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閑話 性転換ねっ!

「そういえば、ちょくちょくいるシスターの人は誰なんですか?」


 それは佐藤家に皆が集まった時。


 夕食が終わり、未だに対混沌の妄執魔法外装ハンディアントと血の解析が終了しておらず、その暇つぶしとして大輔と直樹の異世界話になった。


 二人とも嫌がったのだが、両親たちがノリノリであり、また、冥土ギズィアもノリノリだったこともあり、二人の意志関係なく公開された。


 まぁ、直樹と大輔が本気で嫌がれば、冥土ギズィアはもちろん、皆も控えるのでそこまで嫌ではなかったのだろう。


 むしろ、直樹も大輔も自分の写真がさらされるということより、仲間がいない状況で仲間の写真を見せるのが嫌だった。


 そのため、個人を撮った写真などは控え、なるべく集合写真や風景写真を中心に見せていたのだが……


「黒髪ですけど、異世界人の方ですよね? 誰なんですか?」


 集合写真に写っているシスター姿の少女が気になったようだ。


 合計で十四人。


 その中で、黒髪のロングで鋭く少し擦れた目つきをしたシスター服の美少女は、犬に似た耳と尻尾を持つ野性味溢れるカッコいい女性に抱きしめられていた。


「あ~~」

「ええっと……」


 直樹も大輔も微妙な表情になる。


 これ、言うか? けどな……と目を泳がせる。


 その様子に雪たちが食いつく。


「誰なんですかっ!」

「何故、言い迷う。やましいことがあるのかっ!」

「そういえばさっきの写真で仲良く肩組んでいたです。どういう関係なんです?」

「……お主ら……」


 と、ティーガンが溜息を吐く。


「どう見てもこのシスターの少女は、この獣人の女性と恋仲じゃろ」

「えっ!」

「そうなのかっ!」

「そうなんですっ?」


 三人が驚く。いや、両親組も驚く。


「でも、この獣人の女性は、阿部さんだったかしら。彼と良い仲なのでは?」

「ああ、さっき、間違って逢瀬の写真を映していただろ?」

「もしかして、あれか? 獣人は特殊な結婚観があって、一人の女性と男性を両方とも娶るとか?」

「確かに~ありえるかもしれせんね~。だ~くんの説明だと獣人は少なからず獣の特性を受け継いでいる~らしいですし~」

「瞳子さん、そういう動物がいるのですか?」

「いえ~司さん。私の知っている限り~地球には~いないわよ~。けど~」

「異世界は別と」

「はい~」

「……ティーガンはそういう性質があるの?」

「芽衣よ。確かに妾は異世界出身じゃが、吸血鬼ヴァンパイアは結婚というそのものの観念がない種族じゃ」

「そうだ、芽衣。そんな事より、そこの眼鏡男をだな――」

「アナタ。少し静かにね?」


 皆、酔っぱらっているのか、色々勝手に推測する。


 と、詩織に膝枕をされていた澪が大声を上げる。


「分かったっ! 性転換ねっ! 前にそういうゲームやったわっ!」


 それはあまりに荒唐無稽こうとうむけいで、詩織が恥ずかしさのあまり顔を真っ赤にしながら、「なんて事言っているのっ。お姉ちゃん!」と諫めていた。


 そもそも、時系列準に写真を見ているのだが、慎太郎もその少女もランダムに出ているのだ。


 ティーガン以外、皆もあり得ないだろ、と言った表情をしたのだが……


「あ~」

「そうだね……」


 直樹と大輔はとても、超が付くほどとても微妙な表情をした。


 つまるところ、


「正解でございます。澪様」


 冥土ギズィアがいつの間にか手元にあったクラッカーを澪に発射する。ドンドンパフパフと、音を鳴らし、パチパチと手を叩く。


 皆、唖然とする。


 しかし、気を大きくした澪の発言によってさらに一同は驚愕する。


