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異世界チートが現代でも無双するようですよ? ~帰還者たちは再び異世界に行きたい~
イノナかノかワズ
現代ファンタジー都市ファンタジー
2024年08月02日
公開日
453,951文字
連載中
仲間とともに邪神を倒した直樹と大輔は、しかし女神によって地球に強制送還された。師匠の墓参りすらできず、仲間と祝杯を挙げることもできず。そして愛する人に愛を伝えることもできず。
故に二人は再びアルビオンに行く。だがしかし、異世界転移が困難を極めるのはもちろん、魔法少女、吸血鬼、神、陰陽師、妖怪、魔術師、エクソシスト、悪魔に天使。存外ファンタジーだった地球が二人の前に立ちふさがる。
果たして直樹と大輔は無事に異世界に行けるのだろうか?
※恋愛等々が出てくるのは二章からです。ご了承ください。
※一話4500から7000程度です。たまに(主に戦闘シーン)が8000文字を超えることがあります。ご容赦ください。
※一応、現実の地球とはちょっと違います。ファンタジーなので。ですので、ちょっと実際の名所とかの構造とかが違ったりします。ご容赦ください。
※直樹と大輔は邪神殺しの異世界帰りのチートです。展開によっては最強ではないかもしれませんが、ほぼ最強です。
※設定はゆるゆるです。ご都合主義が多いです。
※カクヨム、その他で投稿済み。完結まで執筆済み。

【重要】
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一話 あんのぉ、くそ女神ぃぃ!

 多くのエンジン音が近くから響く中、ギギギと錆びついた扉が開く不快な音が鼓膜に届く。


「……あ、ありがとうございます、佐藤さん」

「……あ、ああ」


 佐藤直樹と鈴木大輔は広い道路に接している学校の倉庫に来ていた。たまたま帰ろうとしたところ、担任に呼び止められ、倉庫にものを取りに行くように命じられたのだ。


 二人ともぼっちであり、学校内での人間関係に積極的でなかった事もあってか、その担任が少しだけ気を利かせたのだが、当の本人たちは早く帰れなくて少し陰鬱な表情だ。


 それは何も早く帰れないだけではなく、倉庫内にいるにも関わらず響く、植木とフェンスの向こうの乗用車やトラック、大型車、団体旅行のマイクロバス等々が走り去るエンジン音がうるさいのもあるだろう。後は、倉庫内の物が無造作に置かれ、錆びくさく鬱蒼としていて空気が重いのもあるのだろう。


「……あ、ありましたか?」

「……い、いや、ない……な」


 二人とも積極的に口を開かない。ただ、最低限のやり取りはしなければならないため、ボソボソとしどろもどろに会話をし、ガサゴソと物をどかしながら言われた物を探す。


 そうして数分。


「あ、あの……ありました」

「そ、そうか。……あ、じゃあ……」

「……はい」


 普通顔で黒髪茶目で中肉中背。銀の縁の丸眼鏡をかけていて少しだけ垂れ目でおっとりとした雰囲気の大輔が、指定された古い段ボール箱を抱えて倉庫を出る。


 普通顔で黒髪黒目で中肉中背。少しだけ目つきが鋭く暗い雰囲気の直樹が両手で錆びついた扉を閉める。


 制服の胸ポケットから借りた鍵を取り出し、何度か挿すのに戸惑いながらもガチャンと古びた音をたてて鍵をかけた。


「じゃ、じゃあ」

「はい」


 二人は職員室へ向かうために足を進めた。


 と、その時、つんざくエンジン音に負けないくらい大きな女性の怒鳴り声が二つ、聞こえた。


しょうは、どっちと遊びに行くの!?」

「そうよっ、どっちと遊びに行くか、ハッキリするって約束したじゃない!?」


 その怒鳴り声に二人は足を止める。その二人の女性の声には聞き覚えがあったからだ。ついでにその翔という名前も。


 二人は戸惑いながら顔を合わせる。黒目にも茶目にも面倒だなという思いと、お前はどうなんだよという思いが浮かんでいた。


 え、あ、と声にならない声で言い合いながら、二人は成り行きで怒鳴り声が聞こえた方向、つまり倉庫裏をチラリと見た。


 そこには、茶髪茶目の優男が、少しだけ緑が混じった黒髪の美少女と少しだけ青が混じった黒髪の美少女に問い詰められていた。


 間違いない。学園でも人気の高いイケメン、八神翔と、そのヒロインたち、神無かみなしあかり月城つきしろ麗華れいかだった。いつも一緒にいる。幼馴染だとか何とか。


 二人は見てはいけないものを見てしまったかのように、バッと顔をそむけ、そのあと何度かビクビクと互いの顔を伺った後、それとなしに足を進めた。


 触らぬ神に祟りなし。自分たちは陰キャのグループにすら入っていないボッチ。目を付けられるのは嫌だと。


 ただ、二人とも足を進めるのが少しだけ遅かった。


「きゃぁっ!」

「何よっ!」

「なんだっ!?」


 バスン、という音が響く。その直ぐ後にギギャギャガ、ガガザザー、キュリュシュル、とドリフト音が聞こえたかと思うと、バスンガスンドカンと金属同士がぶつかる音が聞こえる。


