「やっぱり
そして呆然としていたアメウナが、ようやく口を開こうとした瞬間。
「おぬ――」
「これは
手元を漆黒に光らせ、それを
あまりのタイミングにアメウナは思わず怒鳴りそうになるが、どうにか心を冷静にする。しなければ、
アメウナは静かに問いかける。
「……お主はそれがなんであるか知っておるのか?」
「まぁまぁ優秀なただの魔力素材です」
「ッ、素材じゃ――」
あまりの言いように怒気を
「
「ッ、お主らはどこまで!」
「私たちだけでなく、やろうと思えばホワイト様も知ることができますよ」
「え」
黒い心臓に心当たりがなく、状況が飲み込めていなかったホワイトは突然矛先を向けられ驚き、戸惑う。
「面倒ですが、≪想伝≫を使い
再び手元を光らせ、次は黒の指輪を取り出した。
「それとアメウナ。これも
「貴様らが持っていい物でもないであろうっ!」
これ見よがしに指輪を弄んだあと、異空間にしまった
「なぜでしょうか? あれらは
お前らの事情なんて知らねぇよ。それ相応の態度も取らず怒気を露にするだけの馬鹿に、渡すとでも?
そも
あっれ、違うのか?
そんな言葉を幻聴したアメウナに、
「力を欲して外に手を出し、運よく現れた物を欲望のためだけに使った。組織の上にいるのであれば、過去であろうと部下であろうと、その責を負うべきでは?」
「それにあなた達は、それ以外の責も負っているのでは? 魔法少女たちに一生を償うべき罪を背負っているのでは? それとも……まさか、償わなくてもいいと思ってるのですか?」
はためく
「
おもむろに顔を掴むと、口の中にアンプルを突っ込んだ。
「え、恵美!」
「
ただ、日和やホワイトたちはそうではないため、慌てて
「……体が、今まで感じていた……ああ……」
恵美が一心不乱に体のあちこちをまさぐり、ついには泣いて崩れ落ちてしまった。胸元から小さな宝珠を取り出し、それを地面に置いた。
「恵美、恵美! あなた、恵美に何をしたの!?」
日和が恵美の背中をさすり、
「ま、待って」
「え、恵美。大丈夫なの!? 変なところはない!?」
「……ひっ。ええ、ええ……ひっ……全く、全くないの」
恵美は肩を震わして顔をぐちゃぐちゃにしながら、安堵していた。喜んでいた。そのまま、心配そうに恵美を見つめていたホワイトたちを見た。
「ホ、ホワイトたちも……ひっ……これを飲んだのかしら……」
「は、はい」
「そう」
恵美はゆっくりと頷いた。何度か深呼吸して自らを落ち着かせた後、
「ありがとう。
「礼は
「そうね。ええ、本当にそうね」
恵美は懐から取り出したハンカチで涙を拭いながら、立ち上がった。状況が理解できない日和は、けれど驚愕する。
「恵美、
「大丈夫なの。もう、必要ないのよ」
なのに、恵美の
日和は、だんだんと状況を理解し始めた。
「日和。あなた、ずっと幸太郎さんとの子供が欲しいって言ってたでしょう」
「……まさ、か……」
アンプルを手に持った恵美に日和は喘ぐ。日和は既婚者だ。子供が欲しかったがそれは叶わぬ夢。事情を知らない夫――幸太郎は色々と手段を尽くしたり、気を使ってくれたが、だからこそ夫には負い目があった。
「そのまさかよ。私が立っているのが何よりの証拠」
「ッ」
恵美は一度だけ
日和はわなわなと震える手を必死に抑えながら、怯えるようにアンプルを受け取り、その透明な液体を口の中に入れた。飲み干した。
そして懐から宝珠を取り出し、それを離れたところに置いた。
「……ああ……ああ」
日和はそうしてやっと泣いた。その柔和な瞳には涙が溢れ、零れていく。恵美はそんな日和をぎゅっと抱きしめる。日和も恵美を抱きしめた。
未だに体を動かせないアメウナと晴久を見た。
「さて三つ目です」
「欠損した身体機能を回復させ、また
ビリリと響き渡るその声は怖ろしかった。自然や神々への畏怖を宿し、思わず従ってしまうほどの覇気があった。アメウナも晴久も自然と
「そして、罪を組織の全力で償いなさい! 妥協は許されません。あなたたちの事情など知りません。これは
バサリと鋼鉄の翼が風を打った。
「もし、それを怠った場合、神和ぎ社とやらは日本から消滅します。慈悲の欠片などありません。全てを
死を纏った漆黒の波動が広がったかと思うと、
具体的な命令内容が書かれている紙束だった。
Φ
「……よし、決めた」
「……はぁようやく決まった。じゃあ、さっさと書いちゃって」
直樹と大輔は、放課後とあるファミレスに来ていた。四人席なのに何故か隣並びで座っていた。
十分程度どんなスイーツを頼むか悩み、ようやく直樹が全てのスイーツを食べると決め、注文票を書いた時。
