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パラサイト〜魔法少女殲滅計画〜
相舞藻子
現代ファンタジー都市ファンタジー
2024年08月02日
公開日
42,610文字
連載中

輝く星が天より墜ち、世界は変貌した。

ヒトを食らう獣、魔獣の誕生。
それに呼応するかのように出現した、魔法を宿す少女たち。

数百年の戦争を経て、人類は魔獣へと打ち勝ち。
世界は平和を取り戻した。

――そのはず、だったのだが。

散っていった魔法少女たち。
その怨念を一身に背負うように、真っ赤な瞳を持つ少女が目を覚ました。

第1話 クロバラ/約束






 17世紀の終わり頃、小さな星が地球へと飛来した。

 思えばこれが、全ての始まり。この世界の歪んだ、原因だったのかも知れない。




 18世紀の初頭、イギリスの植民地であるアメリカで、これまで確認されなかった奇妙な生物が目撃され始める。それらの生物は爆発的に増殖し、瞬く間に人類にとっての明確な脅威となった。

 以降、人類に敵対するそれらの生物は、魔獣と呼ばれるようになり。魔獣という1つの共通の敵を前にして、人類は国家や人種を理由とする人間同士の戦争を止めた。


 人類は当時最先端のバヨネット、銃剣を主とする歩兵や、大砲などの戦力で魔獣に対抗するも。

 魔獣の圧倒的な生命力、攻撃能力の前に敗戦を重ね、次第に土地を失っていった。


 そんなさなか。

 まるで、奇跡のような力を振るい、魔獣を一方的に殲滅する、人間の少女が目撃されるようになる。


 超常的な力を振るう彼女たちは、やがて魔法少女と呼ばれるようになった。




 19世紀になっても、人と魔獣の争いは終わらず。人類は国際連合と、それに付随する軍隊を設立。

 魔法少女と国連軍。人類は正真正銘の総力を尽くして、魔獣との戦争に突入した。




 20世紀、人類と魔獣の戦争は更に激化。


 人類側は技術を進歩させ、機関銃を始めとした自動火器や戦闘機などの兵器を随時投入させる。

 だがしかし、魔獣はそれに対抗するかのように戦闘能力を向上させ、もはや人類の技術はその進化に追いつけなくなった。


 結果、魔獣との戦争において、魔法少女が完全に主戦力として扱われるようなる。





 そして、21世紀。


 200年以上に渡る長期戦をもっても、人類と魔獣の戦争は終わりが見えず。

 魔法少女と魔獣。際限なく進化を続ける両者の戦いは、地球全土を巻き込みながら続いていた。



 終わらない戦争と、忘れ去られた平和。



 それらに終止符を打つべく。国連直轄の魔法技術開発局は、研究の末、魔獣のみをターゲットに死滅させる生物兵器、MGVキラーを開発。

 同年、それを主軸とした魔獣殲滅作戦、オペレーション・ラグナロクが発動。




 人類は魔獣との戦争に撃ち勝ち。


 それから、10年が経過した。










◆◇ パラサイト 〜魔法少女殲滅計画〜 ◇◆










