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第47話 バカじゃねぇんだ

試合開始直後、ミシェラは即座に攻め上がった。

激闘祭に参加する同世代たちが相手であれば、基本的に舐めプなど出来るわけがない。


ただ……ミシェラの中で、同じ二次職が魔術師であるエステルと比べて、フルーラの方が評価が上だった。


「っ!!! 以前と比べて、更に腕が、上がりましたわね!!!」


「それはこちらのセリフ、ですね!!」


魔術師であるフルーラの得物は魔法を補助する杖。

基本的に魔力操作の補助、発動する魔法の威力や効果の増大が主な役割。


それ以外の役割は殆どないのだが……フルーラは魔術師が覚えるスキルの中でも珍しいスキル、杖技を会得している。


ミシェラのスタートダッシュは思い切りの良いものだったが、フルーラの魔法が完成するまでに放った斬撃は……全て頑丈な杖によって弾かれ、完成した魔法を避ける為に退避という選択を選ばされた。


(本当に、厄介な防御技術ですわね!!)


腕が上がったと口にしたのは相手の動揺を誘う為のものではなく、実体験した感想。


小さな切傷ぐらいは与えられるかと考えていたミシェラだが、結局はダメージを与えられず、距離を取らされてしまった。


(それに……やはり、水は面倒ですわ)


激闘祭に使用されるリングはただのリングではなく、魔力を消費することでひび割れなどを修復する機能を備えているが……水の吸収機能などは含まれていない。


「どうしました。逃げてるだけですか?」


「安心、しなさい!!!」


リングが濡れれば濡れるほど、高速で動きながら戦闘を行うミシェラが不利になる。


以前、この内容に関して期待せずにイシュドに尋ねたところ「バカじゃねぇんだから、それぐらい自分で考えてみろ、クソデカパイ」と細かく聞けばやや戦闘力やセンスを認めてくれていると取れるが……最後の言葉が起爆剤となり、怒りが爆発。


結局期待していなかった通り、それらしいヒントすら得られなかった。


「ふッ!!!!!」


ある一定のラインを越えなければ、風の斬撃刃は水の攻撃魔法を切り裂く。


「はッ!!!!」


「アイスウォール!」


「っ!?」


水弾、水槍の嵐を掻い潜って近づいたと思えば、氷の壁が展開されて阻まれた。


「くっ!!」


フルーラの体を全て隠す程の氷壁であり、全てを切断出来なかったミシェラは即座にその場から離脱を選択。


「ッ……やるじゃ、ありませんの」


「今のは完全に当ったと思ったのですが……ふふ、流石ミシェラさんですね」


アイスウォールを展開後、即座にその場から離れたのはフルーラも同じ。

後方に下がったフルーラはミシェラの視界から自分が見えないタイミングを狙って水槍を放った。


牽制ではなく完全に当てるつもりだったミシェラの感知力が下がった数瞬を狙った水槍は試合が始まってから初のクリーンヒット……かと思われたが、咄嗟の判断で風の魔力を集中的に纏うことで、なんとか手痛いダメージを抑えることに成功した。



(ふ~~ん。左右ではなくちゃんと後方に下がったか……その為にわざわざ必要最低限よりも大きくしたのか。接近された時の杖技といい、デカパイが一回戦で戦った魔法使いより本当の意味で総合的に上か?)


静かにミシェラとフルーラの戦闘を観察するイシュド。


(デカパイの動きも別に悪くねぇけど、あっちのデカパイが水と氷魔法が使えるってなると……クソデカパイの方が不利かもな~~~)


不利な戦況になった時の解決方法を「自分で考えれるだろ」と一蹴したのはイシュドだが、全く悪びれる様子はない。


(つっても、何だかんだでどうにかするだろうな……バカじゃねぇんだし)


いつか伝えた言葉を心の中で呟き、変わらず静かな表情でデカパイ対決を眺めるイシュドだった。



(っ!! 杖技の腕前だけではなく、この読み…………フィリップとは違う類のものでしょうか!!??)


動きを全て読まれ、まるでフルーラの掌の上……とまでは言わないが、それでも要所要所、決定機をつくれるといったタイミングで上手く妨害を入れられ、中々攻めきれないミシェラ。


フルーラに全くダメージを与えていない訳ではないが、どれも浅い切傷程度に留まっている。


フィリップというクソ失礼野郎を斬り殺す前に、負けるかもしれないという不安が脳裏に過る。


だが、決して外から見た通り、比較的フルーラ有利に試合が進んでいるとは言い難かった。


(本当に、良く動きますね!!! もう、少し、隙が生まれると思うの、ですが!!!)


試合前と同じニコニコとした表情を保ち続けるフルーラだが……脳が焼き切れる痛みを感じていた。


フルーラは天性の直感、センスでミシェラの決定機に繋がる動きを潰している訳ではなく、多数存在するこれからミシェラが取る動き……戦況の変化から最善の一手を導き出す。


これまでの経験から、ではなく……あくまで戦場、この実践の場から眼に入る情報を元に読んでいる。

プロ棋士などの思考を纏め、越える直感の一手とは違う。


話を聞いただけの者たちが想像するよりも、百倍頭が痛くなる。

このままでは脳がオーバーヒートするかもしれない。


そう思ったとしても……ニコニコとした表情とは裏腹に、負けたくないという戦闘者として当然の闘志を持っている。


加えて……アイスウォールを壁にして一応水槍を当てられた時と同じく、クリーンヒットせずともいくつかの攻撃をミシェラに当てることに成功していた。


(そろそろ、ですわね)


良い感じにリングが濡れてきた。

魔力はまだ十分にある。

仕留める準備は……整った。


「アイスバレット!!!!!」


氷魔法のスキルレベル一で使用出来る攻撃魔法、アイスバレット。

氷の弾丸は四十に迫る数が一斉放出された。


その数には多少驚かされるものの、アイスバレット一発一発の威力はそう高くはない。

双剣で弾くことができ……なにより、氷の弾幕は主に上半身に当たる位置から放たれていた。


軌道も全て直線であり、掻い潜って近づけば、一気にチャンス到来。

今度はアイスウォールをどうにかする策も用意していた。


速攻で距離を詰める。

そう決めた膝を下ろし、構えた瞬間……体と心は最高のイメージよりも直感を優先した。

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