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十七話 ちょっと長かったね

「大丈夫だっ!」

「問題ありませんっ!」


 大輔の警告と同時に、杏とウィオリナの背後には血で作られた人形が現れ、体から血の刀剣を伸ばし二人の体を突き刺そうとする。


「というか杏と呼べっ。そっちの方が早いっ!」

「じゃあ、わたしはウィオリナでよろしく、ですっ!」

「分かったよっ!」


 意外と余裕らしい。そんな事を言いながら杏とウィオリナは動き出す。


「生きろ、炎剣っ!」


 杏は≪灼熱≫で空中に三つの炎の大剣を作り出し、伸びた刀剣を燃やす。それと同時に右に流していた大剣を≪白焔≫を纏わせながら切り上げるっ!


 血の人形が一刀両断される。≪白焔≫の特性で、液体を燃やしているのに消えることはないっ!


「ウィ流血糸闘術、<血糸盾編けっしたてあみ>っ、<血糸妖斬>ッ!」


 ウィオリナは血の弓を引いて血のヴァイオリンを奏でる。血糸が一瞬で編みこまれ、盾を作り出す。カンッと硬化して血の刀剣を弾くっ!


 それと同時にその盾の端から無数の血糸が伸びて、血の人形を切り刻む。全てが血一滴にまで細分化された瞬間に。


「ウィ流血糸闘術、<血糸電裂けっしでんれつ>ッ!」


 血糸全てに高圧電流が流れ、一滴に細分化された血を全てき尽くした。


「ハァッ!」

「騒ぐな、煩わしい」


 大輔の上部に血の巨槌が現れる。


 大輔はカシュンカシュンと進化する黒盾フェンダゴンを変形させ、右の手に巨大な金属の拳を作り、裂帛の叫びと共に激突させる。たわみ、拮抗する。


 それと同時にデジールが大輔の横に瞬間転移する。それを読んでいた大輔は、左足に全体重を掛け、右足で回し蹴りする。


 デジールはそれを血の刀剣で斬り防ごうとするが、カチャコンと音が響いたかと思うと、ブーツの底から銃口が二つ突き出て、タタタタッと軽妙に豆銃弾が放たれる。


 それにオムニス・プラエセンスの効果が宿っていたため、デジールは仕方なく回避する。大輔がどんな手を持つか分からない。念のために時之血歯エママキナホーロロギオンが壊されない様にしたいのだ。


 と、同時に大輔は進化する黒盾フェンダゴンに魔力を通し、組み込まれている機構で衝撃波を繰り出す。血の巨槌が消え失せる。


「神様の癖にずいぶんとセコイ手にでたね?」

「ふんっ、所詮は愚物。我の崇高な考えが理解できなくて当然だな」

「確かに。自称神かまってちゃんの考えなんて理解できなくて当然だね。むしろしたくない」


 ハンッと鼻で笑い、マジシャンが手足のごとくトランプを操るように、大輔はイーラ・グロブスとインセクタを操り、デジールへの攻撃のみならず、周囲に発生した血の人形たちを撃ち抜いていく。


「クッ」

「ハッ」


 だが、杏もウィオリナも次々に発生する血の人形の相手に手間取り、だんだんと大輔から離されている。


 能力的に音速とはいかないまでもそれに近しい速度で動き、体の至る所から刀剣や枝状の鋭利な突起を伸ばす。人形らしく意思もなく、行動が読み辛い。しかも無限に湧き出る。


 厄介だ。


 だが。


(凄いなぁ)