 ゆらり揺られて、どこまでも。進むべき道が続く限り、どこまでも。


 決して快適とは言えない、騒々しく揺れる列車の中。

 白髪の少女が1人、窓の外を眺めていた。


 まだ幼い、10歳ほどの少女であろうか。左目には眼帯がしてあり、どこか大人びた雰囲気を纏っている。

 代わり映えのない退屈な風景だが、それでも少女は飽きることなく窓の外を眺めていた。


 すると、




「お嬢さん。迷惑じゃなかったら、ここに座ってもいいかい?」




 1人の老婆が、少女に声をかけてくる。

 老婆は、信じられないほど巨大なリュック、大量の荷物を背負っていた。やせ細ったその肉体で、どうやって支えているのだろうか。




「ええ、もちろん。わたししか居ないので、座席に荷物を置いてもいいですよ」


「ありがとね、お嬢さん」




 特に断る理由もなかったので、少女は老婆と相席をすることに。

 とはいえ少女から話しかけることはなく、再び窓の外に視線を戻していた。




「お嬢さん。1人で、列車に乗ってるのかい?」


「そうですね。家族も友人も居ませんから」



 少女と老婆は言葉を交わす。



「それじゃあ、どうして。北京に行く用事でもあるのかい?」


「ええ。軍に所属する、魔法少女になろうと思いまして」


「魔法少女だって?」



 少女が列車に乗る理由に、老婆は驚きを隠せない。



「何だってまた、軍隊なんかに」


「……お金が、いっぱい貰えるからですよ。わたしは教会で育ったので、シスターや神父さんに恩返しがしたいんです」


「それはあんた、小さいのに偉いんだねぇ」



 1人で列車に乗り、そして茨の道へと進む。

 幼い少女の考えに、老婆は感心をする。



「そういうあなたも、元は魔法少女だったんじゃないですか?」


「おや。どうしてそう思うんだい?」


「だって」



 ちらりと、少女は老婆の抱えていた荷物を見る。



「これだけの量を運ぶのは、立派な成人男性でも難しいはずです。でもかつて魔法少女だったのなら、その名残で力が少しは使えるかと」


「ふっふっふ。賢いお嬢さんだね。でも、半分正解ってところかな」


「おや、半分とは」


「確かにわたしは、大昔に魔法少女になった。でも、望んで力を得たわけじゃなかったんだ。多分、適性が高かったんだろうね」


「……確かに。数%の魔法少女は、望まずに覚醒すると言いますね」


「ああ、その通り。わたしが魔法少女になった頃は、まだ戦争の酷い時でね。大勢が戦場に行って、魔獣と戦ってた」



 遠い昔を、老婆は語る。

 懐かしむように、後悔するかのように。



「でもわたしに、そんな勇気はなくてね。訓練すれば大成すると言われたけど、結局軍には入らなかった。それで、今はちょっとだけ力持ちな、ただの年寄りだよ」


「……いいえ。戦わないという決断も、立派だと思いますよ。そもそも、ただ力が使えるという理由で、年端もいかない少女が戦場に駆り出されていたあの時代が、おかしかったんです」



