「
「本当に感謝している」
雪と杏が深々と頭を下げ続ける。
直樹と大輔は少し困ったように頬を掻く。感謝は嬉しいのだが、ぶっちゃけ言うと、直樹たちの方が感謝しているのだ。
最小限の魔力で最大限の結果を得られた。本当の話、直樹たちは得しかしていないのだ。貰えるものを貰いまくり、それらの礼として手を打ったまで。
それと理性的で善良的な一般人を心掛ける身としては、あそこまで関わり手助けしたのであれば最後まで手助けするのが筋というもの。途中で投げ出すのもどうかと思っただけだ。
まぁ感謝は素直に受け取るのが吉だ。それが礼でもある。
「どういたしまして」
「目一杯感謝してくれ」
前者が大輔。後者が直樹である。
「ああ、あとこれは受け取っていいんだよな」
「こら、直樹」
「あ、はい。そのために持ってきました」
「どうぞ」
ススっと雪が机の上に置いたクッキーの箱を二つを直樹たちの前に押し出す。杏はチョコレート。
直樹はホクホク顔でそれを受け取った。箱に記されているブランド名を見れば、高級品だと分かる。美味しいことは確実だ。お菓子が好きな直樹にとって垂涎ものなのだ。
大輔はジト目で直樹を見た後、雪たちに礼を言って受け取った。
「じゃあ、何から話そうかな。何か希望でもあるかな?」
「……では鈴木君たちの事を最初に教えてもらえないだろうか」
「いいよ。大した話じゃないしね」
Φ
「異世界……か」
「あの事故でそんな事があったんですね」
杏たちは直樹たちの許可なくば、直樹たちの情報を伝えることはできない。基本的にファンタジーに関わること以外の情報などはある程度伝達することを事前に許可しているが、神和ぎ社やらにDやNが大輔たちだとは伝わらない。
なので、別段大した話でもないため、直樹たちは掻い摘んで話したのだ。
ただ。
「やけにあっさり信じるね」
一切疑うことなく話を信じた杏と雪に大輔は不思議そうな表情をする。ここで騙す可能性は殆どないとはいえ、多少なりとも疑いそうなものだが。
「疑う理由がないし、疑ったとしてもしょうがないからな」
「私も同感です」
杏と雪は朗らかに頷いた。大輔はまぁ僕が疑り深いだけだよな、と思い直しつつ、やってきたスイーツに夢中な直樹にジト目を向ける。
パフェを美味しそうに頬張っている。そうかと思えば、コーヒーゼリーを口に含み、歓喜に震えている。
大輔にとっては見慣れた光景だ。
溜息を吐き、大輔は直樹を放っておくに決めた。雪は少しだけスイーツを頬張る直樹をジッと見ていた。
「……直樹の事は気にしなくていいよ。それよりあの後はどうなったの? 君たち以外の魔法少女はいなくなった?」
「ああ。ここ最近は
ドリンクバーのコーヒーを口に含みながら、杏が説明する。
「なるほど。もともとそれなりの下準備はあったわけか。じゃあ、僕たちが残した指示書はどれくらい反映されているかな?」
「引退した先輩方は通常生活に戻っていたりしているから、正確な事は分からないが、少なくとも現魔法少女だった者たちや局で働いていた先輩方の待遇は想像以上にいいらしい。今までの報償金にプラスしてこれまで通りの支援がある」
「それなりに対応しているようだね」
“天心眼”が九割ほど回復した今、大輔はやろうと思えば地球上のあらゆる場所を視ることができる。それには大まかな条件設定が必要なのだが。十割、つまり完璧に回復すれば、異世界にあろうが望むものを視る事ができる。
ただ、それは視るだけであり、思考を読んだり声を聞いたりするのは難しい。できないことはないが、手間がかかりすぎる。それに現、元合わせて魔法少女の数は数百に上るはずだ。それら全てを調べるのは厄介レベル。
なので仔細は尋ねた方が早いのだ。それと
穴がないとはいえないが、大輔たちがやれるのはここまでだ。
「それに恵美さんと日和さん、
「ああ、あの場にいた二人だね」
と、直樹をジッと見ていた雪が思い出したように会話に参戦する。
「はい。恵美さんたちも鈴木さんたちには大変感謝しています。それで、もしよければ……」
「それはないね。さっきも言ったけど、僕と直樹は地球とは全く関係ないんだよ。神和ぎ社とか知らないし、それにそれ以外の存在も詳しくない。知りたいともあんまり思わない。こっちとしては平穏に過ごしたいだけだし、関わるメリットがあんまりないんだよね。それよりデメリットの方が大きいと思うし」
「そうですか……」
面会の申し出はバッサリと切り捨てる。杏たちに関しては同じ高校だし、魔法少女という力を一生背負う事を手助けたしたので現に会っているが、それがなければ会わないだろう。
そういう意図を察したのか、雪は少しだけ落ち込んだように頷いた。それを尻目に大輔は気になっていたことを尋ねる。
「そういえば、百目鬼さんたちはどう扱いになったのかな? まだ決まってない感じ?」
その問に杏が答える。
「幾つか提案をされている。詳しいことは分からないが、アタシたち魔法少女に変身せずとも多少なりとも魔法を使えるようになった」
「まぁ魂魄と肉体それぞれを安定的に変性させたからね。それらは一生だよ」
「ああ。それを望んだからこそ、アタシたちはここにいる」
杏は頷く。雪も頷いた。
「それでどうにも魔法使いを育てるための学校というものがあるらしい。そこに入らないかとは言われている」
「へぇー。他には?」
「一般人として生活するか。神和ぎ社が管理している省庁に就職するか、特別部隊として過ごすか」
杏も雪も、まだまだ知らないことが多い。そも魔法とは何かを知らないし、神和ぎ社とは何か、まだまだ知らないことが多い。
「どうにも上はアタシたちの扱いに困っているようで」
「まぁそりゃあそうだろうね」
「アタシたちが、特に雪が身に宿すモノは無視できないが、鈴木君たちの言葉も無視できない」
「強制はしないようにっていう文面を指示書に書いておいたからね」
直樹がスイーツ全てを食べ終えた。満足満足と言いながら、ようやく会話に参戦する。
「それで結局のところ、お前たちはどうしたいんだ?」
「……それは、分からない」
杏は首を横に振った。
「私もです。
「休養は取りたいよな。準備期間は欲しいよな」
「はい、そんな感じです」
だが、長期間による連続戦闘ができる者などいない。休みは必要だ。
「ですので、今はゆっくり考えようと思います。魔法や神和ぎ社、それに陰陽師やエクソシストなどといった事は、もう少し後回しにします」
「……アタシもだ」
そうか、と直樹が頷いた。大輔はふぅん、と頷きながら、若干暗い表情をしている杏を見た。気にならないと言ったら嘘にはなるが、尋ねるほどものでもない。
そうして、数十分程度情報交換をした後、四人はファミレスを出た。
「じゃあね」
「じゃあな」
オレンジの空を見上げた後、大輔と直樹は杏たちに手を振った。
「はい、また今度」
「また明日」
雪と杏は、大輔たちが口にしなかった次を強調して手を振った。