「ほ~ら。私の言った通りでしょっ! あ、もしかして、さっき和也さんが言ったのもっ!」

「はい、正解でございます」

「ということは、もしかしてっ! アハハ、凄い、凄いわよっ!! リアルハイエナよっ。天使ちゃんが指名したハイエナ様よっ! 両方グッジョブなリアルふ――」

「澪義姉さん、黙れ。子供の前だぞっ!」

「もがもがもがっ!」


 その先は言わせるか、と直樹が澪の口をふさぐ。


「っつか、酔っぱらいは寝てろっ!」


 “白華眼[染魂]”を発動。澪の意識を強制的にシャットダウンさせる。


 幸い、優斗は分からなかったらしく、また分からない話が始まってしまったことにより一気に眠気が来たようだ。雪の膝の上で舟を漕ぎ始めた。


 手際がいい大輔は、澪と優斗が寝れる布団を二枚用意してあり、二人をそこに寝かせる。


「……澪義姉さんにあんな趣味が……。普段、どんなゲームをしてるんだよ」


 直樹が頭痛が痛いと言わんばかりにこめかみを押さえた。


 と、


「直樹兄。あの、姉さんがいったのってどういう……」

「あの、私も分からなくて……」

「ハイエナってそ、その男性の方を揶揄する意味ではないんです? それに天使ちゃんというのはどういう……」


 詩織、雪、ウィオリナが首を傾げている。周囲を見れば、澪の言葉の意味を理解していたのは、杏、ティーガン、勝彦、彩音、瞳子だけだった。意外なのは杏くらいか。


 他の皆は首を傾げていた。


 直樹は安心した。


「世の中知らなくても良いことがあるんだ」


 そう諭すように言う。悟ったような微笑みだ。


 雪たちは若干頬を引きつらせる。そう言われると余計知りたくなる。


「あ、あの、杏先輩は分かってるんですよね。どういう……」

「き、聞かないでくれ。アタシだって理解したくはなかったんだ。だが先日、たまたま、本当にたまたまあるアニメを……」

「……ティーガンさんは……」

「う、うむ。妾の口からいっても良いものか……」


 ティーガンも首を悩ます。


 と、


「教えてくれないかしら、ティーガン。私たちは関わると決めたのよ。なら、そういう部分までキチンと知っておいた方がいいわ」

「そうだな。眼鏡――」


 杏の父親、リュッケンがギヌロと大輔を睨んで、


「アナタ?」


 芽衣に手の甲をつねられ、咳払い。


「ごほん。大輔君の友人の事は知りたいと思うのが当然だろう?」


 お前の悪い部分を見つけ出し、うちの娘の目を覚まさせなければ、と意気込む。大輔は苦笑いする。


 杏自身は困惑している。何故、父が大輔に敵意を向けているのか分からないのだ。まぁだからこそ、リュッケンもあからさまに口にだして敵意を向けていないのだが。


 ティーガンが直樹たちを見る。


 大輔は仕方なく溜息を吐き、直樹は少しだけ渋る表情。詩織を見る。


「直樹兄。私も知りたい」

「……彩音義母さん」

「問題ないわ。下世話な話ではないし、普通の種族としての特性でしょう? キチンと知って理解する事が重要だわ。詩織ももう中学生。無闇矢鱈に制限するする必要はないわ」


 直樹が溜息を吐き、納得したように頷いた。


「よくよく考えれば、生物や社会の授業みたいなものだしな。問題ない」

「うん、そうだね」


 そう言って、大輔は一枚の写真をテレビに映した。


 やさぐれた無精ひげのおっさんと、先ほどの獣人の女性が映っていた。


 こほん、と直樹と大輔が息を整える。


「慎太郎さんは、色々面倒で……。ある能力スキルにより、女性姿になったり、男性姿になったり。基本的に月の満ち欠けによって性別が変わるんです。今はある程度意図的に変えられますけど」

「因みに、男性姿の時は、普通の神父です。女性姿の時は聖女と呼ばれています。本当に聖女だから、聖女って呼ばれています。一度会えば分かると思うのですが、聖女で翔以上に面倒くさい人物です」

