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二十二話 先送りか

 地鳴りが轟いた。瞬間、横を見れば、黒煙があがり、巨大な銃弾が二つ、地面を貫いていた。


 そして数十秒後、無数の醜い女の顔が埋め込まれた闇――混沌の妄執ロイエヘクサの本体が絶叫を轟かせ、ものすごい速度で背後へ引いた。


 深追いはしない。


 改造、もとい覚醒した対混沌の妄執魔法外装ハンディアントによって浮遊していたホワイトたちの魔力は半分を切り、消耗も激しい。態勢が崩れていたこともあり、好機と見て彼女たちも一旦引いた。


『来ます!』


 頭に響いたのはホワイトの声。覚醒した対混沌の妄執魔法外装ハンディアントがもたらした三つ目の力、≪想伝≫から伝わる声なき言葉。


 分体である混沌の妄執ロイエヘクサの体が死んだことを察したのだろう。混沌の妄執ロイエヘクサの本体は残る魔力の殆どを練り上げ、おどろおどろしい魔力を唸らせる。


 瞬間、八寒地獄から持ってきたかの如く空気すらこおらせる千もの氷の槍を作り出したかと思うと、ホワイトたちに放つ。


 それに反応したのはジュエリー。


「押し込めるですわ!」


 ジュエリーはダイヤモンドの翼をはためかす。すると、皆を守護するが如く巨大なダイヤモンドが現れ、千に届く死を齎す氷槍を防いだ。


「うぐぅ」


 しかし、氷槍の勢いは衰えない。それどころか、巨大なダイヤモンドを徐々に凍らせていく。


 ジュエリーはうめく。呻きながらもダイヤモンドの翼をはためかせ、魔力を練り上げていく。


 するとどうだろうか。


 カラーレスだった巨大なダイヤモンドを白郡びゃくぐん色というべきか、青みを帯びた白へて変化していく。その変化に伴って、空気すらてつかせていた氷槍が徐々に空に溶けていく。消えていく。


「封印っ、ですわ!」


 そして巨大なダイヤモンドが完全に白郡色に染まった瞬間、放たれた氷槍がすべて消え去った。


 ≪宝封≫。ダイヤモンドの翼を媒介とする魔法。召喚したダイヤモンドに触れた存在を魔力量に応じて封印し、自在に解放する力。


 と、白郡色に染まった巨大なダイヤモンドがドクンドクンと脈動しながら、小さくなっていく。五百円玉程度の大きさに縮小したそれは、浮遊しながらジュエリーの宝石があしらわれたドレスに収まった。


 氷槍で貫くことだけに必死になっていた混沌の妄執ロイエヘクサの本体は、隙をさらす。ギョロギョロとした無数の女の闇の目を動かしながらも、その五人の魔女が混じった強大で狂乱な妄執いしは呆然とする。


 思念や考えを読み取り、また自分のそれらを伝える三つ目の力、≪想伝≫がホワイトにそれを教えてくれる。媒介は背中に生やす雪桜の翼。


『今です!』


 桜の髪飾りを媒介に≪強化≫を発動して皆の力を1.5倍ほど底上げしているホワイトの指示。≪想伝≫によって、最大の好機であるという言外の想いも伝わる。


 それを受け取ったプロミネンスたちはここが正念場と、残る魔力の殆どを注いで覚醒した力を行使する。使い慣れていないため、元の魔法を詠唱する。ジュエリーだけは、既に使いこなしたのか、詠唱すらせずに好きに叫んでいる。


「≪灼熱≫・≪白焔≫、巨頭天断!」


 まず、プロミネンス。煌々と燃え上がる深紅のドレスを唸らせ、体からプラズマ発生する焔を立ち昇らせる。蒼穹に輝く大剣を横に流す。


 すると、大剣の白炎走るつば――ガードがカシュンカシュンと音を立てながら変形していき、横五メートル程の巨大なガードへと変形する。


 大剣を握る両手に身に着けたフィンガーレス・グローブと蒼穹の腕輪が輝くと同時に、白炎と蒼炎が巨大なガードから立ち昇り、斬艦刀もかくやと言わんばかりの清浄なる蒼と白の焔の巨大剣が出来上がる。


