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第32話 バカが騒げば……

「そこまで!!! 勝者ガルフ!!!!」


「っし!!!!!」


激闘祭に参加するために行われていた試合が……全て終了。

ガルフはこれまで行われて来た試合で……やや苦しい試合があったものの、全戦全勝。


異例の結果……ではあるが、ひとまずその成績を考慮すれば、一年生のトーナメントにフラベルド学園の代表として参加出来るのはほぼ間違いない。


この状況に対し、異議を申し立てたい生徒は当然いる。

激闘祭のトーナメントに平民が出場されるなんて許されない。

選ばれても辞退するべきだ。


そう考える悪い意味で貴族思考に染まってしまったバカは一定数おり、中にはガルフと戦った生徒だけ弱かったのでは? と発言する者もいたが……それこそ馬鹿過ぎる発言である。


トーナメントに参加する為の選考試合に参加するか否かは、基本的に自由選択。

やりたくなければやらなくても構わない。

つまり、大なり小なり選考試合に参加した生徒たちは皆、自分の力に自信があって臨んでいる。


そんな彼らをバカにする様な発言をすれば……どこかしらで痛い目を見るのは当然。

ガルフに負けた生徒の中には辺境伯の令息もおり、そんな会話をしていた生徒たちがうっかり聞かれてしまった結果……裏でリンチされたなんて件も起こっていた。


「お疲れさん、ガルフ」


「ありがとう、イシュド」


「とりあえず、これで激闘祭に出るのは確定だな」


「どうかな。僕以外にも全勝してる生徒たちはいるだろうから」


「ん~~~~~…………まぁ、そこら辺を調整してる可能性はゼロじゃないだろうけど、そんなに全勝してる生徒は多くねぇし、ガルフが出るのは確定だと思うぞ」


仮にガルフが参加出来なければ、イシュドは無理矢理ねじ込む気満々である。


ちなみに、調整されている可能性がゼロではない……というイシュドの考えは当たっていた。

フラベルド学園の一年生の中では、ミシェラにフィリップ、アドレアスの三人が優勝に届く可能性を秘めている優勝候補たち。


この三人は選考試合で誰と誰を戦わせるかを考えている教員たちが、意図的にぶつけないようにしていた。

それは彼らの実家から賄賂を貰っているから……などではなく、この時点で一応の決着が着いてしまうのが勿体ないためだった。


学園内での戦いとはいえ、観客がいる以上、その結果は学園の外に広まってしまう。

彼等は中等部の時点で何度かぶつかっているため、別に構わないのでは? という意見もあるが……中等部での結果は最低でも一年ほど前のもの。


その頃からの成長度合いによっては……結果が変わっていてもおかしくない。


その結果は激闘祭トーナメントで、大勢の観客がいる前で知ってもらった方が面白い。


「後、フィリップと……ミシェラの奴が出るのも確定だろうな。後は王子様か?」


「イシュドの中で、その三人が出場するのは確定なんだね」


「学園側としても、上を狙える……もしくは優勝出来る可能性を出さないって選択肢はあり得ないだろうからな」


イシュドの考え通り、そもそも三人の出場は選考試合が開始される前から殆ど決まっていた。


ミシェラとアドレアスは元々中等部の頃から結果を残しており、フィリップに関しては珍しく中等部ではトーナメントや公式試合に参加していなかったが、その実力は教師たちから一目置かれていた。


そんな意欲ゼロなフィリップが選考試合に参加すると知った時、教師たちは何度も確認を行った。


「まっ、何度も言うけどガルフ、お前も出るんだ……緊張し過ぎてしょっぱい試合するなよ」


「うっ……が、頑張るよ」


平民のガルフにとって、激闘祭トーナメントの舞台など、完全に未知の領域。


選考試合で同級生たちに観られながら戦うという事にはそれなりに慣れたが、中等部の頃にそういった舞台に立って戦ったことがあるミシェラから、次元が違うと聞かされていた。


(そうだ…………恩を返す為にも、まず結果を残さないと)


その為には、まず激闘祭トーナメントに参加出来ないことには始まらない……というガルフの心配はあっさりと吹き飛ばされた。


「僕が……出られる、の?」


「はは! 言っただろ、ガルフは絶対に出られるって」


廊下の掲示板に、選考試合の結果を考えに考えた末に選ばれた……八人の出場者の名前が記された紙が張り出されていた。


「まぁ、そうだろうな。全戦全勝してんだし、選ばれて当然じゃね? 寧ろその戦績で選ばれない方がおかしいってもんだろ」


「フィリップの言う通りですわ。その戦績で選ばれなければ、どこかの家が学園にクレームを入れたか、賄賂渡してたでしょう」


「あの張り紙にガルフの名前があるってことは、やろうとした人がいても失敗したってこったな」


「そんな方法で我が子をトーナメントに出そうとすれば、恥をかくだけ……とはいえ、そういった未来を考えられず実行しようとした家はあったかもしれませんが」


いちいち裏でのやり取りなどを気にしてればハゲでしまうが、侯爵家の令嬢であるミシェラはある程度どの家が実は裏では……といった内部情報を把握していた。


当然、今回の激闘祭トーナメントの参加者にフラベルド学園の代表として選ばれなかった生徒の親にグレーは確実といった人物はいるものの……仮に平民ながら参加権を獲得したガルフをどうにかして辞退させる方向に動こうとすれば、確実にイシュドと……結果としてレグラ家とぶつかることとなる。


レグラ家の当主……イシュドの父であるアルバは決して馬鹿ではない。


地頭は悪くないため、領主になる少し前から小狡い戦力方法などをスポンジの様に吸収していった。

故に、そういった小狡い方法やトラッシュトークを上手く使いこなし、結果的に脳筋プレイで敵対した相手を潰すことが出来る。


(とはいえ、平民出身の生徒が参加したというのは……他の学園にも衝撃が走るでしょう)


ミシェラから見て、ガルフは特別な才能を持っているタイプではない。


初対面では、おそらく平民にしてはそれなりに強いのだろうという印象しかなかった。

しかしイシュドたちの訓練に参加するようになり、実際に初めてガルフと手合わせした時は……食われるかと思った。


イシュドと共に訓練を始めたからか、そもそも技術面などが乏しかったため、成長速度がそれなりに成熟している自分たちよりも速いのか……何はともあれ、エリートであっても決して油断出来ないライバルであるのは間違いなく、激闘祭トーナメントで波乱……と観客たちが感じる試合が起こるのも間違いなかった。

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