 そして最後に。


「あ」


 その声を漏らした大輔は手に持っていた段ボールを落とし、そして腰をぬかしてしまう。直樹はそんな大輔の手を引っ張って逃げようとするが躓く。


 ガッシャーンとフェンスがぶち破れる音と共に、ガソリンを運ぶ車――タンクローリーが突っ込んできた。そのまま倉庫にぶち当たり、長く伸びる車体が倉庫裏にいた三人をき、三人が宙を舞う。


 そしてさらに運が悪いことに、一瞬だけバボッという気の抜けた音が鳴り響いたかと思った瞬間、爆発した。


 爆風が舞い、炎上し、熱波が襲い、吹き飛ばされ、体に瓦礫があたり、地面に叩きのめされ、意識が朦朧とし、痛みすら感じず、ドロドロと体が寒くなって、視界が真っ赤に染まって。


 血まみれに横たわった直樹が朦朧と意識の中、見た。八神翔、神無灯、月城麗華の腕や体の一部が吹き飛び、火傷を負っている姿を。一緒にいた鈴木大輔の眼鏡が自分の視界の端にあるのを。


 そして。


――なん……だ……あ……れは……


 炎上して何も見えないトラックと焼けただれた三人、そして自分と眼鏡の直ぐ近くで神々からの祝福のように光り輝く魔法陣を。


 けどそれを見たのも一瞬。視界がブラックアウトした。


 ああ、死んだんだな、と直樹は思った。



 Φ



 五月二十八日。十六時十二分。晴れ。気温十七度。


 とある千葉県の高校。


 ガソリンを積んだタンクローリーは居眠り運転をしていたトラックに追突される。運転手は必死にハンドルを切ったものの、いくつかの乗用車とトラックに再度激突、つまり玉突き衝突をし、操縦不可能に。その際、後ろのタンクが損傷。


 そして隣接していた高校へ突っ込み、フェンスと植木を破壊しながら、倉庫に激突。フェンスとの摩擦により、積んでいたガソリンに燃焼。爆発が起きた。


 不幸中の幸い、学校に燃え広がることはなく、死者負傷者を出しながらも積んでいた燃料に対して被害は少なく済んだ。


 死者、阿部慎太郎、八神翔、神無灯、月城麗華、四名。


 負傷者、意識不明の重体、佐藤直樹、鈴木大輔、二名。


 負傷者、重傷、成人男性二名、成人女性五名。


 負傷者、軽傷、成人男性一名、成人女性二名、こども七名。


 居眠りをしていたトラック運転者は極刑が妥当ではとメディアと世間が加熱し、ようやくそのほとぼりが冷めてきて、裁判がようやく始まろうかとする頃。


 事故発生から約二週間後。


 意識不明の重体だった佐藤直樹、鈴木大輔が意識を取り戻した。



 Φ



 右目から涙が流れた。それに気が付いた直樹は、ふと意識を浮上させた。


 左目から涙が流れた。それに気が付いた大輔は、ふと意識を浮上させた。


 アルコールに混じった自分の匂いが鼻の奥をくすぐる。口に何かが巻かれている感触を感じ、それが耳にまで繋がっている。腕は全く動かない。足も同様だ。音は全てがぼやけているが、ピコンピコンと一定のリズムを刻む音だけが鼓膜を叩く。


 瞼が重い。二人はそう思った。からだが重くて、心もだるい。このまま眠ってしまいたくなる。けれど、慣れた・・・二人はその心を無意識に叱咤し、無理やり瞼を開けた。体を起こすことはできなかった。


「「ぃ……っぁなぁ……ぁい……ぁ」」


 長らく開いていなかったその口は開かなかった。引っ付いて離れない唇の隙間からかすかに息が漏れただけだった。


 それでも二人は確かな視界でそれを見た。真っ白な天井。無機質で冷たく優しさすら感じない天井。見覚えはなく、けれどどこかで見たようなそんな天井。


 視界を動かそうとする。動かない。動かない。何度やっても動かないし、顔も動かない。


 固まっているのか。幽体離脱なのか、臨死体験なのか、朦朧とした意識の中そんな考えが脳裏を過りながら、心の奥底に眠る意志がそれを否定する。強烈で過酷だった経験が、それを否定する!


 瞬間、二人は飛び上がった!


 ブチブチと体に刺さっていたり張り付いていたりしたものが千切れ、痛みが走る。甲高い警戒音が鳴り響き、それが鼓膜を叩き、意識を朦朧とさせる。


 けれど直樹は閉じていた右目を。


 けれど大輔は閉じていた左目を。


 開いた。


 そこには翡翠の星々が浮かんでいて、この世ならざる瞳が世界を射貫いた。


 そして口と鼻を覆っていたマスクを無理やり取り外し、二人は口を開いた。激痛が走るくらい息を吸い込み、その痛みを怒りに変えて。


「「あんのぉ、くそ女神ぃぃっ!」」


 叫んだ。


 そして二人はベッドに倒れ、再び意識を失った。


 早朝に全く別々の病室から同時に響いたその叫び声は、されど誰も耳にすることなく、それでもけたたましく鳴り響く警告音アラームを多くの看護師と医者が聞いた。


 それが現世へ蘇った、否、帰ってきた二人の最初の叫び声だった。


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