第19話 RE:始まりの日
それは、ほんの少し前。
とある少女が軍隊に入る、およそ一月前ほどの出来事。
アジア連合の都市、上海の郊外に位置する極秘の研究施設にて、緊急アラートが発生していた。
『緊急事態発生。施設内にて、魔獣と思わしき反応が確認されました。職員は直ちに避難を、警備担当の魔法少女は急ぎ対処に当たってください』
混乱に包まれた、そんな施設の中を、1人の少女が歩いていた。
真っ白な髪をした、1人の少女が。
歩行機能に難があるのか、壁を伝いながら歩いている。
するとその場所へ、避難中と思われる職員が2人。
偶然にも、少女と鉢合わせとなってしまう。
「おいこいつ、リインカーネーションの」
「なんで、動いて。……って、おい」
研究員たちは、少女を見て驚きをあらわに。
むしろ、恐怖に近い顔へと変わっていく。
なぜならその少女の左目は、人間のそれではなかったから。
「魔獣反応って、まさかこいつから? 被験体の中に、魔獣が潜伏してたのか?」
「いいから、首輪を起動させろ!」
研究員の1人が、手に持っていた機械を作動させると。
少女の首に着けられていた、首輪の機能が作動。
少女は苦しむように、その場へと倒れ込んだ。
「まいったな、こりゃ。実験の内容的に、上に報告するのも」
とりあえず、少女が動きを止めたことで、安心する研究員たちであったが。
それも、つかの間。
バキッと、何かが壊れるような音がして。
研究員たちが振り向くと。
少女は首輪を破壊し、ゆっくりと立ち上がっていた。
「嘘、だろ」
「……やっぱり、人間じゃねぇ。こいつは完全に、魔獣に寄生されてやがる!」
覚悟を決めた様子で、研究員は懐から拳銃を取り出すと、迷うことなく発泡。
銃弾は、少女の腕を貫通した。
だがしかし、まるでビデオを逆再生するかのように、貫かれた少女の腕は元へと戻っていき。
わずか数秒後には、傷が完全に塞がっていた。
明らかに、人間の治癒能力ではない。その事実に、研究員たちが恐れ慄いていると。
少女は思いっきり、施設の壁を拳で殴り。
すると、恐るべき威力によって壁は破壊され。
そのまま逃げるように、壁の外へと駆けていった。
◆
必死に、裸足のまま、白髪の少女は山の中を下っていく。
とても常人には出せない速度、人間離れした身体能力で。
研究所から、距離を取る少女であったが。
「ッ」
何かを察知して、足を止め。
すると上空から、エネルギーの塊のようなものが地面へと着弾した。
紛れもない、攻撃行為である。
少女が上空に視線を向けると、そこにあったのは飛翔する1つの人影。
魔法少女と呼ばれる存在が、逃亡者である少女の姿を捉えていた。
「こちら、シャドウ1。山の中を走る少女のような人影を発見、威嚇射撃をしました」
上空の魔法少女。
その腕に着けられた装置が、赤く反応を示している。
「ええ、確かに。レーダーは反応しています。しかしどう見ても、あれは人間の少女です。それを攻撃しろと?」
魔法少女は、インカム越しに誰かと話しているのだろう。
彼女自身は、この攻撃命令に不服を感じているようだが。
現実は、止まらない。
「……了解しました。納得はいきませんが、命令ですので」
覚悟を決めたのか。
魔法少女は右手をかざし、攻撃態勢へと移行する。
標的は、白い髪をした少女。
「これより目標、個体名パラサイトの殲滅を行います」
放たれた攻撃は、少女へ届いたのか。
事件の結末は、果たしてどうなったのか。
それがおよそ、一月前の出来事。
決して表沙汰にはならない、始まりの日である。