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第28話 二人目

「イシュド君、今よろしいですか」


「……良いっすよ」


メガネ先輩ことハスティー・パリスロンとの試合が終わった後、イシュドはきっちりと白金貨十枚を終わり、その一件は幕を閉じた。


それから数週間後、久しぶりにクリスティールがイシュドに声を掛けてきた。


「ここ最近、学園生活はどうですか?」


「いたって平和っすよ。ガルフ以外にも友達が出来たんで」


「……あの公爵家ののんびり屋さんのことですね」


「やっぱり知ってたんすね」


今でも辺境の蛮族とイシュドを下に見る学生はいるが、それはすっかり形だけのものとなっていた。

そんな中で、とある一年生の学生がイシュドとガルフに声を掛けてきた。


その学生はイシュドのぶっ飛んだところを気に入り、声を掛け……イシュドもその学生のことを割と気に入り、ガルフへの態度も悪くないという事で、最近はよく共に行動している。


「ところで、外出してる際……おかしな輩に絡まれることはありませんか?」


「なんでそんな事を…………もしかして、あのメガネ先輩との一件?」


「そうです。貴族とは、とても外面を気にする存在です。同じ細剣を使った勝負であなたにボロ負けしたとなれば、文字通りを面を汚されたと言って良いでしょう」


イシュドとハスティーの試合は学園内で大々的に行われた一戦であるため、その戦闘内容はあっという間に貴族界隈に広まり、メガネ先輩の実家であるパリスロン家の耳にも入った。


「確かに面は汚されたんだろうけど、そもそも二年生であろうと、結局は俺が勝つってのに」


「流石の自信ですね……失礼を承知で聞きますが、本当は細剣を扱うのに適した職業だったりしますか?」


「いいえ、と答えておきます。細剣に関しては、兄の動きを見様見真似でトレースして、後は実戦で必要な感覚を学んで、自身の頑丈さを利用して技術を身に付けただけっすよ」


「そうなんですね……さぁ、入ってください」


案内された場所は、以前手料理をご馳走になった生徒会室。


「邪魔しま~す」


「邪魔するなら帰ってもらおうか」


「いやだなあぁ~~、冗談じゃないっすか、インテリメガネ先輩」


「私の名前はネルス・アサームだ!! いい加減覚えてもらおうか!!!」


既に生徒会のメンバーが授業を終え、書類作業を行っていた。


(……イシュドって、やっぱりこれまで凶悪? なモンスターを何体も倒してきたから、上級生の貴族っていう超怖い存在でも遠慮なしにあんな呼び方が出来るのかな)


完全に存在感を消しながら、影の如くいつも通り付いてきているガルフ。


生徒会のメンバーの中で特にガルフを嫌う者はいないものの、ただの一生徒……平民であるガルフからすれば、緊張しないなんてあり得ない空間。


「んで、会長さん。今日は何の用ですか」


「……おそらく、これで足りるでしょう」


そう言いながら取り出した物は……白金貨。


当然、一枚ではない。


それこそ……高級料理店で大量に飲んで食べても払いきれる枚数。


「わぉ……ってことは、今夜また良い店の料理を奢ってくれるんすか?」


「そういう事です。ですので……その指輪を、貰っても良いでしょうか」


「…………会長さんにとって、あの金髪ドリルロールは、そんなに大切な妹分なんすか?」


純粋な疑問だった。


嫉妬などといった意味不明な感情は無い。

ただ……何故、そこまで必死で取り戻そうとしたのか……二人の関係を知らないイシュドは気になった。


「まだあれから数か月も経ってないし、普通に考えたら小遣いだけじゃ足りないっしょ」


「そうですね。あれから実家に手紙を送り、急用があると伝えて工面しました」


(……それは工面って言うのか?)


思わずツッコみそうになったが、インテリメガネ先輩から面倒なフォローが大きな声で飛んできそうと察知し、グッと飲み込む。


「……私を慕ってくれる令嬢は多いですが、彼女ほど私の背中を健気に追おうとする後輩はいません」


「ふ~~~~ん? まぁ、解らんくはない、かなぁ……何はともあれ、ちゃんと用意してくれたんなら、こっちも要望通り返しますよ」


そう言いながら、イシュドは懐から白金貨を二枚取り出し、クリスティールに渡した。


「その中に、もう一人分は入ってないっすよね。あいつの分は、俺が払っときますよ」


「……それは助かります」


殆ど我儘を言うことなく、家の期待に応えてきたクリスティール。


そのため、今回の要望にアルバレシア公爵はやや驚きはしたものの、深く考え込むことなく仕送りを送った。

再度頼んでも、アルバレシア公爵はまた仕送りをするだろうが……クリスティールとしては、本当に私情な理由で頼み込んだため、再度同じ事は行いたくなかった。


「んじゃ、あいつを探さないとっすね。五時ごろに正門で待ち合わせで良いっすか?」


「えぇ、それでお願いします」


「了解っす!!!」


用事は終了。


イシュドとガルフはささっと生徒会室から退散した。


「……会長。彼らを悪く言うつもりはありませんが、もう少し付き合いを考えた方がよろしいかと」

「どうしてかしら?」


「…………一部の間では、会長とあの一年がそういう関係なのでは? という噂が広まっています」


クリスティールが残り二人に確認すると、二人とも苦笑いしながら頷く。


「会長の今後を考えると、関わるのは仕事に関わる時だけの方が良いかと」


「私の今後、ですか……」


現在、クリスティールは誰とも婚約関係になっていない。


クリスティールほどの才色兼備がこの歳で決まっていないというのは、普通に考えてあり得ない。

騎士を目指す令嬢であっても、引く手数多の状態である。


一部では、他国との交友関係を強固なものにする為、王族と結婚する準備が進められている……などといった噂も流れている。


「私は……国の剣となり、牙と慣れればそれで良いと思っています。父も、今のところ誰かとの婚約を勧めてくることはなく、良い人がいればその人物と添い遂げても構わないと言われている」


「で、ですが、それでもです!!! 過去に変な噂が立てば、その良い出会いすら失われるかもしれません!!!」


「ネルス~~~、最近会長が構ってくれないからって、一年生に嫉妬し過ぎ~~~。そんなあからさまな構ってちゃんムーブ、今時流行らないよ?」


「だ、誰が構ってちゃんだ!!!! 私は真剣に会長の今後を想って!!!!」


半分程内心を同僚に見透かされ、頬を赤らめるネルス。

変わらず今日も生徒会は賑やかな雰囲気であり、職場としては文句なしの空気だった。

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