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第39話 確かに聞こえた

(あの男……絶対にガルフとフィリップの時は、喉が千切れるほど声援を、送っていたでしょうに…………まっ、別に良いです、わ!!)


既にミシェラとエステルの試合が始まってから一分半が経過


無意識に探していたからか、途中で観客席にいるイシュドの姿を発見。


イシュドはガルフやフィリップの時とは違い、ただ冷静に……人によっては少し冷たい眼でミシェラとエステルの試合を観戦していた。


その瞳は……「適当とはいえ、仮にも俺と一緒に訓練してたんだ。まさか、初戦で無様に負けるなんてクソみたいな真似はしねぇよな?」と言いたげな色をしていた。


「ちっ!!! いつまで、そうやってるつもりかしら!!!!!」


「そうです、わね……あなたの攻撃が、私にクリティカルヒット、するまででしょうか?」


「っ!!!!! 嘗めるんじゃ、ないわよ!!!!!!」


試合が始まってから数分が経過してるが、フィリップ対ジェスタの試合と同じく、これまでエステルが放った攻撃魔法はどれ一つミシェラにヒットしていない。


放たれる攻撃を全て回避、もしくは風を纏った斬撃刃で切断。

回避だけで全てを対応することは不可能ではあるが……やはり、模擬戦の時にイシュドが連続で放ち続ける攻撃の嵐と比べれば、そよ風に等しい。


以前の模擬戦で、ミシェラはダメもとでイシュドに遠距離攻撃をメインで戦って欲しいと頼んだ。

すると……機嫌が良かったのか、イシュドはミシェラの頼みを承諾。


注文通り、遠距離攻撃をメインで戦い始めた。

だが、それは遠距離攻撃がメイン……と呼ぶには、あまりにも苛烈だった。


常に斬撃刃、刺突の嵐が飛んでくる。

加えてイシュドは基本的に狂戦士であるにも関わらず、属性魔法を使用する。


「あなた、ちょっとおかしいのではないですの!!!!!」


と、斬撃刃と刺突の嵐に加えて属性魔法の攻撃魔法まで平然とした表情で放ち続けるイシュドに対して……過去一かもしれないツッコミを入れた。


もう、完全に為す術もなくボロクソにやられた。

ミシェラもその試合に勝てるとは思っていなかったが、模擬戦開始から終了までずっと防戦を強いられるとは思っていなかった。


(こうしてエステルさんと戦ってみると……やはりあの鬼がどれだけ変態だったのかが良く解りますわね)


あの悪魔の嵐と比べれば、天使の吐息に等しいと思いながら、ミシェラは一歩ずつ……ファイヤーボールやストーンリッパー、ランスなどを躱し、斬り刻みながら距離を縮めていく。


「っ!! はっ!!!!」


火槍……ファイヤーランスを一度に五つも展開し、後方に下がりながらミシェラに向けて放たれた。


魔法を覚えたての冒険者は、どうしても魔法を発動することに集中力を使用しなければならなく、動きながら魔法を発動することが出来ない。


そして魔法の発動に慣れてきたとしても、ランクが上の魔法を発動するとなると……更に高い集中力が必要になる。

故に、魔法使いたちの憧れ……目標の一つである移動砲台になるには、並々ならぬ努力と経験が必要になる。


中堅レベルの威力を持つファイヤーランスを同時に五つ展開し、更に下がりながら発動したエステルはまだ移動速度は遅いものの、確実に移動砲台への道へ歩を進めていた。


しかし、ミシェラはその火槍全てを切断。


火槍は微妙に発射タイミングがズレており、良い意味で嫌なタイミング……位置に向けて放たれていた。

撃墜するには完全に足を止める必要があるのだが、セオリーから外れた動きで双剣を振るい……火槍は火の粉となり散った。


「ふん、やるじゃん」


幻聴かもしれない。

しかし、ニヤニヤとムカつく笑みを浮かべながらも、自分の動きを褒めるイシュドの声が……確かに聞こえた。


「嘗めるなって、言ったでしょ!!!!!!!」


五つのファイヤーランスは全て囮。

エステルは大量の魔力を消費し、火魔法のスキルレベル四まで上げることによって発動出来るファイヤージャベリンを展開。


絶妙な距離で放たれたファイヤージャベリンに対し、ミシェラは回避という選択を取れないと直ぐに悟る……ことはなかった。


そもそも、ミシェラはエステルの最強攻撃であろうファイヤージャベリンを回避するつもりはない。

正々堂々と……真正面から打ち破る。


その心意気を露わすかのように、双剣に纏われる風が膨れ上がる。


「乱れ裂き!!!!!」


迫るファイヤージャベリンに対し、ミシェラが放った技は双剣技のスキルレベル二で習得出来る技、乱れ裂き。

複数の斬撃を高速で行う技であり……スキルレベルだけを見るとファイヤージャベリンの方が上ではあるが、それだけで勝負は決まらない。



身体能力、双剣技の力によって見事エステルの切り札を撃破。

エステルは既にその場から移動はしていたが、その表情には明らかに焦りが浮かんでいた。


(ふ、ふざけるんじゃないわよ!!!!)


ミシェラとて、軽く肌が焼けた。

しかし、結局のところそれらのダメージはこの試合において全く致命傷にはならない。


消費した魔力に対して、与えたダメージが釣り合ってなさすぎる。


「シッ!!!」


「なっ、い゛ッ!!!???」


「ッ!!!!!!!」


このまま押し切る。


そう判断したミシェラの行動はスムーズに進む。

魔法職にとって、杖は頼れる相棒。


双剣士に双剣が相棒であるのと同じ……それを理解し、エステルが持つ杖を重点的に狙い、風の斬撃を飛ばし続ける。


本気中のガチの斬撃刃ではないため、魔力を防壁の様に展開すれば防げるものの……今のミシェラとエステルでは残りのガソリンの量が違い過ぎた。


「これで終わりですわ」


「ッ…………参りました」


障壁は砕かれ、杖を持っていた腕にダメージを負い……更に心臓の位置に剣先を突き付けられた。

どう頑張っても言い訳の言葉が浮かばない、完全な敗北である。


「そこまで!!! 勝者、ミシェラ・マクセラン!!!!!」


審判の勝利宣言が行われ、会場に地震が起きたのかと錯覚するほど揺れ、称賛の声と拍手を両者に送る。


(ッ、中等部の頃は……ここまで、差がなかったはずなのに!!!!)


ミシェラの実力は認めていた。


それでも自分の実力に自信を持っているエステルは、ミシェラが完全に自分よりも格上の存在だとは思っていなかったが……今日、この試合で自分は何が出来たのかと自問自答するが……答えは殆ど何も出来なかった、である。


すぐ前にあった筈の背中が、手を伸ばしても届かない場所に行ってしまった。

自分の現在地を理解させられたエステルは……己の不甲斐なさに激しい怒りを抱いた。

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