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第13話 兵士の資質

第13話 兵士の資質





 粉々になった水晶の破片を、検査員や軍人たちが拾い集めていく。

 その中心で、クロバラは非常に気まずそうな表情で座っていた。




「本当にすみません、わたしのせいで」


「いいの、気にしないで。あなたが謝る必要なんて微塵もないから。怪我しないように、しばらくじっとしててね」


「は、はい」




 魔法少女としての資質、魔力強度を測るための検査装置。

 その程度の代物なのだが、今は水晶部分が粉々に砕けて、大人たちを掃除に駆り立てていた。




「それにしても、受容体が壊れるってどういうことよ。あなた、メンテナンスを怠ってたの?」


「いやいやいや。メンテナンスはしっかりしてたし。そもそも、こんなふうに受容体が壊れるのは完全にイレギュラーだって」




 破片を拾い集めながら、白衣の男女が軽い口論をする。




「まぁ、しかたないわね。現役のトップ層にも匹敵する、スーパールーキーの登場だもの。検査装置の1つや2つ、壊れても問題ないわ」


「確かに、それはそうだけど。設計上、受容体が壊れることは、あり得ないはずなんだけど」


「あり得ないくらい、天才の魔法少女が現れたってことでしょ」


「いやいや。この装置は、七星剣の魔力にだって耐えられる設計なんだから。多分、経年劣化とかで、たまたま壊れただけだって」


「はぁ。……それでこの子に怪我でもあったら。思っただけでゾッとするわね」




 そんな、大人たちの愚痴を聞きながら。

 クロバラはじーっと、掃除が終わるのを待ち続けた。


 そしてようやく、大まかな破片の除去が完了する。




「さぁ、掃除も終わり。期待の新人さん、次の検査へ移りましょうか」


「……はい」




 少々、ぐったりとした様子で。

 それでもクロバラは、次の検査へと進むことに。











 幸いにも、魔力強度の検査以外に、機材などに不具合が起こることはなく。

 最初の衝撃こそ大きかったものの、クロバラの適性検査は次々と、問題なく完了していった。




「さて、次が最後の検査だから。もう一踏ん張り、頑張りましょう」


「はい」




 最後の検査を受けるために。クロバラは他の検査と同様に、専用の椅子へと座り。

 そこに、女性検査員が持ってきたのは、無数のコードに繋がれたヘッドギアのような装置。




「……」




 見たことのない装置に、クロバラは思わずギョッとする。

 彼女の知識にも、まるで該当のない装置であった。




「あの、これは?」


「えーっと、簡単に説明するとね。これはあなたの脳を細かく読み取って、どういう精神構造をしているのかを判断する装置なの」


「なるほど。……ちなみに、どういうことが分かるんですか?」


「んー。詳しいことは、わたしも理解してないんだけど。ストレスに対してどれくらいの耐性があるのか。兵士として適した人格なのか。柔軟性、理解力の高さ、倫理観とか。……まぁ、うん。とにかく、頭の中をちょっと調べるだけだから、気にしないで」


「……理解、しました」




 思ったよりも、恐ろしい装置に。

 クロバラは初めて、若干の恐怖感を抱いた。




(なんだ、これは。精神鑑定なら理解できるが、こんな検査項目があるとは聞いてないぞ)




 決して、表情には出さないものの。

 クロバラは内心怯えながら、検査装置を頭部へと装着される。




「心配しないで。これを設計した科学者は、すっごく有名な人だから。いきなり爆発したりとか、そんなことは起きないわ」


「いえ、別に。そんなことは、心配していません」




 もしも、この装置が何らかの要因で爆発したとしても、おそらくクロバラは生き残るだろう。そういう、命の危険というものは感じていなかった。




「ちなみに、最初に粉々になった、あの水晶玉みたいな装置は、全然関係ないんですよね?」


「え。確かにあれも、ガラテア博士の設計した装置、……あっ。ううん、なんでもない。気にしないで」


「……」




 要するに、最初に粉々になった装置も、この大量のコードに繋がれたヘッドギアも。同じ人物が設計したものなのだろう。

 検査員の反応から、クロバラはそれを悟るも。今さら考えても仕方がないため、あまんじて検査を受けることに。




(何も気にすることはない。これは軍の正式な検査であり、安全性も保証されている。それに何より、他の少女たちも同じ検査を受けたはずだ)




 目をつむり、呼吸を穏やかに。

 すると、機械独特の重低音が鳴り、これから起動するのだと実感する。




(……いや、待てよ。脳を、思考をスキャンする?)




 すでに後戻りの出来ない状況で、クロバラはある懸念点にたどり着く。

 自分の思考を暴かれるというのが、どれほどの危険性をはらんでいるのかを。




「あの、すみません。やっぱりちょっと、心の準備が」


「大丈夫だから! ほら、目をつむってて」


「……はい」




 女性検査員の圧力に負けて。諦めたように、クロバラは脱力し。

 すると、頭部に装着された機械が起動。


 まばゆい光が、クロバラの脳内を駆け巡る。




「くっ」




 それはまるで、眼球にライトを突っ込まれて、そこから脳内を照らされたような。

 今まで感じたことのない、強烈な衝撃であった。


 とはいえ、これで全ての検査が終わり。

 そう安堵するクロバラであったが。




「……」




 けたたましい鳴り響く、激しい機械音。

 慌てた様子の検査員たち。


 クロバラはもう、考えるのを止めた。






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