第13話 兵士の資質
粉々になった水晶の破片を、検査員や軍人たちが拾い集めていく。
その中心で、クロバラは非常に気まずそうな表情で座っていた。
「本当にすみません、わたしのせいで」
「いいの、気にしないで。あなたが謝る必要なんて微塵もないから。怪我しないように、しばらくじっとしててね」
「は、はい」
魔法少女としての資質、魔力強度を測るための検査装置。
その程度の代物なのだが、今は水晶部分が粉々に砕けて、大人たちを掃除に駆り立てていた。
「それにしても、受容体が壊れるってどういうことよ。あなた、メンテナンスを怠ってたの?」
「いやいやいや。メンテナンスはしっかりしてたし。そもそも、こんなふうに受容体が壊れるのは完全にイレギュラーだって」
破片を拾い集めながら、白衣の男女が軽い口論をする。
「まぁ、しかたないわね。現役のトップ層にも匹敵する、スーパールーキーの登場だもの。検査装置の1つや2つ、壊れても問題ないわ」
「確かに、それはそうだけど。設計上、受容体が壊れることは、あり得ないはずなんだけど」
「あり得ないくらい、天才の魔法少女が現れたってことでしょ」
「いやいや。この装置は、七星剣の魔力にだって耐えられる設計なんだから。多分、経年劣化とかで、たまたま壊れただけだって」
「はぁ。……それでこの子に怪我でもあったら。思っただけでゾッとするわね」
そんな、大人たちの愚痴を聞きながら。
クロバラはじーっと、掃除が終わるのを待ち続けた。
そしてようやく、大まかな破片の除去が完了する。
「さぁ、掃除も終わり。期待の新人さん、次の検査へ移りましょうか」
「……はい」
少々、ぐったりとした様子で。
それでもクロバラは、次の検査へと進むことに。
◆
幸いにも、魔力強度の検査以外に、機材などに不具合が起こることはなく。
最初の衝撃こそ大きかったものの、クロバラの適性検査は次々と、問題なく完了していった。
「さて、次が最後の検査だから。もう一踏ん張り、頑張りましょう」
「はい」
最後の検査を受けるために。クロバラは他の検査と同様に、専用の椅子へと座り。
そこに、女性検査員が持ってきたのは、無数のコードに繋がれたヘッドギアのような装置。
「……」
見たことのない装置に、クロバラは思わずギョッとする。
彼女の知識にも、まるで該当のない装置であった。
「あの、これは?」
「えーっと、簡単に説明するとね。これはあなたの脳を細かく読み取って、どういう精神構造をしているのかを判断する装置なの」
「なるほど。……ちなみに、どういうことが分かるんですか?」
「んー。詳しいことは、わたしも理解してないんだけど。ストレスに対してどれくらいの耐性があるのか。兵士として適した人格なのか。柔軟性、理解力の高さ、倫理観とか。……まぁ、うん。とにかく、頭の中をちょっと調べるだけだから、気にしないで」
「……理解、しました」
思ったよりも、恐ろしい装置に。
クロバラは初めて、若干の恐怖感を抱いた。
(なんだ、これは。精神鑑定なら理解できるが、こんな検査項目があるとは聞いてないぞ)
決して、表情には出さないものの。
クロバラは内心怯えながら、検査装置を頭部へと装着される。
「心配しないで。これを設計した科学者は、すっごく有名な人だから。いきなり爆発したりとか、そんなことは起きないわ」
「いえ、別に。そんなことは、心配していません」
もしも、この装置が何らかの要因で爆発したとしても、おそらくクロバラは生き残るだろう。そういう、命の危険というものは感じていなかった。
「ちなみに、最初に粉々になった、あの水晶玉みたいな装置は、全然関係ないんですよね?」
「え。確かにあれも、ガラテア博士の設計した装置、……あっ。ううん、なんでもない。気にしないで」
「……」
要するに、最初に粉々になった装置も、この大量のコードに繋がれたヘッドギアも。同じ人物が設計したものなのだろう。
検査員の反応から、クロバラはそれを悟るも。今さら考えても仕方がないため、あまんじて検査を受けることに。
(何も気にすることはない。これは軍の正式な検査であり、安全性も保証されている。それに何より、他の少女たちも同じ検査を受けたはずだ)
目をつむり、呼吸を穏やかに。
すると、機械独特の重低音が鳴り、これから起動するのだと実感する。
(……いや、待てよ。脳を、思考をスキャンする?)
すでに後戻りの出来ない状況で、クロバラはある懸念点にたどり着く。
自分の思考を暴かれるというのが、どれほどの危険性をはらんでいるのかを。
「あの、すみません。やっぱりちょっと、心の準備が」
「大丈夫だから! ほら、目をつむってて」
「……はい」
女性検査員の圧力に負けて。諦めたように、クロバラは脱力し。
すると、頭部に装着された機械が起動。
まばゆい光が、クロバラの脳内を駆け巡る。
「くっ」
それはまるで、眼球にライトを突っ込まれて、そこから脳内を照らされたような。
今まで感じたことのない、強烈な衝撃であった。
とはいえ、これで全ての検査が終わり。
そう安堵するクロバラであったが。
「……」
けたたましい鳴り響く、激しい機械音。
慌てた様子の検査員たち。
クロバラはもう、考えるのを止めた。