 空気が焦げ、風が死に、世界が燃える。収束した超高温の焔の巨大剣をプロミネンスが混沌の妄執ロイエヘクサの本体に振り上げる。


 絶叫が焼けた。プラズマが一瞬走って燃やし尽くし、表面には魂魄すら焼く消えない白炎が纏わりついている。プロミネンスの新しい力、≪白焔≫だ。不滅の焔だ。


 それに続くがレイン。


「≪鬼雨≫・≪嵐雷≫、〝フレッドテンペスト〟!」


 混じり気のない純粋な水のポンチョを清流へと化し、水の猫耳と尻尾を横溢させながら、嵐纏う水玉模様の傘を開く。嵐が舞い散る。


 それと同時に背中に背負う大きさの違う三つの雨雲の円環を轟かせ、雷光を吠えさせる。雨雲の円環が蠢動しゅんどうする。


 と、その瞬間、真っ二つになった混沌の妄執ロイエヘクサの本体の頭上に暗雲立ち込める乱雲が現れる。


 そして荒れた。


 二つになった混沌の妄執ロイエヘクサの本体の周辺だけに無数の雷が咆哮して、雷公が雷の牢獄へそれらを閉じ込める。吹き荒ぶる二つの巨大な竜巻が混沌の妄執ロイエヘクサの本体に埋め込まれた無数の女の顔を削ぎ落す。


 滝が降った。そう錯覚するほどの膨大な雨が弾丸となりて、二つの混沌の妄執ロイエヘクサの本体を穿つ。貫き、断末魔を響かせる。


 そして晴れる。


 次に動くはグリム。


「……≪死鎖≫・≪生殺≫、死神のかいなに抱かれて死んで」


 翼のように背負う太い臙脂の鎖を羽ばたかせる。黒髪を纏める細い臙脂の鎖も生きているが如くうごめく。また、二つの大鎌を独楽こまのように振るう。


 瞬間、無数の孔が空いた二つの混沌の妄執ロイエヘクサの本体の周囲それぞれに、巨大な臙脂色の鎖が現れ、縛り付ける。断末魔さえ上げられない。


 太い臙脂の鎖を媒介とする≪死鎖≫。触れたものすべてを拘束し、決して離さない。じわじわと衰弱死に追いやる鎖。非実体の魔力体や魂魄も拘束する。


 その恐ろしい巨大鎖に、二つの大鎌から放たれた相手の生命力や魔力を奪い取る≪生殺≫を纏わせた。これで混沌の妄執ロイエヘクサの本体はやがて死ぬ。


 最後にジュエリー。


「解放、ですわ!」


 ルビーの右目とトパーズの左目を爛々と輝かせながら、先ほどの白郡色に輝くダイヤモンドを放り投げ、トパーズのボルトアクションライフルを構える。銃口が煌めき、宝石の弾丸がそのダイヤモンドを貫いた。


 瞬間、封印していた空気を凍てつかせる千の氷槍が、太い鎖で拘束されたそれぞれの混沌の妄執ロイエヘクサの本体へと射出される。


 突き刺さり、ビキビキとそこから氷の華が咲き誇る。凍てつき氷結する。真っ二つの混沌の妄執ロイエヘクサの本体が氷に包まれ、地響きを立てながら地面に落ちた。


 そして。


「ごめんなさい」


 回復と強化、指示に徹し、力を温存していたホワイトは清浄な音を奏でる鈴のようにこいねがう。


「同情しています。共感しています」


 プロミネンスたちの強化に回していた魔力をただただ≪想伝≫だけにつぎ込む。覚醒した対混沌の妄執魔法外装ハンディアントによる浮遊すらせず、雪桜の翼を舞い散らせながらゆっくりと歩く。


 桜が吹雪くステッキを一振りする。


 すると、永久の氷に抱かれた二つの混沌の妄執ロイエヘクサの本体から雪桜の芽が現れる。それはゆっくりと生長していく。


 これは≪想伝≫によって引き起こされているが、≪想伝≫の魔法ではない。心の奥にいる影から教わる本物の魔法。対混沌の妄執魔法外装ハンディアントを媒介にした魔法ではなく、自力で行使する魔法。