 デジールと人外の攻防戦を振り広げながら、大輔はチラリとそちらを見て感心する。ウィオリナと、特に杏にだ。


 最初の戦力分析だと、ウィオリナの方が技術的に上だった。経験はそう多くなくとも、もつ潜在能力と技術面はとても高かった。


 けれど、今や杏の方が超えているかもしれない。


 一秒一秒経つごとに、大剣の技術や魔法の技術はもちろん、足の運び方に体の動かし方、それらを連帯した戦術。それら全てが向上していき、留まるところを知らない。


 確かに杏は≪直観≫という巨力な力を持つ。使えれば、不意打ちは意味がないし、相手の行動を予知レベルで知ることができる。


 自分がどんな行動を取ればいいかも分かるし、どういう風に戦術や技術を修正していけばも分かる。


 けど、使えれば・・・・だ。


 ≪直観≫は、意識している・・・・・・ことに関連する予感を与えるだけの魔法だ。その意識している事が明確なら明確なほど正確性が増すが、裏を返せば意識しなかったら予感なんて得られないのだ。


 つまり、常に相手の攻撃を意識し、相手が何処にいるかを意識し、どんな戦術を取ればいいかを意識し、どういう風に体を使えばいいかを意思し…………


 圧倒的な戦闘センス。そして、命のやり取りの最中であっても常に思考を巡らせ続ける精神力。


 大輔をして脱帽せずにはいられない。


 けど、だからと言ってウィオリナが成長していないわけではない。互いに切磋琢磨と高め合い、大輔をして相手をするのが厄介だな、と思うほどには強くなっている。


 つまり、デジールの予想を遙かに上回っているのだ。 ほら、今も。


「大輔っ!」

「ダイスケさんッ!」

「分かってる」


 確かに大輔が意識を誘導していたのもあるだろう。時之血歯エママキナホーロロギオンによる未来視の使用を無意識化で封じさせ、行動予測を不可能にしたのもあるだろう。

「なッ」


 デジールは驚愕した。


 目の前にいた大輔が、左右から射出された血の刀剣を四メートル越えのバク転で回避をした瞬間、見えた光景に。


「解放――浄焔羅刹・円弧ッ!」

「終わりですっ、デジールバルハルトルハジーハルッ」


 そこにはニィッと口角をつり上げた杏とウィオリナが、肩を並べてデジールを睨んでいた。


 炎が浮かぶ蒼穹の瞳を唸らせた杏は大剣を地面に突き刺す。≪白焔≫を纏った灼熱の鬼が作り出されると、それは咆哮を響かせた途端、円弧に広がり血の人形すべてをき尽くした。


 昔、火に弱かったデジールは無意識的に血の盾を作り出し、それを防いだ。血の盾がジュッと蒸発する。


 それと同時にウィオリナが豪速で踏み込み、デジールに肉薄する。


「ウィ流血糸闘術、<獣装解放>ッ――」


 血のシスターワンピースをバンッと蠢かせ、血の人狼へと一瞬で変身。


 体の至る所から血糸を噴き出させ、デジールの眼前で血の弓を引いて血のヴァイオリンを奏でる。


 叫びっ、


「――<血糸封楔>ッ」


 血糸がデジールを覆う。


進速時之エママキナホーロロ血歯車ギオンメロンッ!」


 デジールは吠える!


