第16話 新世代の魔法少女
「君の要望に沿って、リストを制作しておいた。アジア連合に属する全ての魔法少女に検査を受けさせ、シックス・ベースに対応した最高の6人を選出した」
「……」
様々な書類に埋もれた、暗いオフィスのような部屋。
そこは技術者、ガラテアに割り当てられた部屋であり、彼女は照明もつけずに、黙々とコンピューターと向かい合っていた。
そこに、上司であろう男性が訪問するも、ガラテアは見向きもしていない。
「ガラテア、聞いているのか? 君の提唱する魔導デバイス理論、そのためのメンバーだぞ」
仕方がないと、男性はガラテアの側に寄っていくも。
パッと手を前に出して、ガラテアに制止される。
「書類はいりません」
「なに?」
「ですから、そちらのリストは必要ないと言っています。わたしの方で、すでにメンバーをピックアップしています」
「……いつの間に。他の基地の魔法少女など、情報はまだ行っていないだろう」
「必要ありません。魔法少女の大まかなデータは頭に入っていますし、有名な魔法少女となれば尚更です」
そう言って、ガラテアはゴミの山の頂上にある書類を手にとって、それを男性へと渡した。
「ケプラー将軍、これがわたしの要望するメンバーです。わたしの権限だけでは難しい人員もいるので、将軍の手で引っ張ってきてください」
「……おい、これは冗談だろう」
男性、ケプラー将軍は書類の内容に驚きを隠せない。
「わたしが冗談を言うとでも?」
「それは、そうだが。まさか七星剣を引っ張り出そうとは。それにこいつは、相当な問題児だぞ? お前の求めるシックスベースに、当てはまるとは到底思えんが」
「当然です。シックスベースの定義も、わたしの中で覆りましたから。だからこそ、その7人が必要なんです」
「……随分と、新人が多いな。それに、この眼帯の少女は」
ケプラー将軍が注目したのは、眼帯の少女。
その名は、クロバラ。
「知り合いですか?」
「いや、そういうわけではないが。この少女も、計画に入れるのか?」
「そうですね。むしろ彼女こそが、計画の要と言っていいでしょう」
ガラテアは、コンピューターへと顔を戻す。
「こんなメンバーを集めて、他の連中にどう説明しろと」
「それは将軍の腕の見せ所ですよ」
もう、これで話は十分であると。
そう判断して、ガラテアは作業へと戻った。
「せめて、納得できるだけの材料が必要だ」
「……」
キーボードを叩く音が、静かな部屋に鳴り響く。
「先日確認された、新種の魔獣。もしも、あれと全面戦争になる時が来れば、人類の勝利する確率はゼロに近いと言いましたよね」
「ああ」
「ですが、このメンバーによって構築される新機軸のシックス・ベースが完成すれば、その可能性を覆せるかも知れません」
「……君がそこまで言うのなら。わかった、メンバーを集めよう」
「ありがとうございます、ケプラー将軍」
暗い部屋で、2人の意見は重なり。
そうして、計画は始動した。
◆
アジア連合軍、魔法少女入隊試験。北京にある連合軍本部で行われていた試験も、ついに大詰めを迎えようとしていた。
少女たちは全ての試験を終えて、大部屋へと集められている。
試験の順番ゆえ、クロバラは早々に試験を終えており。
同じく序盤に終了したティファニーに、かなり長い間、睨みつけられていた。
するとそこへ、メイリンがやって来る。
「おつかれ、クロバラちゃん」
「あぁ、メイリン」
メイリンは駆け寄って、クロバラの隣へと座った。
「随分と機嫌がいいな。なにか良いことでもあったか?」
「うん。なんか、よく分からないんだけど。周りの人がいっぱい褒めてくれて。魔力なんとかが、凄いとか」
(魔力強度か?)
幼さの隠せない言葉に、クロバラは内心微笑ましく思う。
「だったら、よっぽど入隊は可能だろう。一応、よかった、のか?」
「えへへ。クロバラちゃんは、試験どうだった?」
「そうだな。向こうの反応からするに、わたしも大丈夫だろう」
2人が、そんな会話をしていると。
ようやく全員の試験が終了したのか、書類の束を持った軍人が部屋へとやって来る。
「これより、適性検査の結果を伝えますので。名前を呼ばれた人から前に来てください」
入隊試験の結果、つまりは魔法少女になれるのかが決まる。
次々と少女たちの名前が呼ばれていき、検査結果の書かれた書類を渡されていく。
クロバラとメイリンも、ほぼ同じくらいの順番で呼ばれた。
「クロバラちゃん、どうだった?」
「ふむ。一応、合格だな」
「よかったぁ。わたしも合格だよ」
クロバラは、渡された書類をじっくりと見つめる。
「とはいえ、配属先はバラバラだろうからな。同じ部隊はおろか、同じ基地に配属される可能性も低いだろう」
「そっか」
その言葉に、メイリンは落胆の色を隠せない。
「配属先はどこだ? 遠いのか?」
「ううん、ここの基地になるみたい」
「ほう。なら、わたしと同じだな」
奇跡的に、2人の配属先はこの基地となっていた。
「部署は?」
「えっと、なんか不思議なところで。ガラテア少佐直轄、新型魔導デバイス実験部隊? だって」
「本当か?」
まさかの名前に、クロバラは驚く。
「クロバラちゃんは?」
「……正直、偶然とは馬鹿にならんな。わたしもそこだ」
クロバラとメイリンは、お互いに検査結果の書かれた書類を見せ合うことに。
適性の数値など、多くの部分は内容が異なるものの。
確かに、配属先には同じ文字が書かれていた。
新型魔導デバイス実験部隊、アンラベルと。