「だけど、私はあなたたちではありません。同じ想いを抱くことができません。同じ行動を取ることができません」


 しゃなりしゃなりと桜吹雪を背負いながら歩みを進めるホワイトは、そっと目を伏せる。謝罪をしているのではなく、宣言しているのだ。


 私はあなたとは違うのだと。


 ≪想伝≫であなたの怨み、憎しみ、怒り、苦しみ、後悔、悲しみ、祈り、願い、懇願、希望、絶望………………愛情。すべてを見て、聞いて、感じて、知ることはできたけど、化け物にはなれないと。


 化け物あなたを選ばないと。


 しゃらんと桜の鈴の音が鳴り響き、混沌の妄執ロイエヘクサの本体から生えている雪桜の木が一気に生長する。巨木になる。


「ごめんなさい。あなたを侮辱します」


 ステッキを持たないもう片方の手を横に振り、春の桜を咲かせたホワイトは、だからこそ謝罪する。


 その手段を。


 混沌の妄執ロイエヘクサにとって一番最悪最低な手段をとることを謝罪する。


 ホワイトは、雪桜を纏うその可憐な容貌に似合わないニヒルな笑みを浮かべた。昨日見た、あの美しい笑みを浮かべた。


 しゃらんと桜の鈴の音がなり、巨木となった雪桜がつぼみをつける。


「あなたのその妄執いし、もらいます」


 しゃらんと鈴の音がなり、雪桜の蕾が一斉に満開する。桜が咲く。


 そんな雪桜を体から生やす混沌の妄執ロイエヘクサの本体の前に立ったホワイトは、胸の前で祈り手を組む。足元から桜の花びらがクルクルと舞い上がり、それが一つの竜巻となる。まるで桜の龍だ。


 混沌の妄執ロイエヘクサの本体に生長した二つの雪桜の花びらがくるりくるりと、花車のように落ちる。サアァーッとつむじ風が踊ると、花車が舞い上がる。ホワイトを中心とした桜の竜巻と混じりて強大な吹雪となる。


「≪想伝≫、継承」


 しゃなりと優しく慈悲に溢れた言葉が響く。けれど、それはどこか酷薄ささえ感じる。たぶん、桜が咲いた白の瞳に冷徹なまでの決意が宿っているから。


 恐怖したのか。氷に包まれ声を出せない混沌の妄執ロイエヘクサの本体が吠える。


「カエセェェェェェェェッェェッッッェェッ!」

もらいます」


 吹雪いていた桜が晴れた。代わりにどす黒い桜が舞い散る。純白の雪桜の巨木がゆっくりとおどろおどろしい闇に染まっていく。


 そして混沌の妄執ロイエヘクサの本体を覆っていた氷が溶け、混沌の妄執ロイエヘクサの本体の体が小さくなっていく。まるで清められているかのように。まるで忘れているかのように。


 だけど。


「くぅぅぅぅうっぅうぅぅぅぅっっ!」


 胸からおぞましい闇を迸らせたホワイトが、膝を突く。苦悶に眉を歪め、目端からは涙が零れる。声にならない悲鳴が響き渡り、無意識に発動する≪想伝≫が周囲に苦しみを伝播させる。


 祈り手は強く握りしめられ、血が溢れる。


 いや、それだけではない。体のあちらこちらからおぞましい闇の刃が突き出て、血飛沫しぶきが散る。鮮血の華が咲く。


 祈りながらも闇に包まれるその白桜は、悲惨だ。


「ホワイト、どういうことだ!? アタシたちはそんなことを聞いてな――」

「やめなさい、ホワイ――」


 事前に聞いていた混沌の妄執ロイエヘクサの本体の倒し方とは全くもって違う様子に、魔力が尽きたプロミネンスたちがだるい体を必死に引きずってホワイトの元へ駆けつける。


 グリムは≪生殺≫で自らの生命力を魔力に変換して、その魔力をホワイトに合う生命力に変換して譲渡する。回復させる。だがグリムはすぐに青白く顔を染め、倒れこんでしまった。