 巻き戻す力を持っているから、デジールは封印されても直ぐに元に戻る。


 けど、プライドが傷つく。一時的に封印される。しかも憎しみだけでなく、強い信念を宿したウィオリナに、だ。


 それだけは、嫌だった。憎しみだけなら嘲笑っていたのに。


 だから、進速時之エママキナホーロロ血歯車ギオンメロンで永久に止まる血糸に時間を加速させる。時を加速させる力と時を止める力がせめぎ合う。


 パリンッと音が響き、<血糸封鎖>も時之血歯エママキナホーロロギオンも消滅した。


 消滅してしまったのだ。未知数の大輔への対策として残していた時之血歯エママキナホーロロギオンが。


 その瞬間を狙って。


「ところで、最後の美酒ばんさんのお味はどうだった?」

「何? 貴様、何を――」


 イーラ・グロブスとインセクタを消し去り、悠然とフィンガースナップをした大輔に、デジールが不愉快そうに眉をひそめ。


「ッッァァッガァァァーーッッッッ!」

「うん、なるほど。そんなに僕のどくは美味しかったんだね」


 枝状の金属がデジールの体から突き出る。血と肉が噴水のように噴き出た瞬間、突き出た金属が蠢き、首から上部だけがないアイアンメイデンへと変形する。


 デジールがアイアンメイデンに閉じ込められた。


 どこからその金属が出てきたか。


 それは大輔の血からだ。

 大輔は一目見た瞬間からデジールを殺せないと確信した。闘うなら無力化しかないと。


 だから、硬くなるんです、を取り出した際、それに細工をした。体内に入れた瞬間血液中に転移し、毎秒に増殖する分子レベルの金属粒子を注入したのだ。


 そんな金属が含んだ大輔のどくをデジールは大輔の左腕を握りつぶした際、飲んだ。


 どくがデジールの体内に入ったのだ。


 大輔がワザとデジールに欠損級の怪我を負わせなかったり、無駄話で挑発し、冷静を取り戻させて時之血歯エママキナホーロロギオン以外の力を積極的に使わせるようにしたり、殺すとかいってたのはそれ。


 自分の体を巻き戻されると、増殖した金属粒子も巻き戻ってしまうからだ。あと、どくに気づかれない様にするためでもあった。


 そしてある一定量に達した瞬間、トリガーを発動させ、一気に体を突き刺すレベルまで増殖。“錬金術[技匠]”を使った高性能の“錬金術”で金属を遠隔操作して首無しアイアンメイデンを作ったのだ。


 他にも幾つかの効能を付与してある。


「……ァ……ァ」

「うん、痛いでしょ? 強烈な痛みを付与して増大させてるんだ。君たちって普段は痛みを感じないから、相当痛みに弱いようだし」


 パクパクと泡を拭きながら白目をむくデジールに大輔はよしよし上手くいった、といった感じに頷く。


「…………」

「…………」


 杏とウィオリナがドン引く。そりゃあそうだ。世にも怖ろしいアイアンメイデンを見ながら、満足そうに頷いているのだから。


 と、灰色のシスターワンピース姿に戻っていたウィオリナが、気絶した・・・・デジールに警戒を向けた後、首を傾げる。


「あ、あの、ダイスケさん。何故、デジールは……」

「ああ、このアイアンメイデンの効果だよ。流石に肉体や魂魄が消失したりすると、どんなに妨害しても巻き戻しが発生する感じだけど、それ以外なら何とか妨害できてね。簡単に言えば深層レベルまでの意識を停止させたんだど」


 念ために、と大輔は“収納庫”を発動。市松人形四体を取り出し、デジールを覆うように四隅に置く。


 残り滓ほどしかない魔力を絞りだして、空間断絶が施してある結界を張る。杏が何故市松人形? と首を傾げる。


「つまり、無力化できたのですか?」

「まぁ一時的にね」

「一時的だと?」

「うん。デジールの時に干渉する力は、借りものなんだよ。力の繋がり的に。だからその元をどうにかしないと意味がない。ほら、まだ上に紅い月と夜が浮かんでるでしょ? あれ、その力の繋がり」


 杏は西側に少し寄っている巨大な紅い月を見た。改めて見ると異様だ。


「けど、今は戦闘態勢を解いても大丈夫だよ」

「なるほど」


 大輔の言葉に信頼を寄せている杏は体を紅く包み込む。覚醒魔法少女姿から制服姿へと元に戻る。


 と、ドサッと尻餅を突いてしまった。それに釣られてウィオリナもだ。


 二人とも力が残ってないのだ。魔力も血力もほぼ空なのだ。大輔もだが。


「うん。そりゃあ、疲れたよね」


 大輔はそう言いながら座り込む。


(はぁ、魔力と体力を回復させよ。元の方は僕がやらなくてもどうにかなるだろうけど、それだけで済まないと思うし。……にしてもギリギリだったなぁ……)


 “収納庫”を発動し、失った血や体力を取り戻すための食料やら飲み物を取り出す。主に干し肉やらスポーツドリンクやらだ。干し肉はアルビオンで重宝していたため、貯め込んでいたのだ。


