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第16話 考えれる脳筋

「それじゃ、これをセッティングしておかないとな」


「? それはマジックアイテム、ですか?」


「そうだ。結界タイプのマジックアイテムでな。ランク七の逸品だ」


「っ!!!???」


武器やマジックアイテムなどはランクが上であれば上であるほど性能に優れている。


ランク七のマジックアイテムともなれば、伯爵家以下の貴族ではよっぽどの事情が無ければ買うのを躊躇うレベルの逸品。

ただ、イシュドは前世の知識を活かしてぼろ儲けしていたため、その財で事前に購入していた。


「よっと。これでバカが俺たちの部屋に入ってきても問題無しだ」


「部屋に入ってって……どういうこと?」


「真っ向勝負じゃ俺たちに勝てないと思ったバカは、俺たちを直接狙わず、俺たちに関わる何かを荒そうとする……多分だけどな」


学生が行う虐めの中に、本人を直接攻撃するのではなく、標的の道具などを隠す、捨てるといった陰湿な方法がある。


基本的にそんな事をすれば罰則の対象になるが……そこに貴族らしいやり取りがないとは限らない。


「この結界タイプのマジックアイテムをセットしたことで、そういったバカから俺たちの部屋を守るって訳だ」


「……なんだか、学園ってダンジョンみたいなんだね」


「はっはっは!!! 確かに言い得て妙だな」


本当に安全が確定されている場所でし休まらない。

それはいつ、どこからトラップやモンスター、もしくは同じ探索者が襲ってくる変わらない恐ろしい空間と同じと言えた。


「すいません、お待たせしました」


「終わったか。では行くぞ」


当然、どうせならという事で正門の前に行くまでの間もバイロンと共に校内を歩く。


「私はここまでだ。解っているとは思うが、校外では面倒な問題を起こさないでくれよ」


「短時間でバカが裏の連中を使って俺を始末しようとしてきたら……そうもいきませんけどね」


「……本当にあり得そうで恐ろしいな。考えたくもない」


バイロンと別れ、二人は約束通り正門で待っていたクリスティールの元へ向かう。


「おぅ、待たせたな」


「いえ、問題ありません。あなた達は一旦寮に向かう必要があるのですから」


「ははっ! 変な恋愛脳してなくて助かるぜ」


「? 良く解りませんが、それでは行きましょうか」


「あいよ」


「…………」


バイロンが隣にいる時はまだ落ち着きがあったものの、いざ学園の生徒の中でトップと言っても過言ではないクリスティールが隣にいるという状況に……ガルフは緊張し過ぎて全く口が動かなかった。


「にしても、他の連中は付いて来ようとしなかったのか? 生徒会がいるんだから、副会長や会計、書記とかいるんっすよね」


「えぇ、当然いますよ。そしてあなたの言う通り、彼らは付いて来ようとする前に、まず思い留まる様にと進言してきました」


「だっはっは!!! そりゃそうだろうな。頭で事情は理解していても、心が納得出来ないってのは良くある話だろ」


「そうですね…………しかし、意外ですね」


「何がっすか?」


「あなたがそこまで深く人の感情を考えるタイプとは思っていませんでしたので」


クリスティールは全くイシュドをバカにしているつもりはないが……結果として、イシュドのことをナチュラルに見下していると捉えられてもおかしくない。


「なっはっは!! ストレートに言うな~~。まっ、そりゃ脳筋一家の一員だし、俺自身筋肉は裏切らない!!! って思ってるタイプだから否定は出来ねぇな。それで、どうやって付いて来ようとした連中を置いてきたんすか?」


「普通に断っただけですよ。あなた達が付いてくる必要はないと」


「そっちもそっちでストレートだな~。あんたを心配する連中の気持ちも、あんたのその対応の仕方も理解は出来るがな」


「…………あなたは、何故そこまで感情について考えることが出来るにもかかわらず、あそこまであの二人を嬲り続けたのですか」


見つめるその眼に……冷たさはない。

ただ、真実だけを問う無機質さが視線を向けられていないガルフにまで圧を与えていた。


「そりゃあいつらが俺を辺境の蛮族だな、ゴミ屑蛮族だなんて暴言を吐いたからに決まってるじゃないっすか。最初の約束の取り決めっていうやり取りがあったのにせよ、その後にも悪意をぶつけられたんすから、こっちだって悪意をぶつけても問題無いと思いません?」


「……君のルールでいけば、法は意味がないということだな」


「あぁ~~~~……はっはっは! 確かにそうなるっすね。けど、実際にあれこれ言われたら普通に嫌じゃないっすか。んで、俺にはぶつけられた悪意に対して、悪意をぶん投げ返せる力がある」


「目には目を……歯には歯を、ということですか」


「そういうことになるっすね。まっ、学園のトップの先輩からすれば色々と言いたい事はあるかもしれないっすけど、俺は喧嘩を売られたら、キッチリ俺が美味しいと思える形で頂きますよ」


「…………そうか。むっ、どうやら話しているうちに着いたようですね」


「へぇ~~~~、中々良いところっぽいっすね」


「あわわわわわわわわわ!!!??? い、イシュド……ぼ、僕全然お金、持ってないよ」


今まで一度も見たことがなかった豪華すぎる内装。

窓から見れる中の光景に……ガルフは少し前に出来事をすっかり忘れてしまっていた。


「何言ってんだよガルフ。今日は生徒会長様の奢りだぞ」


「あ、そう……だったね、うん」


「約束通り、あなた達が食べる分は全て私が払います。遠慮せずに食べてください」


遠慮せずに食べてください……このセリフを数十分後、クリスティールは激しく後悔することとなった。




「流石高級料理店だ! どの、料理も、本当に、美味いな!!!!」


「僕、こんな美味しい、料理、初めて食べたよ!!!」


「…………」

二人はそれなりのテーブルマナーを守っている。


そのため、一応外から見ても汚くはない。

汚くはないのだが……とにかく、たくさん食べる。


「すいません!!! この料理三人前追加で!」


「あっ、こっちの料理をもう二人前追加でお願いします!」


「畏まりました。少々お待ちくださいませ」


食べるスピード、頼む量に驚かされはするものの……店で働く従業員からすれば、美味い美味いと言いながら食べてくれる二人は良客であることに変わりはなく、何人かは笑みをこぼしていた。


ただ一人……一応昼食を食べながらも、あまりにも早く消費されていく皿のスピードに絶望する者が一人いた。

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