「なぁ、突き刺さって動けないんだがっ!」
「わ、私もどうやってコースに戻るんですっ!?」
「のじゃっ! わ、妾をそこまで虚仮にするかっ!」
「
「ふふふっ。お二方。甘いですよっ! 直樹が好きな缶コーヒーより甘い。あはははっ。このままお姉ちゃんが一位をとって――あうっ!?」
「やったっ! 勝ったよ。僕、一位だよっ!」
「……よかったね。優斗」
土管おじさんの名前を関するカーレースゲームで一位になった優斗は無邪気にはしゃぐ。
その後ろで、大人げなく悔しがるティーガンとエクスィナ。後、澪。聞いてみたら、ティーガンとエクスィナは暇人で、普段はゲーム三昧らしく、このゲームもやりこんでいたとか。なので、負けたのが相当悔しいらしい。
いや、エクスィナだけは途中から負けたこと自体に興奮したらしく、ハァハァ言っていた。
ゲーム好きの澪は、ウザそうにしている詩織に泣きついている。顔が真っ赤で相当酔っぱらっているらしい。
そして、ゲームをあまりやったことがない杏とウィオリナは、どうやったのか、コースの壁にのめり込んでいたり、場外でくるくる廻っていたりしていた。バグだろう。
雪はその様子に何とも言えない表情をしていた。いや、エクスィナの変態性を認識したのか、優斗の視界から排除しようとしていた。
片や。
「そうなんです。うちの息子ったら」
「杏も似たようなところがあって」
「雪もです」
「うちは~むしろ~周りを巻き込むタイプで~」
母四人が料理をしながら会話を交わし、
「ハハッ。そうだ。今度、一緒に飲まないか? いいバーを知っているだ」
「それって今はやっているのか?」
「酷いことをいうな、勝彦さんは」
「ハハッ。いいのだ、いいのだ。事実だしな」
父親三人が食器等々を並べたりしながら、笑い合っている。
何故、こんな事になっているか。
というのも、事態を把握した直樹たちは雪たちの体に異変がないか調べようとした。
その際、雪たちや大輔が家族に家に帰れそうにない
流石にその人数をリビングには入らないため、少しだけ空間拡張がされている。
そして、
「……何これ」
「……寝る」
雪たちを調べるための準備が整い、それを伝えにリビングの扉を開いた大輔と直樹は、リビングの様子に
「あ、直樹さんっ!」
と、今までじっくりと接する機会がなく、特に翔ともあまり接しなかったためエクスィナの変態性を認識していなかったが、今それをはっきりと認識し、「性癖等々は個々ですが、情操教育に悪いことはしないでください」とエクスィナに説教していた雪が、直樹たちに気が付く。
優斗は「大丈夫? お姉ちゃん」と正座させられてグズグズ泣いているエクスィナを心配そうに見る。
「これがやさしさ……物足りないぞち」と頬を染めハァハァしていたエクスィナが、その優しさに感動しつつ、物寂しそうに呟く。それを聞いて、雪は召喚した桜の花びらを硬化させ、エクスィナの頭に突き刺す。
ピクピク震える。雪がビキビキと青筋を立てる。
「……おい、飼い主はどこいったんだ」
「知らないよ。少し買い物をしてくるって出かけたんだよ」
「ペットのしつけくらいキチンとしとけよ」
そう吐き捨てた直樹は、優斗が「痛いのになんで笑ってるの、お姉ちゃん?」と尋ねた瞬間に、
「しばらく外出てろ。変態っ!」
「ありがとうぞち~~~っっっっ!!!!」
エクスィナの首根っこを掴み、窓を開けて外に放り投げた。よし、汚物は消えたな。
そして未だに壁から抜け出せない杏とコースに戻れないウィオリナのコントローラーを奪い取る。
「お前ら。後で大輔にでもゲーム教われ」
片手でそれぞれのコントローラーを操り、ゲームをクリア。
ついでに酔っぱらって詩織に抱きつく澪を引き離し、ソファーに座らせる。
「彩音義母さん。水くれるか?」
「澪のね。分かったわ」
「ありがと。後、どれくらい?」
「もうできるけど……そうね。十分くらいかしら」
「分かった」
水の入ったコップを受け取り、それをソファーに座らせている澪の口に当てる。ゆっくりと飲ませる。
半分くらい水がなくなると、澪はクークーと寝息を立てる。
「詩織。タオルケットか何か、持ってきてくれないか?」
「……ん」
「ありがと」
詩織に礼をいいながら、ローテーブルの上に散らかっていた酒瓶を片づける直樹。
その様子を大輔が感心しながら見ていた。
「やっぱり、あれ。ダメ人間製造機だよね」
「……確かに。あれの世話を受けたら、自分では何もしなくなりそうだ」
ゲームが突然終わって少し釈然としない様子だった杏も同意する。すると、後ろから、
「いえ、それはないかと。杏様は自活できる方ですし、そう自覚できる時点で問題ないと思います」
「あ、おかえり、
「ただいま帰りました、
買い物を頼んでいた
その間に片づけられたローテーブルの上に幾つかの道具を並べた直樹と大輔は、解析に取り掛かるための準備を始める。
と、
「
「いいですよ。……優斗様。お初にお目にかかります、
頷いた
「ギズィア……?」
「はい。雪様――優斗様のお姉さんのお友達です。少し向こうで司様の手伝いをしましょう」
「……うん。分かった」
雪の方を見て、雪が頷いたのを確認した優斗は、純粋な笑顔で頷く。