「ありがとう、大輔」

「ありがとうございます、ダイスケさん」

「どういたしまして」


 礼を受け取り、干し肉を噛み噛みしながら大輔は思案する。


(ぶっちゃけ持ってる力のレベルを考えたら、こうもあっさりいかなかったはずなんだけど。瞬間転移できるなら空間編成だってできただろうし、重力崩壊も起こせた気がする……どうにもなぁ……後十手くらいは用意してたのに……)


 魂魄に作用する特殊なアイアンメイデンによって気絶しているデジールを見ながら、大輔は首を傾げる。


(頭が弱すぎた? 狡猾なら、時に干渉する力を使い熟してから、行動を起こしてそうだし。っというか、僕の口八丁手八丁にも乗ってこないよなぁ……なんか引っかかる。力に簡単に溺れる輩がここまで生き残ってるのも変な気がするんだよな)


 もそもそと干し肉を食べながら、杏と会話をするウィオリナを見た。


(技量的に言えば時に干渉する力さえなければ、ウィオリナでも封印できた気がする。あくまで十全を出し切ればだけど)


 大輔はゴクゴクゴクとスポーツドリンクを飲み干す。


(始祖がいるって話だし、ウィオリナよりも実力や経験が豊富な人も過去にいたはず。その中で生き残ってきたんだよね……やっぱり納得いかない)


 と、そんな事を考えていたら。


「あ、ようやく終わったんだ。ちょっと長かったね」


 少し離れたところに黒い渦が出来上がった。


 そこからニュルっと冥土ギズィアとバーレンが出てきた。血の虫外装ではなく、普通のシャツにジーパン姿のバーレンは二つの血のコインを弄んでいた。


 ギャッゲレンもクィバルタンも封印されたのだ。


「無事、封印できたようだね」

「はい、つつがなく」

「そう、お疲れ」

「もったいなきお言葉、感謝します」


 冥土ギズィアは恭しくカーテシーをする。バーレンはデジールを一瞥した後、大輔に頭を下げる。


「大体の戦略は冥土ギズィアさんから聞いたっす。何も関係ないのに戦って下さったこと感謝するっす。それにウィオリナさんを守ってくれたことも」

「バーレンさん、守ってないよ。ウィオリナはウィオリナの力で戦った」


 そう言った大輔にウィオリナは声を上げようとしたが、それよりも先にバーレンが頬を緩ませて頷いた。 


「そうっすか。なら、ウィオリナさんと一緒に戦ってくれたこと、感謝するっす」

「どういたしまして」


 深々と頭を下げられた大輔は、柔和に笑ってそれを受け取った。


 それから皆で座り込み、バーレンにも干し肉等々を分けていたころ。


「ッ」

「!」


 ドタンッという音と共に、デジールを閉じ込めていたアイアンメイデンが蠢き始めた。


 至る所から血が噴き出し、空間断絶結界を覆いつくす。


 ウィオリナとバーレンは息を飲んで警戒態勢を取るが、大輔と杏、冥土ギズィアは座ったままだ。


 大輔なんて気にせずむっしゃむっしゃと干し肉を食べている。杏も冥土ギズィアも大輔がそんな様子だから、動かないのだ。


 そしてゴックンと干し肉を食べきった大輔は、上空を見上げる。


「ようやく元に変化があったようだね」


 巨大だった紅い月は十分の一程小さくなり、半径一キロほど広がっていた夜もビルの上空だけとなったのだ。




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公開可能情報

<血糸盾編>:自らの血の糸を編みこみ作り出した盾を硬化させる。その盾と自分をつないでいる血糸を上手く使えば、衝撃を逃がしたり、攻撃を逸らしたりできる。また、足元に小さなそれを作り出せば、空中を駆けることができる。

<血糸電裂>:自らの血の糸に高圧電流を流し込み、周囲を焼き尽くす技。血糸の物質変換もしくは減少変換ができる者は少なく、ウィオリナもこれしか使えない。それに消費血力が高く、使いどころが限られる。

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