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第34話 ハッキリと届いた

「ガルフ選手、入場してください」


「は、はい!!」


ついにガルフの番が回って来た。


「ガルフ、落ち着いてやりゃ問題ねぇ筈だ。一発ぶちかましてやれ」


「あなたは紛れもなくロベルト学園の代表の一人ですわ。何も臆することはありません」


「……お前なぁ~~~~」


「なんですの?」


ミシェラは本当に純粋な気持ちで応援しただけだが……フィリップからはプレッシャーを与えている様にしか思えなかった。


「…………」


一番奥で佇む三年生にして生徒会長、クリスティール・アルバレシアは……声を掛けなかった。

ただ、真っすぐガルフの顔を見てほほ笑んだ。


(あなたの努力は知っています)


ミシェラと同じく、何も臆する必要はないと伝えられ、ガルフの心に再び気合が注入された。


(大丈夫……大丈夫だ。僕は、強くなった。それに、しっかりと勝ってきた、勝利を得てきたんだ)


激闘祭に参加する為には、校内で行われる同級生とのバトルで勝利を収めなければならない。

校内戦でぶつかってきた相手は、全員がガルフより格下の相手、ではなかった。


それでもガルフは勝利を重ね続け、結果全勝。

紛れもなく、自信に繋がる結果である。


「気を付けて行ってらっしゃいませ」


「はい」


案内人の見送りに応え、ゆっくり……一歩ずつ前に歩を進める。


「っ!!!!!!??????」


目に飛び込んで来た光景は……万に迫るのではないかと思う数の観客たち。

その観客たちから向けられる言葉。


校内戦の時とは文字通り向けられる視線の数が桁外れ。

固まったガルフの気持ちを砕き、真っ白にさせるには十分な衝撃だった。


(こいつが噂の平民野郎か……んだよ、超ガチガチじゃねぇか。よくこんなクソが出てこれたな? ロベルト学園の内部進学生の方が絶対につえぇだろ……まっ、俺としては楽に勝って第二試合に上がれてラッキーだけどな!!)


ガルフの第一試合の相手はサンバル学園の生徒、フェルノ・サンタ―キ。


職業は剣士から騎士と、第二職業に既に就いている。

ロングソードをメインに扱い……ニヤニヤと平民であるガルフをバカにする様な笑みを浮かべてはいるが、そんな態度を取っていても学園の代表の一人に選ばれた生徒。


弱い……訳がない。


(か……勝つんだ、勝たなきゃ……勝たな、きゃ)


呼吸が浅くなる。

いつもどおり歩けている解らない。


相手は普段通りの表情なのか、それとも自分を笑っているのか解らない。


頭が…………真っ白になりかけた時、とある声が……万に迫る観客たちの中でも、一際大声量の応援が耳に入って来た。


「ガルフーーーーーーーーッ!!!! んなアホ面した奴、ボコボコにしちまえぇえええええええええッ!!!!!!!」


「い、イシュド…………は、はは」


声が耳に入り、直ぐに友人がどこから声援を送ってくれているのか解った。


良く耳を済ませれば、自分を応援している人はあまりいなかった。


激闘祭に参加出来なかった貴族の生徒たちからの罵声が凄い……なのに、そんな中でも……友人の声援はその他大勢の罵声をかき消す程大きく、ガルフの胸を昂らせる。


「いつも通り戦れれば、ぶっ倒せる!!!!! 相手が貴族のガキだからって、遠慮はいらねええええ!!! 全力でぶちのめしちまえ!!!!!!!!」


お前がそれを言っても良いのか? と、周囲の同じく学園の生徒たちは心の中でツッコんだ。


激闘祭のチケットを確保できた平民、冒険者や兵士に騎士や商人たちも……いったいこいつは何なんなんだ? という疑問の籠った眼を向けるが……イシュドはそんな視線を一切気にせず、おそらく固まった勇気が崩れているであろう友人の為に、あらん限りの声援を送る。


「……そうだね。僕は、やれる事をやるだけだ」


「はっはっは!! 地面に頭をこすりつけるて許しを請う準備でも出来たかよ?」


「許しを請う? なんで、僕が君に?」


「ッ……殺す。生きて舞台から降りれると思うなよ、クソ平民」


「………………はぁ~~~、よくそんな態度を取りながら、自分は平民たちに崇められ、敬意を持たれて当然みたいな態度を取れるね」


「ッ!!!!!!!」


まるでイシュドが乗り移ったかのような挑発的な口調。

その煽りにフェルノが乗ってしまいそうになったところで、審判の男が一旦間に入って止める。


「二人共、まだ試合開始の合図は行っていない。それと、基本的に死に至る攻撃は禁止だ」


「運悪く、なら仕方ないですよね」


フェルノは全く悪びれる様子を見せず、うっかり……本当にうっかりなら、殺してしまっても問題にななりませんよねと尋ねる。


「はぁ……とりあえず、二人ともただ目の前の対戦相手を倒すことだけを考えて戦うように」


「へいへい」


「分かりました」


フェルノは気だるそうに、ガルフは普段通りの表情で答え、開始線へと移る。


「これより、三試合目を始める。両者、正々堂々と戦うように……それでは、始め!!!!!!!」


「うぅるぁあああああああああああッ!!!!!!!!!!」


審判の男性が試合開始の宣言を行った瞬間、フェルノが一直線に走り出し、ロングソードを大振りに振りかぶりながら接近。


(平民相手に、スキルや魔力なんて必要ねぇええええ!!!!!!)


騎士という職業に就いていながら、ロングソードを扱っている時点で自動的に剣技のスキルを使用してしまっているのだが……生憎と、頭に血が上ればそういった細かい事に頭が回るタイプではなかった。


騎士という職業に就いていながら、ロングソードを抜剣すれば……それだけで職業による補正で僅かに身体能力が向上する。


とはいえ、向上効果がそれだけであったとしても、やはり学園の一年生代表の一人に選ばれるだけの身体能力を有している。


(……本当に、緊張したり……過剰にビビる必要は、なかったね)


それでも……学園に入学してからイシュド共に過ごしてきたガルフからすれば……それは完全に自分を嘗めているのだと思える一撃だった。


「ごはっ!!!???」


左側から振り下ろされるロングソードを一手早く回避し、完全に振り下ろされるよりも早く左脚を腹に叩きこんだ。


リングから落ちるほど吹っ飛び……はしなかったものの、予想外の蹴りを食らったフェルノは全く耐える準備が出来ておらず、初っ端から手痛いカウンターを食らってしまった。


「ッ!!!???」


「本気を出さないなら、直ぐに終わらせるよ」


相手が本気を出し、その全てを飲み込んで勝利する……なんてイシュドの様な強者の思想は……今はなく、食える勝利は零さずに喰らう。

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