「がっ!!!! ッ……はぁ、はぁ……何故」
フィリップ対オーネスの試合が始まってから約五分後、戦況は……フィリップ有利に傾いていた。
(どうしてだ。フィリップのスピード、反応速度が優れているのは解っている。しかし……だからといって、ここまで)
試合が始まってから……危ない攻撃はあれど、フィリップは一度もオーネスの斬撃を食らっておらず、ガードもしていない。
「なんで俺に攻撃が全く当たらねぇのか、不思議そうな顔してるな」
「ッ、お前のスピードや反応速度が俺の予想を上回っていた……のであろう」
「いや、違うな」
「っ!!!!????」
自分の考えが間違っていると、あっさりと現在戦っている本人から否定された。
「くっ!!! では!! それなら!!!! 何が、理由で、ここまでの差がっ!!!!!!!」
自分で言っておいて少々悲しくなるが、それでも自分の攻撃が全く当たっていない
という事実を認められないオーネスではなかった。
「そいつは、なぁ……さぁ、なんだろうな??」
「くっ!!!!! その笑みは、相変わらず、だな!!!!!!」
人を小バカにする様な笑み。
一部の令嬢たちからはある意味魅力的だと評される笑み。
ただ、何故今その笑みを浮かべたのか……少し冷静になれば直ぐに解る。
今……フィリップはオーネスと戦っている。
学園内で模擬戦を行っているのではなく、激闘祭という大舞台でプライドやこれまでの経験などもろもろを背負って戦っている。
基本的に気だるげでちゃらんぽらんなフィリップにそこまで覚悟を背負って大舞台に立っているのかは不明だが……試合中に塩を送るほど馬鹿ではなかった。
加えるなら、何故自分の攻撃は当たり、オーネスの攻撃が当たるどころかガードすらせず躱せているのか……理由が解っていても、超余裕で対応出来ているわけではない。
(高笑いできるほど、余裕ではねぇけど、なっ!!!)
大剣を扱うパワータイプの男が、読みと技術を覚えた。
それは確かに恐ろしい。
重騎士という職業の性質上、そういった面のステータスや技術の向上は、レベルアップやスキルでどうにかするのは難しい。
オーネス自身が厳しい経験を積み重ねていかなければ、決して得られない一つの武器。
戦い……実戦に置いて非常に重要な武器ではあるが、フィリップからすれば……今のオーネスは逆に対応しやすい相手となっていた。
パワーというのは単純明快な武器である。
強ければ強い程相手に与えるダメージが大きくなり、強さの程によってはガードを壊してダメージを与えることもできる。
オーネスが己のパワーを信じ、大斬……大斬刃の連撃でごり押されたら、それはそれでフィリップにとって冷や汗が止まらない戦況となっていた。
表面上は戦いを有利に進められていても、ガードしようにもぶっ潰されて手痛いダメージを食らってしまう可能性がある。
モロに食らえば、その一撃で勝負が決してまってもおかしくない。
だが……読みとカウンターを覚えてしまった今のオーネスには、振るう一撃一撃に全力の戦意が乗っていなかった。
自分の全力の攻撃に対して相手がカウンターを行ってきたらどう対応するか、回避という選択肢を取ってきた場合、どのように追撃するか……そういった思考が眼に宿っていた。
それはそれで強力なのは間違いない。
並みの学生であれば、為す術なく倒されるだろう。
しかしフィリップはそこら辺の学生とは違い、本気の訓練を長らく行っていなかったとはいえ……一級品の読みが備わっており、イシュドたちとの訓練によって既にモンスターとの実戦で活用できる域に達している。
(つっても、体力は無限じゃないんだ。そろそろ終わらせねぇとな)
今のオーネスはフィリップから見て……酷く中途半端だった。
「ぬっ!!?? がっ!!!???」
試合開始から一度も攻撃が当たらない。
その理由を対戦相手であるフィリップが知っている……試合の主導権を完全に握られていると感じたオーネスは焦り、自ら近づいて大技である轟破一閃を放った。
大剣技のスキルレベル四で習得出来る技であり、高等部の一年生で習得出来る者はまずいない。
絶対強者が放つ轟破一閃は山をも切り裂く攻撃だと言われており……まだそのレベルに及ばずとも、オーネスの一撃は当たればイシュドであっても顔をしかめるダメージが入る。
だが、フィリップはあっさりと低空姿勢で駆け出し、轟破一閃を回避。
「悪くはねぇ……悪くはなかったぜ、オーネス。ただ、俺にとっては中途半端だった」
轟破一閃を躱されたオーネスはまだ諦めておらず、大剣を捨て……轟破一閃の流れを利用しながら体を捻り、裏拳を放った。
「ッ…………まだまだ甘かった。そういう事だな」
しかしフィリップはオーネスが轟破一閃を放った後であっても、そこから何かをしてくると予想し……裏拳を回避すると同時に足を掛けて転倒させ……心臓の位置に刃を添えた。
「そこまで!! 勝負あり!!! 勝者、フィリップ・ゲルギオス!!!!!」
審判の勝利宣言によって、再び会場が揺れていると錯覚するほどの完成と拍手が巻き起こる。
「こういう事を言うのはあまり柄じゃねぇけど……オーネス。今はまだ、お前らしい動きだけを追求した方が良いんじゃないか」
「俺らしい……動きを」
「じゃあな」
らしくない真似をしたと思いながら、フィリップは変わらない足取りでリングから降りて行った。
「……ふっ。本当にお前らしくないな、フィリップ」
本人の言う通りらしくない真似だと思いながらも、オーネスの顔には小さな笑みが浮かんでいた。
因みに、イシュドは試合後にフィリップだけに賞賛を送るのではなく、両者に盛大な拍手を送っていた。
「たでぇ~ま~~」
「おかえり、フィリップ。無傷の勝利、みたいだね」
「なんとかな~~………………」
戻ってくるなり、ジッとミシェラを見始めたフィリップ。
「っ、なんなのですか? 私から労いの言葉でも欲しいのですか?」
「そんな訳ねぇだろ…………まっ、あれか。腐ってもなんとやらってことか」
「ッ!!!??? い、いきなり人を見て腐ってるとはどういう意味ですの!!!!!!!」
大変失礼な言い方ではあるが、やはりフィリップとしてはこのキャンキャン吠える令嬢のどこが良いのかさっぱり解らなかった。