「ッと。危ない、危ない」
黒髪の
大輔はカシュンカシュンと
それと同時に、半円形の盾の隙間を縫って。
「シッ」
「燃えろっ」
杏は≪白焔≫で作り出した六発の白炎弾を、
「ウィ流血糸闘術、<血糸妖斬>ッ!」
ウィオリナはヴァイオリンから奏でられた十にも及ぶ極細の血糸を、
「悪殺滅法、<アクセルコイン>ッ」
バーレンは六発の血のコインを、
放つ。
黒髪の
その一瞬の隙に――
血のヴァイオリンを弓で引いたウィオリナと、三つの血のコインを弄んだバーレンは黒髪の
「ウィ流血糸闘術、<血糸妖斬>ッ!」
「悪殺滅法、<アクセルコイン>三連打ッ!」
「我らの
灼熱の炎を纏い放出する大剣を振り下ろした杏と、
「這えっ」
「胃を掴んで差し上げましょう」
「貴様ら
肉薄する。
ウィオリナとバーレンはその身に纏う血の外装によって、杏は覚醒の魔法少女外装の浮遊と≪灼熱≫による爆発の爆風移動を使って、人外の速度へと到達したのだ。
黒髪の
灰髪の
そして両方の
「私の
「何だッ」
「クッ」
黒髪の
その隙を逃さない。
「では強制的に胃を掴んであげましょう」
「ギズィ――ウィオリナさんっ、離れてッ」
「ですっ!」
バシュンッと右腕を
熱をもって回転ッ!
ドゥルルルルと重厚音を響かせながら、灰髪の
肉体が消滅し、けれど直ぐに再生した。
この間、六秒。
「仲間外れは良くないよね」
そして、空中で高みの見物をしていたデジールに大輔が地面を蹴って接近する。イーラ・グロブスとインセクタをガンスピンしながら銃弾、二十発放つ。
だが、ガンスピンをしていたのだ。銃弾は全てあらぬ方向へと飛んでいく。
それを見たデジールは大輔を見下す。血の歯車の翼――
「うん? オモチャすらも扱えないのか? 愚物が」
「そっくりそのままお返しするよ、おこぼれのオモチャでイキがってるお間抜けさん」
「ッ」
ニィッと笑った大輔を見て、ゾクッと背筋を震わせたデジールは急いで
すれば、カキンと音が響いて大輔が先ほど放った銃弾の一発が弾かれる。
だけどそれで終わりじゃない。
「ほら、僕の時間を加速させてみなよ」
「クッ、貴様ァッ!」
足元、背後、頭上、左右――つまり四方八方から銃弾が襲ってきたのだ。しかも絶妙にタイミングをずらして。
多跳躍交弾だ。あらぬ方向へ撃ちだされた弾丸は、地面はもちろん、
それでも頭上から銃弾が迫る理由は分からないが。
それに、
それは全ての銃弾が金茶色の光――オムニス・プラエセンスの力を纏っているからだ。時間加速の劣化崩壊を防いでいるのだ。
だから物理的に防ぐことしかできない。
それに。
「何故視えなッ――」
「間抜けってさっき言ったじゃん」
「なッ!」
それは何も時間の加速だけではない。
だから、デジールは視えない。弾丸が自分を襲う未来が。オムニス・プラエセンスの影響がない世界線の未来しか視えないのだ。
それだけじゃない。
「そもそも未来視? それはお前の専売特許じゃないよ」
「なっ――貴様もッ!」
「さぁ?」
金茶色の障壁を蹴って空中を乱舞する大輔の瞳は複雑怪奇。渋滞を起こしている。詰め込めすぎだ。
真っ白の瞳に真っ黒の華、左目には翡翠の星々、そして、歯車が刻まれた幾何学模様が両目に浮かんでいる。ついでにキランと輝く眼鏡。
“天心眼”の
つまり、未来視同士が干渉しあっているのだ。確実な未来が見えるわけがない。
「時を手にしたくらいで、神を名乗るとか。バカなの、死ぬの? 不死で死ぬってどんな感じなの?」
「きさ――」
「いや、貴様しか言えないんだからバカなのは分かるんだけどさ。僕より長生きしてるんでしょ? 語彙力増やそうよ」
縦横無尽に空中を舞いデジールを翻弄する大輔は、間断なくイーラ・グロブスとインセクタから銃弾を放つ。下で戦っているウィオリナたちの攻撃すらも利用して跳弾させ、未来視以外の弾丸予測すらも不可能にしていく。
それからベルトに下がる弾帯で流れるようにリロードする。自動で弾丸弾倉等々が浮いてリロードしてくれるから余計に隙がなく、デジールの
頬を
予想だにしなかった状況にデジールが思わず歯噛みした瞬間。
「だいたい新しいオモチャでしか遊ばないとか、本当に子供だよね。ッという事で、落ちろ」
「なッ、いつの間にっ」
大輔に気を取られすぎて、デジールは気が付かなかった。いつの間にかデジールと大輔を覆うように展開されていた十六枚の
だから、落ちる。発生した超重力に負けて、地面に楔を打ち込まれる。
ついでに大輔が背中の
パリンッと崩れ落ちる。
「カハッ」
「我が主っ」
「デジール様っ」
叩きつけられた衝撃と
「ああ、この感覚、素晴らしい」
「
「ウィ流血糸闘術、<血糸波浪斬>ッ!」
「悪殺滅法、<レッドバースト>ッ!」
それを狙って
「チィッ!」