そして直樹、大輔、雪、杏、ティーガン、ウィオリナがローテーブルを囲む。
「……じゃあまず、白桃さん、杏。
「はい」
「ああ、わか――っ!」
大輔に言われ、雪は普通に
「なんだ、これはっ!?」
胸元から出てきたのは宝珠ではなく、一灯の白い炎だった。
「……容だけが変成した? 性質は変わってない? いや、格がおかしい。存在としての領域が……」
「そ、その前にこれはどうすればいいのだっ!」
「……まぁいいや。白桃さんも、ここに入れて」
「はい」
「……ああ」
雪も杏も置かれた瓶それぞれに
「直樹、そっちはどう?」
「終わった」
ティーガンとウィオリナから血を数滴採取した直樹は、それぞれを密封する。大輔同様、大きな箱の中に入れ、その箱の蓋を閉じる。
「よし。これで解析は大丈夫だろ」
「……大輔が解析しないのか? お前の眼ならできるのだろ?」
杏が首を傾げる。
「まぁ、そうだけど、ちょっと疑問点があってね。ティーガンさんの協力もあって生体解析に関してはいい
「そうか」
杏がチラリとティーガンを見る。先ほど優斗に負けて悔しそうにしていた人物とは思えないほど、真剣な様子だった。
「それでじゃ。お主らはあの
「まぁね」
「そいういうお前も見当がついているんじゃないか?」
「うむ」
直樹と大輔とティーガンが息を揃えて言う。
「「「神」」」
それに雪や杏、ウィオリナが驚く。
「神さまなんて本当にいるんですかっ!」
「
「そうです。ティーガン様のような……」
直樹が首を横に振る。
「神の定義は様々だが、ここでいう神は神性を得ている存在の事だ」
「神性ですか?」
「ああ。言葉で説明するのは難しいだが……簡単に言えばその存在が存在する事自体が世界の理となっている事だな」
「だから、エクスィナもそういう意味では神なんだよね」
「えっ!」
雪が驚く。あの変態が。優斗に悪い影響を与えようとした変態がっ!?
「まぁ気持ちは分かるがな。ああなったのは最近だし、異世界では神話から受け継がれている存在なんだぞ、あいつ」
「女神が創った剣でね。その剣は不滅。いくら消滅しても、存在すること自体が理だから、また存在し続ける」
「重力みたいな物理法則は決して消えないだろ? まぁ、今は色々とあって完全な不滅ではなくなってるんだが、基本、法則と同じみたいなもんと考えればいい」
ウィオリナが恐る恐る尋ねる。
「
「待て待て待て。あんな存在が八百万もいるのかっ?」
杏が動揺する。
ティーガンが首を横に振る。
「分からんのじゃ。妾も神性は知識では知っていたものの、見たのは始めたじゃ。それにエクスィナについても気が付かんかった。分からんのじゃ」
「俺たちも同じようなもんだな。エクスィナや他にも似たような存在に会った事があるのと、過越しの結界が意味を為さなかったのを鑑みてそう判断しただけだしな」
「だけど、うん。
「何だとっ!?」
杏がさらに驚愕する。雪もだ。日本人なら聞いたことがない人はいないというほどメジャーな神さまである。食事の用意が終わり、夕食を取りながら聞き耳を立てていた大人たちもその単語にびっくりしていた。
しかし、直樹たちはスルーする。
「あと、神性を持っていたからとして、それが超常的な力を持っているとは限らないぞ」
「神性はあくまで世界に組み込まれているかどうかの性質だから。どれほどの力を持っているかは、あまり関係ないんだよね」
「……ふむ。そういえば気になる事を言っておったな」
直樹が目線で促す。
「『力もだいぶ削がれている。今日ので百年、いや最近の信仰や我よしの願いがたたっているのも鑑みれば、千年近く消費したか』じゃったな。そんな事を言っておった。妾たちに何かを施したのは確かじゃ。消費したのはそれじゃろうて。なら、何故信仰や願いが関わる?」
「……なるほど。定番だけど、神は人の敬うに依って威を増す。詳しく言えば違うけど、大雑把に言えば信仰が力になるかもしれない」
「そういえば、祷りにより威を増す、みたいな事も言っていませんです?」
「ああ、言っていたな」
杏が頷く。
と、直樹が思案顔の雪に気が付く。
「白桃。何か、気になる事でもあったのか?」
「いえ。それとは関係ない――」
「いいから話せ」
「……はい」
雪は思い出しながら言う。
「曖昧なので
「寄生虫……ね」
「っというか、どんあんってなんだ?」
「い、いえ。たぶん、聞き間違えてたんだと思うんですが……あ、でも、その寄生虫って蜘蛛だった気がするんです。……たぶん」
雪がしどろもどろになる。
と、聞き耳を立てていた大人組の一人、瞳子が声を上げる。
「
「貪欲……」
「そうよ~。蜘蛛と聞いてね~」
「……なるほど。参考になったよ、母さん、ありがとう」
「どういたしまして~」
瞳子がポヤポヤと微笑む。
っと、
「先に食事にしないか?」
「確かに冷めてしまうわ」
勝彦と彩音が提案する。他の両親方も頷く。
「……どうする?」
「……結局、食事どころではありませんでしたし、確かにお腹すいています」
「そうだな。途中で出てきてしまったしな」
その提案に女子たちが頷き、直樹たちも解析が終わりまで時間が掛かるしな。といって、夕食を取ることになった。