先輩ですが、実績のない下級魔法少女ですので。どうか、同じ部隊の仲間として、よろしくお願いします」
七星剣としての身分を隠して、アイリは当たり障りのない自己紹介を行う。それに対し、他のメンバーから指摘が来るような様子もない。
「はーい。お手本みたいな自己紹介ありがと。他のみんなは、アイリに対して質問とかある?」
ガラテアがそう尋ねるも、挙手をする者は特におらず。
そのまま、次の自己紹介へと。
「どうも皆さん、レベッカです。わたしは入隊して1年くらいで、今までずーっと、意味の分からない書類仕事ばっかりさせられてました。なので、こうして表側に出られてとっても嬉しいです。超ハッピーです」
ツインテールのレベッカが、つらつらと自分のことを喋っていく。そこまでなら、普通の範疇だったのだが。
「なので、えっと。早く任務とかで、人をぶっ殺したりとかして活躍したいです! 殺したいです! 少佐、どうかよろしくお願いします!」
任務に対する、熱く狂った要望をガラテアへ送った。
しかし、ガラテアは表情一つ変えずに。
「ごめんなさい。できれば、あなたの願いを叶えてあげたいけど。うちの部隊は新型へ行きの実験がメインだから、多分そういう任務が回ってくることはないわ」
「えぇ〜? アンハッピー」
そうやって、軽く流されるものの。
レベッカの表情は、なぜか笑顔であった。
「というわけで、レベッカでした。みんな、彼女に対して質問は?」
アイリと同様に、他のメンバーへ質問を投げかけるも。
当然のように、声を発する者はおらず。
次々と、自己紹介は進んでいく。
「あたしはティファニー。同期の奴だろうと、頭のおかしな先輩だろうと、テメェらとつるむつもりはねぇ。警告したからな、クソども」
「ねぇティファニーちゃん、わたしとつるもー」
ティファニーの自己紹介に、レベッカがちょっかいを出すも。
対するティファニーは反応せず。
続いて、いつの間にか混ざっていた、銀髪の少女の番となる。
同じツインテールでも、レベッカとはまるで異なる雰囲気であった。
「わたしは、ゼノビア。特に主張することはありません」
たったそれだけ。
ゼノビアと、名前を名乗っただけであった。
続いて、金髪の少女、ルーシィの自己紹介へ。
「えっと、新人のルーシィです。わたしは、その。喧嘩とかそういうのは苦手なので。あんまり、争いたくないというか。なのでその、勘弁してください!」
その言葉は、おそらく問題児たちに対してだったのだろうが。
残念ながら、ティファニーもレベッカも、まるで話を聞いていなかった。
続いて、同じく新人であるメイリンの自己紹介へ。
「はじめまして、メイリンです。特技は折り紙です。とにかく、一生懸命頑張るので。皆さん、よろしくお願いします」
このメンバーの中では、比較的まともな言葉を。
ある意味、最も少女らしい自己紹介を行った。
そして最後に、クロバラの番になる。
「……クロバラといいます。特技は、植物の世話、でしょうか。皆の足を引っ張らないよう、精進します」
他のメンバーと揉めたくはないため。クロバラは、当たり障りのない挨拶を行った。
それゆえ、当然のように、変な質問が飛んでくることもなかったのだが。
そんな彼女の様子を、アイリはしっかりと観察していた。
(やはり、人格もまともに感じる。どう考えても、ティファニーやレベッカのほうが問題児だな)
そうやって見られていることなど、本人はつゆ知らず。
これで、メンバー全員の自己紹介が完了した。
すると、最後の締めとばかりに、ガラテアが手を挙げる。
「改めて、わたしはガラテアよ。軍に招集された技術人で、別に軍人とかじゃないわ。でも、少佐っていう階級は本物だから、あなた達みたいな下級魔法少女はしっかりと敬語を使うこと。分かった?」
とりあえず、性格に難があることだけは伝わっただろう。
これで、アンラベルの7人と、上司であるガラテアの自己紹介は終わった。