(全く……なんなんですの、あの男は!!! 揃いも揃って……平民であるガルフの方がまだ紳士ですわ!!!!!)
ぷりぷりと怒りながらリングへ向かうミシェラ。
適当な拍手、いきなり自分に向かって腐っていると発言……本当に貴族としての教育を受けてきたのですか!!!!! と怒鳴りたいところだが、まずイシュドがそれらしい教育を受けていないことは明白。
本人も初対面の時に、デートなどの際に紳士的な振る舞いなんて出来るわけねぇだろ、的な発言をしていた。
フィリップに関しては……公爵家の令息ということもあって、それ相応の教育を受けてきた。
しかし、ある時からグレた……と言うのは少々大袈裟だが、その辺りに関してどうでも良くなったフィリップは令嬢に対する接し方などに関して……教育を受けた過去がどこかにいってしまったのかと疑いたくなる状態へと変化。
とはいえ、二人は例外中の例外。
イシュドの事をクソ蛮族~~、野蛮な野人~~~、なんて陰でこそこそ陰口を叩いている連中であっても、ミシェラを前にすれば……必死で気に入られようと、エスコートしようと動く。
(……そうですわ。イシュドはともかく、フィリップであれば……このままお互いに勝ち上がれば、準決勝で合う。その時に、絶対に斬り潰しますわ!!!!)
この二回戦の相手に勝利し、三回戦目の相手にも勝利すれば……四回戦目でフィリップとぶつかる。
準決勝でぶつかるには、そもそもフィリップが四回戦目まで勝ち上がってこなければならない。
それが解らないおバカなみしぇらではない。
本人は仮に自覚したとしても認めようとはしないが、これまで共に訓練をしてきたからこそ……よほどの相手とぶつからない限り、当然の様に上がってくると勝手に決めつけていた。
「…………」
「あら、顔が怖いですよ、ミシェラさん」
リングの上に上がると、対戦相手であるライザード学園のフルーラ・ストーレがニコニコと笑いながら眉間に皺が寄っている顔を指摘。
「失礼。ちょっとイライラが積み重なっていたので」
隠したりごまかしたりするのが面倒になったのか、ミシェラは自分がイライラしていることを全く隠さなかった。
その反応が珍しかったのか、フルーラのニコニコ顔に戸惑いが生まれた。
「えっと……最近、随分と大変な日々を送っていらっしゃる……ということでしょうか?」
「えぇ、そうですわね。非常に腹立たしい事ですが、その通りですわ」
目線の先には……その元凶が先程と変わらず、適当な顔をしながら二人を見ていた。
(ミシェラの万乳引力も超やべぇけど、あっちのライザード学園の女子生徒の万乳引力も……決して負けてねぇな)
正確には適当な顔でカモフラージュし、歳頃の男らしく、二つ……正確には四つの巨星に意識が集中していた。
「もしや……ミシェラさん、最近関わる様になった殿方を気になっているのですか?」
「………………は?」
ミシェラは本気で首を傾げた。
意味が解らない……再度フルーラの言葉を思い浮かべ、どういう意味なのか考えるが……やはり理解出来ない。
「意味が解りませんわ。何故、そう思うのですか?」
「最近、ミシェラさんが珍しく殿方たちと交流していると耳にしたので、もしやこう
……そこで恋心などが芽生えたのかと」
「………………どう考えてもあり得ませんわ」
斬り殺しますわよ? という言葉をなんとか口から出すことなく、ぐっと飲み込むことに成功。
辺境の蛮族……というイメージは完全に消えていた。
蛮族という言葉程度で表せられる強さではない。
荒々しくも洗練された凶悪な得物。
ただ突っ込むだけが取り柄ということはなく、口撃の腕も並ではない。
だが、却下である。
どう考えても……一晩、一週間、一か月……一年、どれほど悩んでももしかしたら、という気すら起きないと断言出来る。
ちゃらんぽらんな公爵家の令息。
血統、容姿……悔しいながらも実力。
この三点に関しては合格ラインに達している。
フィリップが幼い頃から性格が変わっていなければ……数少ない、意識する令息の一人になっていたかもしれない。
しかし……今のフィリップは、絶対にあり得ない。
何かが原因で変わってしまい……根っこの部分は変っていない?
だとしてもと思う部分はあるが、ミシェラから見れば、完全に根っこの部分が変わってしまっている。
故に、今後何がどのタイミングで起ころうとも、フィリップをそういった対象として捉えることはあり得ない。
では最後の一人……ガルフはどうなのか?
多くの平民の顔を覚えてはいないが、決して悪くはない。
実力に関しては、共に訓練しているからこそ、薄々感じていた……あれはいずれ化けると。
ただ…………どう頑張ったとしても、平民は平民。
世の中に奇跡という現象は確かに存在するが、それでもガルフは平民でミシェラは侯爵家の令嬢。
身分的に絶対に繋がることはない。
では隠れて恋心を抱いているのか?
そういう訳でもない。
最近でこそ普通に会話をすることはあるが、ガルフにとってミシェラはやはり侯爵家の令嬢。
今では友人と呼べる関係なのかもしれないが、そこの一線はハッキリしながら交流している。
ミシェラとしてはそれが丁度良い距離感だと思っており、そこから先を望む気持ちは全くなかった。
「あら、本当ですの? ミシェラさんが遂に、と思いましたのに」
「まだ良い出会いに巡り合えていない。ただそれだけですわ」
これ以上話すつもりはないと、離れて開始線に戻るミシェラ。
「あらあら、私はもう少し喋りたかったのですけど、そうですね……試合が終わって、激闘祭が終わってからゆっくりと聞かせてもらいましょう」
「言っておきますけど、全く話すことはありませんわよ」
フルーラが何を期待しているのか、何となく解る。
だからこそ、ミシェラはつい試合開始前に全力の殺気を零しそうになった。
ガルフを除き、イシュド……フィリップ、この二人と本格的に関わり始めて刻まれた記憶など……どれも苦いものしかない。
「お喋りはもう良いかい? それでは、死に関わる攻撃は避けるように。構えて…………始め!!!!!!」