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第13話 そっちで良いんだな?

高等部では内部進学生の数が多いが、それでも新しいクラスになる為、やはり最初の時間は自己紹介が行われる。


「イシュド・レグラだ。趣味は戦うこと武器集め、特技はモンスターをぶっ倒すことだ。よろしく」


「「「「「「「「「「…………」」」」」」」」」」


ガルフの自己紹介時にもあまり歓迎されない雰囲気ではあったが、イシュドの自己紹介が終わると……地獄の様な空気が流れる。


「はっはっは! やっぱ嫌われてんな~~。バイロン先生、こんなに嫌われてたら学園の何処にいても襲われそうっすね」


イシュドたちの担任であるバイロン・ガスタークは即座に否定出来ず、中々喉から言葉が出てこなかった。


「ふむ…………因みにだが、お前は他の生徒から好かれたいのか?」


「気に入った奴からは好かれたいっすね」


「そうか。そういう気持ちがあるのであれば結構だ、座れ」


「うっす」


他の生徒たちからすれば、今のやり取りのうちどこが結構なのか解らない。


「さて、解っているとは思うが、フラベルト学園は己を高めることを第一とする場所。無駄なことに意識を向けず、高めることに集中することをお勧める」


バイロンはいかにも貴族な雰囲気を纏っており、彼本人も侯爵家の出身ではあるが、意外にも思想やルールで他者を過度に縛ることを嫌う。


フラベルト学園は基本的に未来の騎士や魔術師を育成する学園ではあるが、それ以外の道を進むことも出来る。


「本格的な授業は明日から始める。今日はこれで解散だ」


ささっと切り上げられ、バイロンは教室から去っていく。


(さてと、とりあず寮の部屋に向かうか)


特別な例がない限り、学生たちはフラベルト学園の寮に入る。

当然、それは王族であっても同じだった。


「ガルフ、寮行こうぜ、って……なんだ、もう一度殴られたいのか、お坊ちゃん」


「ふざけるな!! さっきの本気だと思っているなら、見当違いも甚だしい!!!!」


「そのセリフ、そっくりそのまま返してやるよ。俺がちょっとでも魔力やスキルを使ったと思ってるのか? って……お客さんが多い日だな」


どのクラスも最初の挨拶等が終わり……本日、一番最初にイシュドの打撃を食らった第一の輩が勢い良く教室に入ってきた。


「いたッ!!! 貴様、今朝は良くも俺に恥をかかせてくれたな!!!!!」


「ちょっと~~~、冗談はよしてくれよ~。そっちがいきなり殴ってきたから、俺はただ正当防衛として一撃返しただけじゃないか~~。たった一発でお前がグロッキーになったのは、お前の鍛え方が足りないだけだろ」


退くという言葉を知らないイシュドが即反撃したため、また教室内でやり取りが行われるのではと思った生徒たちは一気に距離を取る。


「お前たち、止めないか!!!!!」


(おや、もしかして割と真面目な生徒もいる感じか?)


「戦いたいのであれば、訓練場で戦え!! 教室は悪戯に暴力を振るう場ではない!!!」


(…………うん、確かに間違ったことは言ってないな)


決してこれから起こるであろう喧嘩を止めるのではなく、ただここでは問題を起こすなと進言しただけだった。


「ちっ……しゃあねぇな。おいてめぇ、行くぞ!!!」


「えぇ~~~~、なんでさ~~~。俺、お前らと戦ったところで金とか得られるわけじゃないんだろ? なのに何でわざわざお前らとちゃんと戦わなきゃいけない訳?」


「貴様ッ!!! 嘗めた態度を取るのもいい加減にしろ!!!!!」


「ふん! 辺境の蛮族というの名ばかりの臆病者だったか。逃げたいのであれば隙にしろ!!!! 所詮、仮初の一位だったということだ」


「ふ~~~~~ん。ちゃんと負けた時の対価を用意したら話は別だったのに……良いぜ、戦ってやるよ」


噂の試験一位の蛮族と、彼と因縁があるであろう生徒が戦う。


この話は直ぐに広まり、高等部の一年だけではなく、高等部中に広まり……教師に見届け人を頼んだりと、あれこれ準備を行っている間に見物人があっという間に増えた。


(な、何人いるんだろう。何十人……どころじゃないよね。絶対に百人以上はいる)


現在、ガルフはイシュドが担任であるバイロンに頼み込み、バイロンの隣に座って試合が始まるのを待っていた。


「全く、本当に入学初日から面倒を起こしてくれたな。あいつは……」


「あ、あの。バイロン先生」


「何か質問か?」


「質問と言いますか……その、本当に一対二で大丈夫なのでしょうか」


イシュドは一対一を二回繰り返すのは面倒という理由で、輩ワンツーを同時に相手をすると宣言。

当然ながら輩ワンツーはブチ切れるも、なんやかんやでイシュドの言葉に乗せられてしまい、結局一対二という……数だけ見ればイシュドが不利な試合形式になってしまった。


「……あいつが、何故辺境の蛮族と言われているか知っているか?」


「へ、平民出身なのでそこら辺はあまり詳しくなくて……」


「それもそうか。イシュドのいる実家は、モンスターが大量に何処からか生まれ、他の場所へ散ろうと……もしくはレグラ家が治める領地を襲おうとする」


「げ、原因不明の大量発生というやつですか?」


「その通りだ。その原因不明が何十年……もう百年以上は経っているな。いつまで経ってもその原因すら解らない。しかし、各地に散ろうとする凶悪なモンスターを長年塞き止めているのがレグラ家出身の者たちと、レグラ家に仕える者たちだ」


「そ、そうだったんですね……えっ、でもそれだと……」


やはり……やはり解らない。


何故他の学生たちがそこまでイシュドを嫌い、侮蔑し、見下したいのか……全くもって解らない。


「誰かの頑張り、結果というのは……残念ながら、誰かの嫉妬や妬み、恨みを買うことになる。レグラ家は……言ってしまえば、常に戦果を上げている。他の貴族たちからすれば、この上なく面白くない存在ということだ」

「ッ…………僕には、全く……理解出来ません」


「そうだろうな。俺も理解しろとは言わない。だが、人にはそういった醜さがあるという事だけは覚えておけ。それを覚えているだけで、無駄なことで悩む時間が減る筈だ」


「わ、解りました……って、やっぱり一対二だと危ないですよね!?」


イシュドが輩を二人共一度瞬殺してした光景はしっかりと記憶しているが、本気に輩が二人同時……となると、不安になるのは致し方ない。


「……そうか。ガルフは生徒だから、知らなくて当然か」


「な、何をですか?」


「まぁ……あれだ。あまり偉そうなことを言える程俺もイシュドの事は知らないが、安心して観ていろ」


諸々の事情を知っているバイロンからすれば、今回の試合は出来レースと同じであった。

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