(ふっ……ふっふっふ。本当にガルフみたいな奴を見てると、血がどうたら高貴さがどうだの……それが身に付いてないでお前らどうすんだって連中がどれだけダサいか解るな)
アイアンアントと戦闘中のガルフの動きは徐々に……徐々に徐々に無駄がなくなっていく。
まるで将棋の最善手を選び続けるかの如く動き続け、最終的にアイアンアントを物理的に詰ませた。
「はぁ、はぁ……もう、動けない」
「お疲れさん。最後の方、マジで良い動きだったぞ」
イシュドとの戦いで、最後の方の動きを実戦出来たとしても……現段階では、相手になる事はない。
しかし、仮に自分と同レベルになった場合……といった想像を思い浮かべ、武者震いする。
(まっ、あの動きはあの動きでやりようがあるんだが、今ガルフにそこまでアドバイスしたら頭こんがらがりそうだな)
こうして二人は夕方過ぎまで探索を続けた後、最寄りの街で素材の売却。宿の予約と夕食を済ませ、爆睡。
よっぽど疲れが溜まっていたガルフは横になってからたった数秒でいびきをかき始めた。
「んじゃ、今日も頑張っていこうぜ」
「……っしゃ!!!!!!」
「ははは、良いね。気合十分だ」
翌日、まだ疲れが完璧に抜けてないものの……ガルフは気合で振り切り、二日目の休みも実戦実戦実戦休憩……実戦実戦実戦休憩を繰り返し、学園に戻ってきたのは時間ギリギリ。
「おはようさん、生きてるか?」
「……改めて学園のベッドって凄いんだなって思った」
まだギリ疲れは残っているが、予想以上の回復に驚きを隠せない。
授業が始まる前に食堂へ向かうと、相変わらずイシュドに……今ではガルフに多くの視線が集まる。
当然、良い意味での注目ではない。
(言いたいことがあるなら、輩一や二とか……マクセランみたいに面と向かって言やいいもんを……って、上にはペコペコして下にはデカい面を取る連中には無理か)
朝からがっつり肉のメニューを頼み、適当に空いている席に座ると……狙っていたかのように、二人の前の席にとある生徒が座った。
「やぁ、おはよう」
「……おはよう」
「君がイシュド・レグラ君で合ってるよね」
「そうだけど……あんたは「貴様ッ!!! その口の利き方を正せっ!!!!」……めんどくさ」
一応……一応イシュドは目の前の生徒が本当に誰なのか知らないものの、珍しくこれまで声を掛けてきた人物とは違い、クリスティールに近い感情を向けられていると感じ、対応しようと思った。
しかし、いきなり大きな声で両隣りの片方が口の利き方がうんたらかんたらと怒鳴り始めたため、イシュドは完全に無視して朝食を食べることだけに集中し始めた。
「ッッッッッ!!!!!! 貴様、私の話を聞いているのか!!!!!!」
「………………」
「ッ!!!!!!」
男の怒鳴り声を、更に無視。
ガルフは万が一の可能性に備え、食器が乗ったプレートを両手で持ち上げる。
「止めるんだ」
「し、しかし!!!!」
「私が止めろと言っているんだ」
「ぐっ……か、かしこまりました」
主人的なポジションの男子生徒が、暴走しかけた男子生徒を制しさせた。
(ふ~~~~ん……やっぱりか)
イシュドは本当に何も知らない情報から、自分に挨拶をして来た男子生徒の正体を探っていた。
「あんたが、俺たちの代の王族ってことか」
「ッ!!!!!」
全く経緯が籠っていないその話し方に、先程怒鳴り声を上げた男子生徒の怒りがすぐさま膨れ上がるも、今回は爆発しなかった。
「アドレアス・バトレアだ。よろしく」
「あぁ、よろしく…………それで、王族様が俺みたいな礼儀も作法も知らない生徒になんか用ですか」
「うん、勿論。私は君と友人になりたいと思ってね」
「「「「「「「「「「っ!!!!????」」」」」」」」」」
アドレアスの言葉に、食堂内で二人の会話に聞き耳を立てていた生徒たちは完全に固まり、イシュドの言葉に苛立ちを顔に出していなかったもう一人の家来的な生徒も表情が崩れていた。
そして……先程怒鳴り声を上げた男子生徒に関しては、色々と言いたい事があるのに言えないといった言葉が、面白い具合に顔に表れていた。
(なるほどねぇ……この人なりに考えての言葉なんだろうな)
アドレアスのストレートな言葉に、イシュドは思わずニヤリと笑った。
「嬉しい申し出なんだろうけど、お断りさせてもらうよ」
「「「「「「「「「「っ!!!!????」」」」」」」」」」
コントか、とツッコみたくなる程綺麗に驚く生徒たち。
当然、アドレアスの側近的な二人も同じく表情が崩れ……短気男子生徒に限っては、青筋が幾つも浮かんでいた。
「……一応、理由を聞いても良いかな」
「俺は俺の動きたいように動きたいんだよ。この三年間の学園生活……俺がやりたいと思った事をやって、楽しい思い出にする。仮にあんたが俺の交友関係に入れば……一応そうはいかないんだろ」
「…………」
「まっ、それでも俺は俺の動きたいように動くけど、それで困るのはそっちだろ」
他にも理由はあるが、今回の友達申請を断った第一の理由は、紛れもなく動きたいように動けないから、というものだった。
「君は…………凄いね」
「俺なんて、うちの実家の人間と比べればまだまだだよ」
「謙遜……ではないんだね」
「勿論。だからこそ、ぶっちゃけ学園に入学するのも最初は乗り気じゃなかったんだけどな」
二人はまるで昔からの知り合いのごとく朝食を食べ終わるまで会話を続けた。
「もし良かったら、今度一緒に夕食でもどうかな」
「二人分の夕食代を奢ってくれるなら良いぞ」
「安心してくれ。これでも王族だからね」
アドレアスは底を見せない笑顔でプレートを返しに行く。
そして……当然と言えば当然、短気男子生徒は去り際に射殺さんばかりの眼光をイシュドに飛ばした。
(ん~~~~……うちの騎士連中と比べたら、完全にドーベルマンじゃなくてチワワなんだよな~~~)
堪え切れず、その場で笑うイシュド。
隣で朝食を食べていたガルフは何が面白くて笑っているのか解らず……とりあえずイシュドの心臓は、メンタルは異次元なのだと改めて感じた。