 それほどにホワイトが傷ついているのだ。グリムの回復を遙かに上回る速度で傷ついているのだ。


 このままでは出血過多でホワイトが死んでしまうと。いや、その前に次々とその細い華奢な体から生える闇の刃で死ぬと。


 プロミネンスとジュエリーが慌てて魔法行使を止めようと触れる。


「……なん……だ、こ……れ」

「……ッ……こ……んな」

「プロミネンスさん! ジュエリーさん!」


 しかし、二人ともホワイトに触れた瞬間、蒼白に顔を染め、崩れ落ちてしまう。ガタガタと体を震わし、胃の中のものをすべて吐いてしまう。


 レインが残りカスの魔力を使って吐いたものを水で洗い流し、二人の肩をさする。


「大丈夫ですか!」

「……大丈夫だ」

「……問題ないですわ」


 息は荒い。体は恐怖に震えているし、顔は青を通り越して死人の如く白く染まっている。


 けど、二人は立ち上がった。瞳には決意を宿している。


「ホワイト。アタシにも分けてくれ」

「ホワイト。わたくしにも背負わせてください」


 苦悶に喘ぎ血飛沫を上げながらも、ニヒルな笑みを決して絶やさないホワイトに触れる。支える。


 瞬間、二人におぞましい怨念が流れ込む。怨念なんて生易しいものじゃない。怒り、怨み、悲しみ、苦しみ……あらゆる激情が混沌に蠢き、流れ込んでくる。


 二人は片膝を突く。それでも、それでも崩れ落ちることはなく、凛然とホワイトの苦しみを受け止めるかのように祈る。ホワイトの助けになればと願う。


 レインがそんな二人の様子に戸惑いながらも、ゆっくりと目を伏せた。そうしてしばらくして開いた群青の瞳は深く強い意思があった。気弱そうな彼女には似合わない凛とした顔つきだった。


 ホワイトに触れる。


 ああ、とレインはあえぐ。思った通りだ。思った通り、想像を絶する感情が心の底から溢れ出る。とめどなく流れ出てレインを侵食していく。


 それでも体に纏うその純粋な水をうねらせ、ホワイトをそっと抱きしめる。


 蒼白に顔を歪めていたグリムがずるずると体を引きずりながら移動し、ホワイトに触れた。


 グリムは喘がない。無表情のその顔を歪めることすらしない。


 だって、≪生殺≫で回復した時に知ったから。ホワイトが受け継ごうとしている妄執いしを。


 自分ではそれを受け継ぐことはできないけど、彼女に温かい想いを伝える事ができる。慰めはできる。


 だから、グリムは無表情のまま黒の瞳を和らげた。


 ホワイトはおどろおどろしい闇の海に沈んでいた。体を絡めとるドロドロとした闇の中、彼女は息もせず胸の内を光らせる。


 仲間の光で胸を灯しながら、闇を導く。


――悲しかった。……ええ、そうなんでしょう。


 ドロリと闇の海が荒ぶる。かさが低くなる。悲しい闇がホワイトに吸い込まれた。


――怒りが溢れた。……子を思う母としてたぶんそうなんでしょう。


 ドロドロリと闇の海が沈んだ。怒りの闇がホワイトに吸い込まれた。


――憎しみが零れた。……自分すら憎んだのですね。


 ドロリドロリと闇の海が渦を作った。憎しみの闇がホワイトに吸い込まれた。


 ゆっくりゆっくり、一つずつ一つずつ、闇がホワイトに収まる。まるでホワイトに闇が流れているかのように、それは自然だった。


 だが、人の身でその自然を為しているホワイトは、悶える。心が殺されそうになる。支配されそうになる。今にでも全てを破壊したくなる。何もかもがどうでもよくなってしまいそうだ。