 そう話す少女の手に、自然と力が入る。



「よく、勉強してるんだね、お嬢さん。まだ10歳くらいだろう?」


「ええ、まあ。教会には、元魔法少女の人も大勢居たので。それにわたしは、もう12歳です。軍の規定年齢にも達しています」




 何か、嘘を隠すかのように。

 少女は再び、外に視線をそらした。




「お嬢さん、お名前は?」


「……クロバラ、です」


「くろばら? 名前に花を入れるなんて、珍しいねぇ」


「きっと、親が変わり者だったんですよ。まぁ、顔も見たことありませんが」



 少女、クロバラは微笑む。

 その表情は複雑で、とても12歳の少女には見えなかった。



「そう言えば。お婆さんは、どうして北京へ?」


「わたしは、娘夫婦と一緒に暮らすためさ。大きな家を建てたから、一緒に暮らそうって言われてねぇ」


「それは、いいですね」


「そうそう。ちょうど、あんたと同い年くらいの孫も居るんだ。……まぁ、よくここまで生きてこられたよ」



 しわくちゃの手を握りながら、老婆は感慨にふける。



「ほんの10年前まで、世界は戦争の真っ只中だったんだよ? こんなふうに列車で長旅なんて、想像すらできなかった」


「そう、ですか」




 10年前に終わったという、人と魔獣との戦争。まだ幼いクロバラには、縁のない話である。

 それなのに、まるで老婆と同じように、遠い何かを思い浮かべているようだった。


 そんな雰囲気で。

 多少騒々しくも、穏やかな列車旅を満喫する2人であったが。




「うげぇっと」



 それをぶち壊すように。

 1人の男性が、彼女らの座席へと倒れ込んでくる。




「おい、大丈夫か?」



 クロバラは物怖じせず、倒れた男性へと声をかける。

 手に酒瓶を持っていることから、酔っ払っているのだろうか。


 だがしかし、クロバラは男性のある異変に気づいて、目を細めた。




「おおっと。悪いな、嬢ちゃんに婆ちゃん。へへへっ」



 どうやら会話は出来るようで、男はよろけながらも立ち上がる。

 酒の影響か、何ともだらしない表情をしていた。



「やっぱり、列車で酒は飲むもんじゃないな。じゃあな、おお二人さん」



 まるで、何事もなかったかのように。

 酔っぱらいの男は2人の元を去っていった。




「……まったく。最近の若いのは、だらしないのが増えたねぇ」



 男に対して、そんな印象を口にする老婆であったが。

 やはりクロバラは、なにか引っかかっている様子であった。



「お婆さん。ちょっと、リュックの中を調べてみては?」


「リュック? どうしてだい?」


「いえ。ただ少し、妙な気がして。なにか、失くなっている物とかはありませんか?」



 クロバラにそう言われて。一応と、老婆は大量の荷物の入ったリュックを漁ってみる。

 すると、




「な、ない! 土地を売っぱらって買った宝石が、袋ごと消えてるよ」



 老婆のリュックからは、確かに荷物が消えていた。




「やっぱり。今の男、見た目通りの酔っぱらいじゃなさそうですね」


「まさか、泥棒だっていうのかい?」


「ええ。顔も赤かったし、挙動も酔っ払いのそれでしたが。あの男からは、酒の匂いがしませんでした」



 ゆえに、クロバラは不審に思っていたのだが。



「それにしても、見事な手際です。警戒していたのに、盗みの瞬間を見逃してしまった」



 男のスリ取り技術を称賛しつつ。

 クロバラは、ゆっくりと立ち上がる。



「とはいえ、列車内で犯行に及んだのが間違いだった」


「立ち上がってどうしたんだい、嬢ちゃん」


「自分にも落ち度があります。宝石の入った袋、取り返してきますよ」



 自分の目の前で起きた犯行に、責任を感じたのか。

 クロバラは、力強い口調でそう言った。



「いや、嬢ちゃん。あんた、魔法使いとして覚醒してるのかい? だったら、問題ないかも知れないけど」


「いいえ、わたしはまだ、ステージ0。ただの人間です。ですがまぁ、盗人の対処くらいなら余裕ですよ」



 捕まえる気は十分と、クロバラは微笑むも。

 老婆は動揺を隠せない。



「止めときな、嬢ちゃん。あんたは将来、立派な魔法少女になるんだろう? それなのに、無駄な危険に首を突っ込む必要はないよ」


「無駄ではない、ですよ。スリは立派な犯罪です。いずれ魔法少女となるのなら、犯罪は見過ごせません」



 老婆の忠告に、耳を傾ける様子はなく。

 クロバラは自信満々で、男の向かった方向へと歩いていった。



「……あぁ、困ったねぇ」



 小さな体ゆえに、少女の姿はすぐに消え。

 大きい荷物を抱えた老婆は、その場から動くことが出来なかった。















 クロバラたちの乗る列車、先頭に近い車両にて。




「うはははははっ。おいこら、最高の旅じゃねぇか!」


「アニキ、そりゃ俺の手柄ですからね?」




 でっぷりと太った髭面の男と、先ほど盗みを働いた赤ら顔の男が、高らかに笑い声を上げていた。

 盗みを働いた相手が、老婆と少女だったせいか。まるで心配する気配もなく、宝石の入った袋に喜んでいる。

 その下品な態度と、太った男から発せられる威圧感。その様子に、周囲の乗客たちも自然と彼らを避けていた。


 だがしかし。

 それゆえに、見つけるのはひどく簡単であった。




「――おい、泥棒。あの婆さんから盗んだ荷物、渡してもらおうか」




 幼い、白髪の少女。

 クロバラは、堂々とした様子で2人に声をかけた。






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