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第37話 うん、しょぼい

「おいおい、どうした? もう終わりか? 大層な口叩いてた割には、あんまり鍛えてねぇのか?」


「っ!! あなたこそ、いつまで逃げ回っているのですか!!!!!」


フィリップとジェスタの戦闘が始まってから数分が経過していた。


戦況は……二対八でジェスタの方が果敢に攻めてはいるが、そのどれもがフィリップに掠りもしない。

紙一重で躱した刺突、斬撃もあるにはあるが、結果的に一度も掠らずに戦いが進んでいるのは間違いない。


ジェスタは逃げてばかりとフィリップを罵るが、フィリップも全ての動作を回避に費やしている訳ではなく、攻撃できるタイミングには攻撃を行っている。


その攻撃は確かにフィリップの戦意が全て乗せられた一撃とは言えないものだが……避けられなければ、決して小さくないダメージを負ってしまうのは必至。


故に、観客の中にはフィリップの消極的な姿勢をそこまで責める者はいなかった。


「お前の攻撃が、当たらねぇだけだろ。つ~~かよぉ~~~……やっぱあれだな。その得物、レイピアの扱いに相当な自信があるのかは知らねぇけど、こうやって対峙してよ~~~~く解ったわ」


「勝利宣言するには早いですよ」


「誰もそんな事言ってねぇだろ。ただ、お前の腕はお前が蛮族ってバカにしてる奴よりもしょぼいなと思ってな」


「……………………は?」


ジェスタの目が光が消えた。


「今……なんと言いましたか」


「んだよ、耳にゴミが詰まる歳じゃねぇだろ。面倒だから二度も言わねぇよ」


「…………取り消してもらいましょうか」


ジェスタが振るうレイピアはただのレイピアではなく、いわゆる魔剣の類に当てはまる物。


氷属性の効果が付与されており、刃にはレイピアの軽さを殺さない程度に氷が纏われている。

魔剣の効果によって多少ではあるがジェスタの身体能力も強化されているのだが……やはりどの攻撃も当たらない。


(ぐっ!!! 何故……どうして、どうしてここまで私の攻撃が!!!)


時おりただ刺突を放つだけではなく、刃に纏った氷を発射して虚を突こうとするも、そういった攻撃も全て対応されてしまっている。


(まぁ、こいつも決して弱くはないんだろうけど……って考えると、やっぱりあの狂戦士が変態過ぎるんだろうな)


変態過ぎる狂戦士とは、勿論イシュドのこと。


イシュドは現在三次職、変革の狂戦士という職業に就いていながら、ミシェラに良い格好を見せようと賭け試合を申し込んで来た二年生の実力者を同じ細剣を使用して圧倒した。


そんなイシュドはガルフとフィリップの為にと、森の中で模擬戦を行う際に様々な武器を使って戦った。

一応……ミシェラとの模擬戦でも好んで使用する得物以外も使用して戦ったが、ミシェラからすればやや戦い方が適当だった気がしなくもない。


といった具合で、イシュドと共に行動するようになってから一応安全? にモンスターと戦えてレベルアップ出来るだけではなく、様々な武器に対して自分なりの対応が行えるようになった。


(レイピアどころか、槍や双剣も扱えるし……思い出しても無茶苦茶だよな~~)


さすが自分が興味を持った友人だと思い、薄っすらと笑みがこぼれる。


「っ!!! なにを、笑っているのですか!!!!」


「いや、やっぱりお前はさっきみたいにイシュドの奴を蛮族って呼べるほど、強くもなく、当然偉くもねぇよな~って、思っただけだ」


「っ!!!???」


そこからは早かった。

約五分ほどジェスタと戦い続けていたフィリップは完全に動きにリズムを見切り、刺突が放たれるタイミングを完全に把握し、急接近。


「ほれ、終わりだ」


伸ばした腕を引き戻す前にがっしりと掴み、得物である短剣の剣先をジェスタの喉元に突き付けた。


「そこまで! 勝負あり!! 勝者、フィリップ・ゲルギオス!!!!」


「なっ!!!!! …………くっ!!!!!!」


ただカウンターとして短剣の剣先を喉元に突き付けるだけではなく、伸びた腕を戻さないように掴んだ。


その完璧な形を観ていた冒険者が大きな拍手を送ったことで、一気に会場を埋め尽くす拍手が鳴り響く。


「っしゃ!!!!!!!! ナイスカウンターだ、フィリップ!!!! そのままぶっ刺しても良かったんだぜ!!!!!!!」


(ば~~か。それじゃ反則負けになっちまうだろ)


歓声の中でも良く耳に入る友人の言葉にツッコみを入れながら、フィリップは来る時と変わらずゆったりとした足取りでリングから降りて控室へと向かった。


(……まっ、イシュドに出会ってなかったら、それなりに苦戦してたかもな)


再度思う。

ジェスタ・ノルアルガは決して弱くはなかった。


サンバル学園のフェルノ・サンターキと同じで、この激闘祭に参加するだけの実力は有している。


ただ…………確かに、貴族の出身の者であることを考えれば、その態度や言動などは少々野蛮かもしれない。

先程の「そのままぶっ刺しても良かったんだぜ!!!!」など、チンピラが言う様な言葉である。


しかし、実力……実戦で同じ人、盗賊、モンスター……それらに対する戦闘力に関しては明らかにずば抜けている。


同年代の中では、という話ではない。

大人を含めても並ではない戦闘力と……異質な何かを有している。


(あの真面目君も、イシュドと実際に話してみれば、見る眼が変わるかもな…………まっ、その前にあの真面目君が喧嘩を売ってボコボコにされる方が先か)


「何ニヤニヤしてるのですか。もしや、わざと負けてきたのではないでしょうね」


「さすがに面倒に感じてきても、そんな真似はしねぇっての。ちゃんと勝ってきたに決まってんだろ」


待機室に入ると、いの一番にミシェラが称賛の言葉……ではなく、まさかの自滅の疑いを掛けた。


「そう、それは良かったですわ」


「おめでとう、フィリップ!!!!」


「おぅ。ありがとな、ガルフ」


お前もガルフぐらい素直に褒め言葉を出せねぇのかよ……と嫌味を口にしようと思ったフィリップ。


(……いや、それはそれで気持ち悪ぃか)


自分の勝利を素直に褒める、称賛するミシェラをイメージしたフィリップは……それはそれでミシェラらしくなく、少々気持ち悪かった。


「っ……フィリップ、今あなた私に対して失礼な事を考えませんでした」


「い~~や。特に何にも考えてねぇぜ」


女の勘は恐ろしいと思いながらも、ポーカーフェイスが上手いフィリップはあっさりと追求を躱した。

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