 収める闇が心の奥底から溢れ出そうになる。必死になって押し込めようとするが、もう息が切れる。


 と、そこへ。


――なら、俺が貰ってやろうか。


 押し込める闇よりも黒く深い影の手がホワイトの前に現れた。それが誰か、ホワイトはすぐに分かった。この魔法を教えてくれたのも彼だから。


 この過酷で残酷な魔法を自分に提案したのは彼だったから。


 その提案を自らの意思で選択したホワイトは、煩悶はんもんしながらも静かに顔を横に振った。


――いいえ、大丈夫です。

――そうか。


 すると、その影の手がホワイトの胸を貫き、そして溶け込んだ。


――優しい。


 感じるのはまずまず自らを貫く意思。優しさ。


 ホワイトはその優しさに頬を緩めながら、もっともっと闇を取り込む。取り込んで吸いつくしていく。


 そして閉じていた瞼を開いた。桜が浮かぶ目で微笑んだ。


――お疲れ様です。ありがとうございます。


 ホワイトはぎゅっと胸を抱きしめる。


――だから、安心してください。後は私が、私たちが引き受けますから。


 闇の海がなくなった。


 代わりに純白の桜の海が現れた。桜の花びらだけで作られた世界。


 ホワイトなそんな世界に目を細めながら、笑った。


 暗闇の中、自らに絡まった無数の闇の糸が紐解かれていく。はらりはらりと糸が抜き去られ、どこかへと消えていく。


 混沌の妄執ロイエヘクサの意思は囚われ続けた原風景の中、そんな情景を瞼の裏で見た。


 そしてその情景を目を閉じながら見ていたら、どこからか聞き覚えのある女性の声が幾つも聞こえた。


 愛しい声だった。


 そんな声に混沌の妄執ロイエヘクサの意思――五人の魔女は閉じていた瞼を開いた。開くことのなかった瞼が動いたのだった。


 その瞼の奥にあった目で見た世界はいろを灯す優しい光に溢れていた。白く優しい桜の大樹が光を放っていた。


 その花吹雪を纏う桜の大樹のそばに、見覚えのある六つの影があった。


 その六つの影をを見た五人の魔女は、涙を浮かべて、ふっと軽くなった心を抱きしめた。微笑んだ。


 ホワイトは閉じていた瞳をそっと開けた。


 混沌の妄執ロイエヘクサは消えていた。雪桜の巨木も何もかもが消えていて、灰色の世界は色彩豊かに色づいていた。


 己の体から突き出ていた無数の闇の刃は、いつの間にか消えていた。鮮血に染まっていたはずの衣装は元の白に戻っていた。覚醒姿ではなく、普段の魔法少女の姿になっていた。


 後ろを振り返る。プロミネンスたちが終わったのか、と呟き、感慨深げに空を見上げていた。


 それに目を細めながら、ホワイトは手元を見た。


 そこには純白と闇が混じった宝珠があった。それがスッと粒子となり、ホワイトの中に流れ込んだ。


 激情に襲われ、全てが消えてしまえと願いそうになる。


 けど。


「もう、大丈夫だな」


 特徴のないぼんやりとした声が耳に入る。ホワイトはその声に頬を緩まし、光輝宿す瞳を影の手――直樹に向けた。


「はい。私はこの想いを継ぎました。そして私なりにこの想いを祓います」


 ホワイトがしたのは単純。混沌の妄執ロイエヘクサがもつ妄執いしを奪った。直樹が教えた魔法と≪想伝≫を使い、妄執おもいを奪ったのだ。


 今、彼女の中にはその想いがある。


「先送りか」


 直樹が呆れる仕草をしながら問いかける。隣にいた大輔が白々しいよ、と目で訴える。実際、蛇足に近い確認だ。


 それが分かっていながら、ホワイトは頷いた。


「ええ。今の私では祓えないから、想いを奪いました。誰にもこの想いを渡したくないから、私が祓いたいから、我儘わがままで彼女たちから奪いました」


 なら、と直樹と大輔が呟く。


「その我儘を一生背負って通せば、決意になる」

「高潔な意思になるよ」