「虫けら如きがっ!」
歯噛みしながら全ての攻撃を捌ききれないと判断した黒髪の
血飛沫が上がり、肉片が飛び散った。
それらが巻きあがり、血と肉で構成された本当の肉壁がデジールの前に出来上がり、全ての攻撃を防いだ。
だが、防いだとはいえあれだけの波状攻撃。血と肉が屋上全体に蠢き、咄嗟に
それらが蠢き這いつくばりながら、二つの場所それぞれに集まる様子は
その後ろで背中から血を噴き出し、
「うわぁ」
「ッ……ぅっ」
「杏様、大丈夫ですか?」
トンッと着地した大輔は嫌なものを見たといった感じに顔を顰める。
杏は顔を真っ青に染め、思わず口に手を当てる。赤い血が飛び散っても人外相手という事もあり平静をもって戦えていたが、それでもこれには
「これ、飲むと落ち着くよ」
「……いや、今は」
「大丈夫。向こうもこっちも動かないから」
「……分かった」
気丈に振舞おうとした杏は、けど大輔の瞳を見て素直になる。その瓶を受け取り、吐き気を気合で抑えながら喉に液体を通していく。
するとみるみると青白い顔に血色が戻る。吐き気が収まった杏は感謝するように大輔を見やる。
「……鈴木、お前はなんでも持ってるな」
「まぁね。……ほら、ウィオリナさんもいるでしょ?」
「ッ。私はいり――」
「やせ我慢は邪魔。万全にして」
「……はいです」
無言で耐えていたが、ウィオリナも今の様子には相当堪えたらしい。経験が豊富でこんな光景を二度ほど見たことがあり、ある程度平静を保っているバーレンに警戒を任せ、ウィオリナも試験管を受け取り飲む。
「あ、ゴミはこっちで回収するから」
杏とウィオリナから空の試験管を受け取り、弄んだ大輔は。
「じゃ、
「分かっております」
「ッ」
「!」
デジールを地に落とした大輔の脅威を実感した黒髪の
と、そこへ。
「
「悪殺滅法、<フィストコイン>ッ!」
「カハッ」
「クッ」
黒髪の
黒髪の
「「カハッ」」
「潰れなさいっ」
「殴殺っす」
そこに
「よくやった、ギャッゲレン、クィバルタン。そして殺せ。残虐に残忍に、死ぬ事が救いになるほどの苦痛を与えてから、殺せ」
「仰せのままに、我が主」
「畏まりました、デジール様」
黒髪の
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公開可能情報
“天心眼[先天眼]”:未来視の
“天心眼[界越真眼]”を併用する事で、精度を高める事ができるが、消費魔力が半端じゃなくなる。
・ウィオリナ
ウィ流血糸闘術:ウィに連なる家系が使う血糸を使った血闘封術。ただし封印よりは攻撃を優先するため、血闘術と述べる。ウィオリナの場合は血のヴァイオリンを媒介に使うことにより、血糸の操作精度が高まる。
<血糸妖斬>:自らの血を細い鋼鉄の糸のようにし、切り刻む。斬るという力を持っていて、大体のものは斬れる……かもしれない。
<血糸捕縛>:自らの血を細く粘性の高い糸のようにし、相手を拘束する。
<血糸波浪斬>:自らの血を細い鋼鉄の糸のようにし、それを間断ない波へと変える。あらゆる防御を食い破る時に使われる。
<血魂譜具>、ウィヴァイオリン:自らの魂魄と血に刻まれた名前を記した武器。ウィオリナの場合は、血のヴァイオリンがそれとなる。
<血糸封楔>:自らの血を細いとし、魂魄と肉体に刻まれている名前を媒介に封印する術。それは時の洞に閉じ込めるというものと同義であり、また肉体と魂魄に楔を打ち込むものと同義である。
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ウィオリナの場合、狼が一番体に適しており、それを纏った時の身体能力は音速の領域に入れるほど。
・バーレン
悪殺滅法:悪を殺し、滅する闘法。血闘封術なのに、血闘封術と名乗らない異端の流派でもある。現代の使い手はバーレンしかいない。
<血魂譜具>、フロフコイン:自らの魂魄と血に刻まれた名前を記した武器。バーレンの場合は、血のコインがそれとなる。
<レッドバースト>:大量に作り出したコインを殺戮の竜巻へと変え、相手を切り刻み禁殺する。
<アクセルコイン>:血のコインを指で弾いて放つ術。込めた血力が多ければ多いほど加速が上昇する。
<フィストコイン>:<レッドバースト>と同様の血のコインの嵐を圧縮し、拳に纏わせたもの。攻撃を当てた瞬間に、コインが弾け広がる。
<クロスコイン>:巨大な血のコインの楔に閉じ込め、魂魄と肉体に刻まれている名前を媒介に圧縮封印する術。それは時の洞に閉じ込めるというものと同義であり、また肉体と魂魄に楔を打ち込むものと同義である。
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