「それゆえに、基本的に僕と直樹とは相性が悪いです。本気でぶつかり合うことも多く、過去には殺し合いをしたこともあります」


 やさぐれた無精ひげのおっさん――慎太郎を見やりながら、二人とも呆れたような、それでいて優しい表情をする。


 殺し合いという言葉にひゅっと息をのんでいた皆が、されど、それだけで彼らの仲を察する。


 相性が悪いのに、それだけの表情をするのだ。親友以上の、仲間というべき仲なのだろう。


「それで彼女がツヴァイさん。こっちの世界でいうハイエナに近い感じの種族で、見た目的に女性しか産まれない種族です」

「見た目的にとは……どういう事ですか?」

「ああ、ハイエナ、メスって調べてみろ」

「はい……」


 分かっていなかった組が全員、スマホを使って調べる。


 すると、分かっていなかった組の皆、えっ! と驚いた表情をする。


「ハイエナは実際のところ違いますが、つまるところ性質として雌雄同体?に近いです。そして、基本的に同族同士では子は為しません。通常、他種族から男性と女性、両方を娶る事が多いんです」

「たまに、同族同士で結婚したり、あとは一人を愛したりする事もあります。ツヴァイさんは後者です。まぁ、慎太郎さんが両方の姿をとるのもあるのでしょうけど」


 そこまで言って、真剣な表情で付け足す。


 その真剣な表情に、皆、息をのむ。先ほどまでとは、雰囲気が異なっていたから。


「この世界は地球よりも発展していないのもありますが、本当に多種多様な種族がいます。それこそ地球の『人』の種類が少ないと思ってしまうほどに」

「だから、様々な文化を持っています。僕たちが転移した頃なんて、人の魔王のせいもありますが、その文化の違いであらゆる種族同士で世界戦争が起きるほどには」

「だが、だからこそ、彼らが持つ文化はどれも間違っていません。人という種族一つで纏められないほど、特性が違いすぎるんです。各々の特性を大切に思っています」


 直樹も大輔も頭を下げた。


 皆、驚く。いや、ティーガンは鮮血の瞳を細め、二人を見ていた。


「戸惑うのも、嫌悪感を感じるのも仕方ないです。けど、僕たちの仲間なんです」

「俺たちの仲間は、家族は色々な人たちが集まってます。だから、お願いします。本来、頼むこと自体おかしいですけど、お願いします。否定だけはしないでください」

「お願いします」


 開いた口が塞がらない。皆の、険しい息遣いだけが響く。


 だが、


「何を言っているんだ」

「そうよ」

「お前たちの、大事な息子の仲間なんだろ?」

「私たちが否定するわけないわ~」


 勝彦、彩音、和也、瞳子が何を今更、といった表情で頷いた。


 それから雪や杏、ウィオリナたちが、


「キチンと向かいます」

「ああ、それだけはない」

「はいです!」


 頷く。


「……私は、分からないわ」


 と、そんな状況の中、司はそういった。司は、真剣な表情の直樹と大輔を、同じく真剣な表情で見やる。凛と背筋は伸びていて、地に足のついた瞳だった。


「直樹さん方との接し方は決めかねていますし、日本で生きている一人の女性として、それが絶対にできるとは言えないわ。向こうの方がこちらに来た時、そちらの理解も必要ですし」


 けれど、と続ける。


「優斗、楽しみにしているんです。直樹さんのお子さんと遊ぶのを、今か今かと楽しみにしているんです」


 スースーと寝ている優斗を見やる。


「邪魔はしない。それは絶対よ」


 強い言葉だった。


 すると、今まで険しい表情をしていた芽衣がリュッケンをチラリと見て、


「私の実体験として、文化の違いは難しいわ。しかも、異世界ですもの。……けれど、ちょっとした先輩としてできる限りするわ。大輔さんたちには、杏のことも私のこともリュッケンの事も助けてもらった恩もある」

「……そうだな。辛かったこともあるし、大層な事は言えんが、ちょっとしたアドバイスくらいならできる」


 そう百目鬼夫婦は力強く大輔と直樹に頷いた。


 二人はもう一度頭を下げた。


「ありがとうございます」

「本当に、ありがとうございます」


 二人は照れくさそうに笑った。


 それを見て、冥土ギズィアは、


(やはり、人は変わるものなのですね)


 そう思った。


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