 遠い目をする直樹と大輔の言葉を聞きながら、ホワイトはゆっくりとそれを吟味する。自分には似合わない言葉だったから。


 だから、雪は昨日からずっと考えていた事を口にした。影響されやすい性格だな、と苦笑しながらゆっくりと言葉にした。


「……影になるんだと思います。私自身の影に、その奪った影が加わるんです。深く濃く長い影が、私の後ろに伸びます」


 それからホワイトはそっと瞼を閉じ、そして開いた。


「どうした?」

「うん?」


 ホワイトは片膝を突き、頭を垂れた。


 誓いを立てる。自らに誓いを立てるのは当然として、その誓いを違えないために、誰かに誓いを立てる。


 改めてそれを背負った今、一生の貫く誓いを。


 自分は弱いから、醜いから、ちっぽけだから――神に、自然に、目の前の光に祈るのだ。


「私は一生を賭けて、その妄執かげを祓います。私の執念かげで祓います」


 感慨深げの空を見上げていたはずのプロミネンスたちも、ホワイトの横に並び、片膝を突いてこうべを垂れた。


「アタシはホワイトの支える」

「わたくしもですわ」

「私も」

「……ん」


 そんな誓いを自分たちに立てられても困るんだけどな、と頬を掻く直樹と大輔は、されど頷いた。


「そうか。なら、頑なにその意地を張れ」

「折り合いがつけられなくなって後悔すると思うけど、それでも頑張って」


 直樹と大輔は無責任な言葉を吐いた。


 だけどそれはホワイトたちにとって大きな光となって。


「「「「「はい!」」」」」


 全員が頷いた。魔法少女だからこそ、頷いた。





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公開可能情報

プロミネンス

通常時

 ≪灼熱≫:灼熱の炎を生み出し、操作する。――蒼穹の腕輪

 ≪直観≫:意識していることに関連する予感を与える。強力なものになると未来予知にすら相当する。――大剣

覚醒時

 ≪灼熱≫――二つの蒼穹の腕輪

 ≪直観≫――大剣

 ≪白焔≫:不浄を浄化しつくすまで消えない白の炎。魂魄にもダメージを与える。――フィンガーレス・グローブ


ホワイト

通常時

 ≪癒し≫:癒す。回復する。――ステッキ

 ≪強化≫:身体能力、魔法などあらゆるものを強化する。――リボン

覚醒時

 ≪癒し≫――ステッキ

 ≪強化≫――桜の髪飾り

 ≪想伝≫:想いを伝える力。想いが伝わる力。想いが応用すれば、魂魄に作用させることも可能。――背中の雪の桜の翼


ジュエリー

通常時

 ≪宝弾≫:宝石の弾丸。――トパーズの指輪

 ≪金剛≫:宝石の壁。――ルビーの指輪

覚醒時

 ≪宝弾≫――トパーズのボルトアクション

 ≪金剛≫――ルビーのボルトアクション

 ≪宝封≫:宝石に触れた存在を封印し、自在に解放する。相応の魔力を消費すれば人も封印できる。封印した宝石は小さくなり、ドレスにあしらわれる宝石の一つとなる。――ダイヤモンドの翼。


グリム

通常時

 ≪生殺≫:自分の魔力を生命力に変換し自分に使ったり分け与えりする。また相手の生命力や魔力を奪う事ができる。――大鎌

 ≪影踏み≫:実体ある影を足元に作り出し、踏む。――黒ブーツ

覚醒時

 ≪生殺≫――二振りの大鎌

 ≪影踏み≫――鎖があしらわれた黒ブーツ

 ≪死鎖≫:変幻自在な鎖を生み出す。触れたものの魂魄を拘束し、時間をかけてじわじわと死に追いやる。――臙脂の鎖


レイン

通常時

 ≪鬼雨≫:雨の弾丸を射出する。――水玉模様の傘

 ≪氾浪≫:大量の水の濁流を生み出す。――水玉模様の猫耳ポンチョ

覚醒時

 ≪鬼雨≫――嵐を纏う水玉模様の傘

 ≪氾浪≫――水でできた猫耳猫尻尾のポンチョ

 ≪嵐雷≫:竜巻と雷を引き起こす。――三つの雨雲の円環。

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