チャランと音が鳴り扉が開いた。
「あ」
それは、プロミネンスとホワイト、改め百目鬼杏と白桃雪だった。たまたまそっちを見ていた大輔は二人に気が付き、杏と目が合う。
大輔と目があった杏は少しバツの悪そうな顔をした後、雪に済まなそうに話しかけ、店員に直樹たちの方を指さした。店員は下がり、二人は直樹たちが座っている席の前に立った。
「鈴木君、佐藤君。ちょっといいか?」
「百目鬼さん? あ、はい、いいですよ」
大輔の許可を貰った二人は、直樹と大輔の向かい側に座った。二人とも申し訳ないといった表情をしており、雪は初対面みたいに直樹たちを見ていた。
……もちろん、演技である。芝居だ。
それ以外も表面上は問題なかったのだが、杏たちには監視はついていた。
だから、こんな面倒な舞台を設定したのだ。学校で突然接触するのは不自然だし、外で待ち合わせるとかも不自然だ。
なので、たまたまファミレスに入ったら見知った顔がいて、向こうもそれに気が付いて無視せざるを得なくなった……っていう感じの微妙な空気を演出したのだ。
大輔監修である。微妙な監修である。
ぶっちゃけ、直樹が認識阻害をかければ、学校であっても怪しまれることなど一切なかったが、念には念を入れてだ。
「ええっと、まぁここからは普通にしても大丈夫だよ」
直樹の“隠密隠蔽[薄没]”は、気配や存在感を薄くするのもちろんの事、それは因果律にすら及ぶ。直樹がいた、という事実すらも薄くなるのだ。直樹に関連する事にもその影響があるため、ある程度の自然な状況設定を作れば、会話程度は聞かれない。
四人の影が薄くなるのだ。路傍の石ころを気にしないのと同じ感じだ。または、常に吸っている空気を気にしないのと同じ。
多少不自然な行動をとってもスルーされる。
「それと自己紹介とかの前に先にこれを決めてくれるかな。ああ、今日は僕たちの奢りだから気にせず頼んでいいよ」
「……あ、ありが――」
「え、お前の奢りじゃないの?」
杏と雪が申し訳なさそうに礼を言おうとしたとき、直樹が驚いた声を出した。
「はぁっ? 僕たちは割り勘だよ。直樹だって稼いでるでしょ!」
「お前の方が稼いでるだろ。俺は物を作れねぇからネット販売には手を付けてないんだよ」
「はい、嘘。知ってるからね。直樹編み物だしてるじゃん。羊毛フェルトとか小物作って売ってるじゃん。トータルで見たら直樹の方がでかい。ってか、どちらが稼いでるとかじゃなくて、普通に割り勘でしょ」
「……チッ」
ちゃっかりスイーツ全品を奢りで食べようと思っていた直樹は渋々と先ほど書いた注文票を手に取り、半分のスイーツを横線で消した。というか、汚いなと思ったので、新しいのを取って書き直し、杏たちに渡す。
受け取った杏と雪は二人の会話を聞いて、微妙な表情をする。雪が口を開く。
「あ、あの、私たち自分で――」
「七歳年下の子に払わせるの? ねぇ、払わせるの? ああ、ミラちゃんとノアくんに言おうかな。うん、言わなきゃね」
煽ってきた大輔に直樹は慌てる。
「お、おい、汚いぞ。……白桃さん、さっきのは単なるジョークだ。何なら俺が全員分払おう。だから問題なく奢られろ。いいな」
雪は戸惑う。直樹が絶対に奢られろ、という表情なので断るのはあれだが、先ほどの会話を聞くと……
そんな雪に杏が助け船を出した。
「ああ、分かった。しっかりと奢ってもらう。私を盗撮した件もあるし、今日だけとは言わず、次回も奢ってもらおうか。もちろん、雪の分もだ」
「や、え……分かりました。今日は奢ってもらいます」
冗談めかしながら言った杏の意図に気が付き、雪はありがとうございます、と頭を下げながらメニューを選ぶ。二人が注文票を書き終えたら店員を呼び、注文票を渡した。
そうして一瞬だけ静寂が訪れた。最初に口を開いたのは大輔だった。
「さて、改めてだけど自己紹介だけしちゃおうか」
大輔が仕切るらしい。
「僕は鈴木大輔。理性的で善良的な一般人の男性だよ」
「俺は佐藤直樹。隣に同じだ」
二人とも自己紹介というのを知らないらしい。ただ、杏も雪もそれに突っ込むことはなく、自己紹介をする。
「アタシは百目鬼杏。鈴木君たちと同じクラスメイトだ」
「私は白桃雪です。年は十六で趣味はクラッシック音楽を聞くことです。よろしくおねがいします」
まともな自己紹介をしたのは雪だけだった。常識人だ。
「それじゃあ何から話そうか?」
「あの、その前に礼をさせてください」
常識人の雪はバックからクッキーが入った箱を二つを取り出し机に置いた。杏も同様にバックからチョコレートが入った箱を二つ取り出し、机に置いた。